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「夢をみる島メドレー "2024"」は、ゲームへのリスペクトと愛に溢れた編曲だった

ゲーム音楽をオーケストラが演奏する、という当たり前のようで当たり前ではない風潮。
今でこそゲームの音楽のオーケストラコンサートが開催されることは稀ではなくなってきましたが、残念ながら昨今の新型コロナウイルスの拡大によって、その文化も一旦は陰に隠れざるを得なくなってしまいました。

そんな中、開催を予定していたNINTENDO LIVE 2024でのゼルダの伝説オーケストラコンサート(以下、ゼルコン2024)。残念ながら現地開催は中止となり、約5年ぶりのゼルコンもお蔵入りか…と思いきや、YouTubeで演奏を公開して下さるとのこと。

文明の発展と任天堂の粋な計らいに感謝してもしきれず、いよいよ京都に足を向けて寝られなくなってしまいました。

さて、2024年2月9日に、ゼルコン2024が動画公開されました。
セットリストは主にスイッチでプレイできるタイトルから選出されており、最新作「ティアーズ オブ ザ キングダム」のメインテーマから始まり、最後は「ゼルダの伝説」のメインテーマで終わる。
30分という長そうで短い時間でまさに今の「ゼルダの伝説」を象徴する、素晴らしい選曲・編曲・演奏・演出でした。

私が語るよりも早いので全人類聴いてください。

(「夢をみる島メドレー 2024」は9:00~)

現地開催は中止になってしまいましたが、まるでお客さんがいるかのような演出(演奏後に指揮者が奏者を立たせる等)に、思わず画面の前で拍手を送ってしまいました。
余談ですが、毎度ゼルコンで指揮を振られている竹本泰蔵先生、ゲームと曲と奏者とお客さんへの敬意がとても伝わってきて、楽しそうで、とっても良いですよね。

さて、そんなゼルコン2024のセットリストの中のひとつ「夢をみる島メドレー 2024」について考えていたら、「これほどまでゲームをリスペクトして愛に溢れた編曲があるのか!」と度肝を抜かれたので、この記事で深堀りしていきたいと思います。
ぜひ最後までお付き合いください。

※本記事は全て私の推測に基づくものです。

ここからが本題です。

ゼルコン2024で演奏された「夢をみる島メドレー」には、タイトルに"2024"がついています。
なぜ、わざわざ"2024"がついているのでしょうか?

それは、2018年に行われたゼルコンで初演された「夢をみる島メドレー」を、ゼルコン2024用に再編曲したものだからです。

2018年11月、ゼルダの伝説コンサート2018(以下、ゼルコン2018)が開催されました。当時は、スイッチとブレワイが発売され(2017年)、スカウォのリメイクが待望されていた時期でした。懐かしいですね。
そのような中セットリストに名前を連ねた「夢をみる島メドレー」。「なんで今更?」と多くの人が思ったはずです。私もその一人でした。

そんな疑問を晴らすかのように、年が明けて2019年2月のニンダイで、「夢をみる島」スイッチ版の発売が発表されました。
ゼルコン2018での演奏は伏線だったのか!!!と、驚かされたことをよく覚えています。これも私だけではなかったはず。

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スイッチ版「夢をみる島」と言えば、ゲームボーイ版の世界観はそのままに、今っぽいミニチュアグラフィックで生まれ変わったゲームリメイクの一つの最適解ともいえる作品です。
そしてその音楽も、ゲームボーイの所謂ピコピコ音楽を、室内楽のような雰囲気でまとめあげた素晴らしいアレンジとなっていました。

スイッチ版「夢をみる島」の音楽については、こちらの記事でとても詳しく解説・考察がされていますのでぜひご一読下さい。

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時系列をまとめてみると、こんな感じになります。

1993年 ゲームボーイ版「夢をみる島」発売 ピコピコ音楽
2018年 ゼルコン2018開催 「夢をみる島メドレー」初演
2019年 スイッチ版「夢をみる島」発売 室内楽的音楽
2024年 ゼルコン2024開催 「夢をみる島メドレー 2024」演奏

この時系列から分かるのは、「夢をみる島メドレー」2018版と2024版では、演奏の背景が全く異なっているということです。オケ2018版は1993年発売のゲームボーイ版のみが基盤である一方で、オケ2024版はゲームボーイ版とスイッチ版が基盤にあります
(とはいえ、オケ2018版を編曲している時には、スイッチ版の音楽も同時進行で進んでいたと思いますので、全く影響がなかったかというとそんなことはないと思いますが。)

2018版と2024版を具体的に比較してみます。

そもそもオケ2018版はどこで聴くことができるのか、ですが、残念ながらYouTubeも含め各種配信プラットフォームでは聴くことができず、CDを購入いただくしか手段はありません。
CDについての詳細情報は以下をご覧ください。

さて、オケ2018版と2024版を比較していきます。

オケ2018版の基本情報

  • 約11分

  • 8曲のメドレー
    セイレーンの楽器(まきがいのホルン)
    ~メーベの村
    ~フィールド
    ~ふしぎの森
    ~家の中
    ~タルタル山脈
    ~聖なるタマゴ ボス対決
    ~かぜのさかな(エンディング・スタッフロール ver)

  • 編曲者:亀岡夏海さん

オケ2024版の基本情報

  • 約4分

  • 3曲のメドレー
    セイレーンの楽器(まきがいのホルン)
    ~タルタル山脈
    ~かぜのさかな(エンディング・スタッフロール ver)

  • 編曲者:亀岡夏海さん

比較して分かること

曲の長さと構成曲だけを比較すると、オケ2024版は、オケ2018版の『セイレーンの楽器(まきがいのホルン)』『タルタル山脈』『かぜのさかな(略)』の部分を抜粋して繋げただけのように見えます。

NINTENDO LIVEでの30分のステージで、今のゼルダを、スイッチでプレイできるゼルダを象徴したステージを作る、さらに編曲コスト(金銭的な意味だけではなく)をかけすぎずに作る、となれば、「オケ2018版を短縮してオケ2024版を作ろう!」という方針となるのは容易に想像ができます。
編曲者の方が同じ、ということからも、それが伺えます。

実際に聴いて比較してみても、確かに既聴感のあるオーケストレーションで「あ、オケ2018版の短縮版ね」という印象を受けました
(もちろん、『タルタル山脈』と『かぜのさかな(略)』の繋ぎ部分は完全に新しいのですが、今回はそれはターゲットではありませんのでスルーします。)

しかし、聴けば聴くほど、私のその印象は全くの間違いであったことに気づきました。

そう、任天堂がそんな短絡的なことをする訳がないのです。
なぜこの曲を、なぜこの場で、何のために演奏するのか。隅々まで考えつくして、たとえプレイヤー(聴衆)に気づかれなかったとしても突き詰める。
気づかれない方が美しいとさえ思っているのではないかというほどに。
それが任天堂がこれまでゼルダの音楽でやってきたことなんです。

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繰り返しになりますが、オケ2024版は「スイッチでプレイできるタイトルの曲を演奏するNINTENDO LIVE」で演奏するための編曲です。
だから、ゲームボーイ版のみを基盤としたオケ2018版を短縮するだけでは、その役割を全うすることができません。スイッチ版へのリスペクトが必要なのです。

そう、「夢をみる島メドレー 2024」は、”2024”がつくにふさわしく、『スイッチ版「夢をみる島」へのリスペクトと愛に溢れた編曲に変わっていたのです。

オケ2018版とオケ2024版をもっと具体的に比較してみます。

それではどの部分にリスペクトと愛が込められているのか、もっと具体的に深堀りしていきたいと思いますが、オケ2024版だけを聴いていてはそれに気づくことはできません。オケ2018版から2024版に再編曲するにあたりどのような変更があったのか、が重要なのです。

ここからは具体例を4つ挙げ、説明・解説していきます。

『タルタル山脈』テンポアップ

オケ2018版ではBPM=約126~130だったのに対し、オケ2024版ではBPM=約140。楽譜による指示なのか指揮者からの指示なのかは分かりませんが、テンポがかなり上がっています。

ちなみに、ゲームボーイ版はBPM=約150スイッチ版はBPM=約140です。
オケ2024版とスイッチ版のテンポはほぼ同じですね。

オケ2018版のテンポ(約126~130)のままだと、今プレイヤーの頭の中にある室内楽っぽいタルタル山脈のイメージとかけ離れてしまうため、テンポアップしたのではないかと思います。
テンポアップが曲自体の軽さにも繋がっています。

『タルタル山脈』イントロ打楽器の変更

こちらの動画をご覧ください。

オケ2018版ではスネアドラムだったものが、オケ2024版ではスイッチ版に合わせるようにわざわざカスタネットに変更されているんですね~!
細かい!細かすぎる!!

『タルタル山脈』イントロ アーティキュレーションの変更

アーティキュレーションとは、音楽の演奏技法において、音の形を整え、音と音のつながりに様々な強弱や表情をつけることで旋律などを区分すること。

Wilipediaより

簡単に言うと、音符が4つ並んでいるときにテテテテと演奏するのか、タラララと演奏するのか、ということです。

こちらの動画をご覧ください。

「ソラシドレー」の部分が、オケ2018版では”たららららー”と演奏されているのに対し、オケ2024版では”てててててー”と、タンギングして演奏されています。これも、スイッチ版の室内楽っぽい音楽の雰囲気に寄せてのことだと考えられます。

オケ2018版を何度も聴き、ある程度頭に入っていた私でさえ、聴き比べをして初めて気づいた変更点です。
それだけ自然で、今の私(を含めたスイッチ版「夢をみる島」の既プレイヤー)の頭の中にある形のない『タルタル山脈』像に寄り添った変更であったということです。むしろ、”たららららー”と演奏されていたら「??」と引っ掛かりを覚えたかもしれません。

※スイッチ版『タルタル山脈』のイントロはスラーで演奏されていますので、直接的な模倣ではなく、あくまでイメージを寄せたものだと思われます。

『かぜのさかな(略)』GB版をリスペクトしたスイッチ版へのリスペクト

『かぜのさかな(略)』は、冒頭の『かぜのさかな』のフレーズの後、以下のフレーズの繰り返しで曲が構成されています。

楽譜読めないよ!という方はこちらの動画を聴いてみてください。

ゲームボーイ版、スイッチ版、オケ2018版、オケ2024版がそれぞれどのようにフレーズを組み合わせて曲が作られているのかを比較してみると、とても面白いことが見えてきます。
それを表したのが、以下の表です。

注目してもらいたいのは、オケ2024版では2018版にはなかったABパートがわざわざ追加されているということです。
スイッチ版には、ゲームボーイ版音声が使用されたABパートがあり、曲全体の中でとても特徴的な部分となっています。
オケ2018版では必要最低限の構成にまでフレーズがそぎ落とされていたのですが、オケ2024版では、スイッチ版のその特徴的な部分を残すかのように、冗長であるにも関わらずわざわざABが追加されているのです!

「オケ2018版を短縮して2024版を作ろうね」という方針であるにも関わらず、30分でステージをおさめなくてはいけないにも関わらず、わざわざ8小節・15秒伸ばしてまで、追加するほどのゲームへのリスペクト。

これだから任天堂は…!!!
というか普通気づかんて。なにやってくれてんの。大好き。

まとめます。

このように、「夢をみる島メドレー 2024」は、スイッチ版「夢をみる島」へのリスペクトと愛に溢れた編曲となっていました。

いやぁ、気づきませんよ。こんなの。
でも、だからこそ楽しい。

わざと気づかれないようにやってるのかと思うほど、こっそりこういう仕掛けが散りばめられているんですよね。そんな一種の美学を垣間見た嬉しさと、もっと隠れているんじゃないかというワクワク感と。

ゲームをプレイしていないときにもこういう気持ちにさせてくれる任天堂、本当にありがとう。

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YouTubeでは、ゼルダの伝説(主にブレワイ・ティアキン)の音楽について解説・考察等しています。
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