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「シャーロック・ホームズの回想」遊戯

「シャーロック・ホームズの回想」におけるエピソード順と二人の生活について考える。
 ワトソン先生、だいぶしっちゃかめっちゃかっすよ。
 この作業にあたっての注意事項は、「シャーロック・ホームズの冒険」遊戯に倣う。

 この他のシリーズについては以下。
「シャーロック・ホームズの冒険」遊戯
「シャーロック・ホームズの帰還」遊戯

以下、話の本筋、犯人、トリックに触れます。

凡例
発生年月 事件名(発表年月)
【本文における日付特定のヒント
人となりを知れるエピソード
自分が思い出すためのキーワード等】
感想
探偵物としてのジャンル


■発生時期の推定が困難な事件


不明 白銀号事件(92年12月)

【日付記載なし
■ホームズ
ある朝ホームズが「残念だが、行くことになりそうだ」と言い出すまで、一日中パイプに黒煙草を詰め込んで考え込んでいた
火曜の夜に電報を受け取ったが、すぐ発見されると思って出遅れ、木曜の朝出発
新聞を部屋の隅に投げ捨てるホームズ
ワトソンの双眼鏡を借りて最終的には競馬
耳当て付き旅行帽を被っているホームズ
ホームズは身を乗り出し、細長い人差し指で左手の平にチェックマークを書きながら事件の説明
ホームズ、人違いのふりをしてヒントを得る
■ワトソン
ワトソンから同行を申し出る
白内障メスをサッと見分けるドクターワトソン
ワトソンは依頼人のロス大佐の態度の悪さに若干イラッとさせられてる
■その他
大半をワトソンとホームズで連れ立って調査
グレゴリー警部の担当、この件で頭をいっぱいにしているが、ホームズを頼りにはしている模様
ホームズはグレゴリー警部を「非常に有能だが想像力に欠ける」と評価(ホームズにしてはおおむね高評価)】
ホームズが珍しくワトソンを連れまわすエピソード。依頼人のロス大佐の態度が悪かったからか、出遅れた自覚があったからかは不明。挙句の果てに依頼人の心配を放置して、驚かせる手法をとる。これがシャーロック・ホームズっぽさではあるのかもしれない。日付にかかわる記載がなく、時期の特定が難しいが、一日中一緒にいるので結婚前か。
事情を解明しトリックを暴くエピソード


早春 黄色い顔(93年2月)

【日付記載なし
事件不足の時期
■ホームズ
ホームズは目的のない運動はエネルギーの無駄遣いと考えており、運動のための運動はほとんどしないが、ボクシングは腕に覚えがある
食生活は極限まで質素で、日常生活はほとんど耐乏状態、退屈に耐えかねてコカインを打つ悪習がある
ぞんざいに推理を披露しつつも、ついてこれてるか確認するようにちらりとワトソンを見る
散歩中に依頼人が来ていたことを知ってワトソンを非難がましく見るホームズ
事件が片付いて帰宅してから、寝室に下がるまでこの件について一言も語らなかった
■ワトソン
「僕の理論についてどう思う?」と問われて「全部憶測だな」と突っ込み、ホームズを盲目的に信じているわけではなく、自分で考えている
■その他
ホームズは失敗したが真実が明らかになった六件の一つで、マスグレーブ家の儀式事件と並列
ハイドパークで二人、お互いを良く知る親しい友人としてほとんど会話もなく2時間散歩
息を呑むほど知的な美男子のアフリカ系男性との子ども
ノーベリ】
当時のアフリカ系男性のイギリスやアメリカにおける扱いを知りたいなと思わしめるエピソード。あの『ノーベリ』はこの『ノーベリ』なのである……そして確かに、この件のホームズは珍しく、想像だけを口にしていた。ホームズ、何か焦るようなことがあったのだろうか。ワトソンと2時間も無言散歩している間に依頼人が来たことを知って、喧嘩を売ってしまったことを、若干後悔か動揺でもしてたのかもしれない。日付にかかわる記載がないが、妻への言及もないので、結婚前か。
事情を解明するエピソード


数年前の10月 入院患者(93年8月)

【10月の雨の午後10時過ぎ
■ホームズ
いい風が出てきたからとホームズが言い出して3時間散歩、腕組みの挿絵
何も言わずにワトソンに帽子を手渡して同行させる
「こんな馬鹿者の用事に君を引っ張り出してすまない、ワトソン」
強硬症の詐病はホームズもやったことがある
朝七時半、ワトソンのベッド脇に立ってるホームズ
■ワトソン
ワトソンくんは依頼人の論文を読んでるが、相手は「医学界の方ですね?」程度の認識
■その他
ランナー警部が担当、有能そう】
ワトソンのベッド脇に立ち尽くすという独特すぎる起こし方をするホームズ。声をかけようとしたところに目を覚ましたのかもしれないが…まだらの紐でも同様の起こし方をしており、事件があった日の常態化している可能性もある。妻の言及もなく、結婚前かと推察できるが、判然とはしない。3時間の散歩はなかなか長い。黄色い顔事件では2時間の散歩をしてるが、やや伸びている。それにしても黄色い顔事件によると、ホームズは無駄なエネルギーの消費を避けていると述べているが、ホームズから散歩に誘うとはなかなか考えさせられる。ちなみにこの依頼人は、ホームズのことは知っているが、ワトソンの手記を読んでいるわけではない模様。
犯人のトリックを暴き、事情を解明するエピソード


不明年夏 ギリシャ語通訳(93年9月)

【ある夏の日、午後のお茶が済んだ後
■ホームズ
ホームズは親戚について語ったことも少年時代の話をしたこともなかった
ホームズは推理力は遺伝、謙遜は美徳ではないという考え
ホームズの祖先は田舎の郷士、祖母はフランスの芸術家ベルネの妹で、マイクロフトという七歳年上の兄がいる
ホームズもディオゲネスクラブは落ち着く場所だと思っている
巧妙な方法で窓の留め金を空けるホームズ
■ワトソン
ワトソンはホームズを孤高の天才、感情の無い頭脳、抜群の知性がある故に人間的共感に欠けた男、女性嫌いで新しい友人を作りたがらない、情動に乏しいと思っていた
ワトソンはホームズが親族全員に先立たれた孤児なのだと思い込んでいた
ワトソン「ちょっと訳が分からない」
■マイクロフト
安楽椅子探偵としては世界最高だが活力も野心もなく、いくつかの政府機関で会計監査をしている
ディオゲネスクラブの会員で、午後4時45分から7時40分までそこにいる以外は、家と職場にしか行かない
マイクロフトはシャーロックよりかなり背が高く肥満体、表情の鋭さがある
弟が全精力を傾けたときにのみ現れる内相的な眼差しが常に宿っている
二人を見送ったあと馬車で二人を抜かして221Bで待ち構えるマイクロフト
■その他
ディオゲネスクラブはマイクロフトも創始者の一員であり、訪問客の部屋以外では一切話をすることは許されず、三度違反が報告されると除名される
マイクロフトが相談を受けて新聞広告を打ったことで情報が漏れたことが分かり、拉致られる依頼人
グレッグソン警部の担当(まだ警視庁に持ち込まれておらず指名して呼び出した)】
マイクロフト・ホームズの登場。ホームズ自身や兄の人となり、生活スタイルにかかる描写が多い。ホームズもだが、マイクロフトも謎の解明のためには依頼人の安全を最優先はしない傾向がある。マイクロフトが推理力を仕事にせず政府の仕事についたのは、推理力を肯定される機会がなかったからなのか、数字に強いことを評価してくれる人に出会ったからなのか。推理力で助けた人が仕事を紹介してくれた可能性もある。クラブを創設できるということは、マイクロフトはシャーロックが思うより人脈ある可能性がある。
表層的には少し解明されるが、本質的な謎の解明がなされないエピソード。


■事件発生時期の推定要素がある事件


不明晩夏~秋 グロリア・スコット号事件(93年4月)

【ホームズが初めて手掛けた事件
ある冬の夜ホームズがワトソンに教えた
■ホームズ
大学の2年で唯一の友人ビクター・トレバー
当時フェンシングとボクシングのみ
トレバーのブルテリアに噛まれて10日寝ていた
夏休みの頭にトレバー宅に泊まりに行った
■その他
トレバーも友達がいない
トレバーの父親から探偵は天職と太鼓判
1855年が30年前(概算かも)
事件後トレバーはタライの茶農園へ】
ホームズがワトソンに勝手に話してよかったのか非常に気になるエピソード。結婚の前なのか、結婚後細君不在でワトソンがベーカー街にしけこんでいるときの話なのかが、いまいちはっきりしない。友人のいない者同士が友情を深めたようだが、この一件がなかったらホームズは友達なしで大学を過ごし、探偵としての能力を評価されるのにまだ時間が必要だったのかもしれない。ところでこの話でホームズ、ワトソンが飼っているというブルドッグには触れていない。たまたまかもしれない一方、癇癪持ちというのをブルドッグ持ちと表現するとも聞いたことがある。ワトソンが持ってたのはブルドッグの仔犬か、リボルバー式の銃か、キレやすい性質なのか。緋色の研究をまとめる際に改めて表記したい。
メインの謎は告白文によるエピソード


不明 マスグレーブ家の儀式書(93年5月)

【大学を卒業して4年目、三番目に持ち込まれた事件
事件自体はグロリア・スコット号の後
■ホームズ
几帳面で体系的、服装も地味目に整えるこだわりがあるが、非常にだらしなく、同居者をいらいらさせる
石炭入れに葉巻を入れたり、ペルシャスリッパの爪先に煙草を入れたり、返事をしていない手紙をジャックナイフでマントルピースの真中に突き刺す
壁に銃でV.R.の文字を撃つ
部屋は化学薬品と犯罪の記念品でいっぱいで、バター皿やもっと望ましくない場所から出てくる
ホームズは過去の記録を失うのを恐れるが、摘要作りは1〜2年に一度
目覚ましい快挙と倦怠期が交互に来て、倦怠期はソファとテーブルの間を移動するばかりで、書籍とバイオリンを周りに置いて横になっている
2時間ほど片付けに費やしたらと進言したら悲しげに寝室に消え、赤い帯紐で分類された書類で三分の一ほど埋まったブリキの箱を出してきた
いたずらっぽい目でワトソンに初期の事件を紹介、少しだけ語ったことのある話を教えだしたのが、この話
■その他
このあと緋色の研究時点では、すでにかなりの人脈があった】
基本的にはホームズよりはきれい好きなワトソン、いらいらさせられてる。
部屋を掃除するように言われ、悲しげに寝室に消え、わくわくしながら別の餌を抱えて戻ってくるホームズもホームズだが、それにほいほいつられるワトソンもなかなかである。ホームズの私物は、バター皿以外のいったいどこから出てくるのだろうか……特に言及はされてないが、ホームズが部屋を荒らすのをワトソンが非常に問題視しており、い ら い ら さ せ ら れ て い る ので、同居中のことと推察できる。
暗号を解読するエピソード


87年4月25日あたり ライゲートの大地主(93年6月)

【日付記載あり
4月14日過労で倒れ、翌日ワトソンが合流、3日後帰宅、その1週間後にヘイター大佐の客人になる
■ホームズ
ワトソンに濡れ衣を着せて冷ややかなホームズ
押さえつけられて「助けてくれ!人殺し!」と叫ぶ
『目が上に裏返り、表情は苦痛にゆがみ、低く呻いてうつ伏せに地面に倒れる』発作のふり
■ワトソン
最近起きた事件の謎解きを主治医ワトソンが制するも、翌日無に帰する運命だった
ミスを指摘されるホームズを見て心を痛めるワトソン
いつも何か新しいずる賢さでいっぱい食わされる
■その他
ヘイター大佐とホームズの間に共通点がある?
フォレスター警部の担当、「君と仕事ができるのは楽しい」とホームズ
筆跡の挿絵がポイントになる】
めずらしくもホームズが体調を崩している。仕事しすぎて体調崩すイメージは皆無なのだが、少なくともワトソンの見立てでは、過労で倒れたことがある。一般的な過労は仕事に忙殺されて食事も休養も取れない場合を指すためやや違和感がある。しかしホームズの場合の過労は「食事をとらない、休養も取らない」という自分の判断によって自分を追い込んだ結果である。また彼はかなり依頼をえり好みしているため、仕事に忙殺されて倒れたならば本望であろう。
犯人のトリックを暴くエピソード


不明年6月 株式仲買人(93年3月)

【結婚して間もなく、病院を買い取ってから三ヶ月
■ホームズ
甲高いちょっと耳障りなホームズの声
ワトソン夫人メアリーにも挨拶
アポ無しで遠距離捜査旅行に誘うホームズ(何もないかもしれない)
危篤の犯人を前に「どんな感じだ、ワトソン?」とワトソンの診断を仰ぐホームズ、医師としての腕を信頼か
謎の一部がはっきりせず、手をズボンに突っ込んで顎を胸に当てて突っ立っているホームズ
■ワトソン
先代の開業実績が傾いているのを、若さと活力でなんとかできると思っていたワトソン
昨晩もホームズとの事件の記録を分類していたワトソン
前の週三日ほど夏風邪をひいていたことを言い当てられるワトソン
隣も病院で、ワトソンのほうがいい方を確保し、何度かワトソンが代診している
■その他
依頼人はコクニーと呼ばれる階級
とっさのときに悪党を助けるベストメンバー
依頼人の偽物が就職し、依頼人を閉じ込める】
シャーロック・ホームズの冒険を読んだ際に「独身の貴族」が86年10月で結婚数週間前、ボヘミアの醜聞が88年3月で開業後疎遠になっていた時期と仮置きしているため、87年の出来事? しかしそれだとライゲートと整合性とれないし。ボヘミアからずらす必要ありか? ところで、若さと活力に頼るのは、一般的によくない傾向である。ワトソンはくれぐれも自分が過労で倒れることのないよう注意をしてほしい。ところで、ワトソンがホームズの声を耳障りと表現することがかつてあっただろうか。これが初めての訪問であることを考え合わせると、ホームズも緊張していたとも考えられる。とはいえその足で、突然遠距離旅行に誘う。それ以前に、何でもない用事でワトソンを訪ねることをしていなかったのは、ある意味ホームズらしい。結婚の祝福も開業の祝福もする気はないが、メアリーが素晴らしい伴侶を得たことは認める、くらいのニュアンスなのだろうか…
犯人のトリックを暴くエピソード


不明年夏 背中の曲がった男(93年7月)

【結婚から数ヶ月たった夏の夜
■ホームズ
11時45分にホームズ来訪、一人部屋があると言ってたね、と泊まりにきて翌日同行の誘い
ワトソンの推理をするのに、ワトソンの習慣を知っている点で有利
ベーカー街非正規隊浮浪少年シンプソンを使うホームズ
「もしこれ以上君を寝かさなければ僕が罪人になってしまう」
証人になってほしい、調査は済んでる
聖書の知識はある
■ワトソン
軍人らしいハンカチを袖口に入れる習慣
半分は狩りの気分、半分は知的な喜びのワトソン
■その他
「素晴らしい!」「初歩だよ」】
結婚から数か月なので、株式仲買人と同年か? 前回はちゃんと奥方に挨拶していたのに、今回は深夜にいきなり乗り込んできて誘いをかける。「もしこれ以上君を寝かさなければ僕が罪人になってしまう」は、深夜に訪う客人の台詞ではない。しかもこの時点ではそこまでワトソンが必要不可欠ではない。ただしこのあとワトソンが不可欠な展開になる。こうしたケースもあるため、名実ともにワトソンはホームズのそばにいなければならないのだろうか。
事情を解明するエピソード


不明年7月 海軍条約事件(93年10~11月)

【結婚した直後の七月
■ホームズ
実験を終えたホームズは、椅子に座り膝を立てて細い脛の前で指を組んだ
『バラとはすばらしいものですね』『神の徳の高さが花に現れている。花は人生に余分なもので、それを与えるのは神のみ、だから人はこの花から希望を得られる』
「ロンドンに戻るのは楽しいことだ」とホームズが言う
「僕の診療…」「君の診療が事件より興味があるなら」とホームズが刺々しく遮るのに「僕の診療は一番暇な時期だから一日や二日はなんとかなる」とワトソンが取りなすとホームズは期限を直す
ワトソンに依頼人をベーカー街まで連れて行って予備の寝室に寝かせ一緒にいてくれるよう頼む
ホームズはハドソンさんの食事を「それほど種類は多くないが、スコットランド女性のように朝食を工夫して準備できる」
盗まれたものを返すのに驚かせる手法をとる
■ワトソン
依頼人からの手紙を読み、妻もホームズに依頼を通してあげるべきだという意見で、朝食から一時間もたたずにベーカー街へ
依頼人の婚約者をワトソン曰く『顔の比率は少しずんぐりしているが、美しい褐色の肌、大きな黒いイタリア風の目、そして艶やかで量感ある黒髪』
見取り図がある
ワトソンはホームズのあらゆる気分に精通している
『僕はホームズと長い付き合いだ』『君はホームズさんをよく知っている』
■その他
「第二の汚点」「海軍条約文書」「疲れた船長」の三件で興味深く忘れられない月
「第二の汚点」ではパリ警察のデュビュク氏、ダンツィヒの著名な専門家フリッツ・フォン・ヴァルトバウムに説明
学生時代のワトソンの友人パーシー・フェルプスは、ワトソンとほぼ同じ年齢だが二年上級
遊び場でパーシーを追い回しクリケットのゴールに膝を打たせていた
彼はワトソンの記憶から完全に消えていた
「おたまじゃくし」フェルプスと呼ばれていた
パーシー曰く「その口ひげでは分からなかったかもしれない」
フォーブズ警部の担当、鋭いが全く反抗的な表情をした背の低い狐のような男で、警察をコケにしていると誤解してる間二人には冷淡だったが、説明するとさっと態度を改める】
六月は株式仲買人事件があり、そのときに結婚して間もなくでありホームズとの仕事は久しぶりだった表記があるため、その翌月か。バラの美しさを語るその口で、「あっそ僕との仕事より開業医のほうが忙しいならそっちに行けば」という意味の言葉を刺々しく語るホームズ。ワトソンもまだ開業して一年たってない時期と思われるのだが、ホームズを優先している。もしこの順序で合っているなら、ワトソンこそ5~6月あたりに夏風邪ひいてるし、夏は患者も減らなさそうなものだが。
犯人のトリックを暴き、事情を解明するエピソード


91年5月 最後の事件(93年12月)

【1891年5月6~7日の掲載記事
■ホームズ
1890年の記録はわずか3件、その後の事件でホームズは静かに暮らしていけるだけの貯えができた
1891年4月24日の夜に突然訪ねて、奥さん不在を確認して一週間ヨーロッパ旅行に誘う
モリアーティ大佐は犯罪界のナポレオンだ、と語る
素晴らしい旅行で、ホームズはずっと警戒していたが、過去最高に元気
「社会がモリーアティから解放されたら喜んで探偵業を終わりにする
ノートから破り取られた3枚の手紙は、いつも通り定規で測ったような行で、筆跡は明瞭、書斎で書かれたよう
「自分の結末が友人たちに苦痛を与えるかもしれない。特にワトソンに対して」
必要な証拠書類は整理棚のM、モリアーティと書かれた青い封筒に入っている
すべての財産を処分し、兄に預けた
■ワトソン
結婚して開業医を始め、ホームズとの関係が変化
ホームズの変装に騙されるワトソン
マイクロフトが御者をする馬車に乗るワトソン
荷物を残して列車を降り、その列車が去るのを悲しく見守るワトソン
最後にワトソンが見たホームズの姿は「腕を組んで滝つぼをのぞき込んでいる」姿だった
■その他
ジェームズ・モリアーティ大佐による、兄の過去を弁護する投書を見て、正しい事実を知らしめるため執筆を決意
モリアーティ大佐は非常に長身、額は白く突き出、目は落ち窪み、ひげはきれいにそられ、色白で、背は丸まって、爬虫類のようなしぐさで横に揺れていた
放火されるベーカー街
危ないから先に帰れというホームズと、元軍人としても旧友としても受け入れがたいワトソンと、30分話し合いワトソンが押し勝つ
偽手紙でワトソンを引き離したモリアーティ大佐】
マイクロフトが御者をする馬車に乗るなど、世界でもワトソンくらいしか許されないと思われる。この時点では、マイクロフトは弟が死出の旅になるかもしれない旅行にワトソンを誘ったのを見て「最期まで一緒にいたい友人ができたんだなぁ」くらい思ったかもしれない。電車で連れ去られたワトソンの荷物はきっと回収しておいてくれたと信ずる。



■ホームズ、モリーアティ、そしてワトソン


 モリアーティは自分の事件を邪魔され続け、ついに「堪忍袋の緒が切れた」。そして、当初はホームズを策略で追い落とそうとしたがうまくいかず、ついに己に恃んでホームズを亡き者にしようとしたのである。
 人ではなく自ら行動を起こしているところから察するに、自分だけは助かる自信があったのかもしれない。
 またワトソンを人質にとったりせずあっさり引き離してるのは、ワトソンのホームズにとっての重大さを浅く見積もり、「この私と同じくらい理論に冷徹なホームズのことだ、あの医者もどこかで身代わりにする程度なんだろう」と思ってたのかもしれない。
「手紙を書いておきたいんだ」とホームズが言い出したとき、モリアーティはどう思ったのだろうか。このような時に最期の言葉を託す相手がいるホームズを、モリアーティは意外な心持で眺めたのではなかろうか。
 ところでこの最期の手紙において、ホームズは「青い封筒にすべての証拠を収めてある」と書き残している。
 ここまでの発表作品で青い封筒が出てきたのは、さかのぼること処女作「緋色の研究」のみなのである(ホームズの帰還以後は現在置いておくとして)。
「緋色の研究」で、ホームズは青い封筒に入ったグレッグソン警部からの依頼文を受け取り、初めてワトソンとともに仕事をした。このとき事件の謎は解けたものの、すべてが明らかになったとは言えず、舞台に登場せずに終わった人物が数人あった。
 このなかに――例えば犯人が毒物を入手した契機となった「教授」や、犯人の仲間としてホームズのもとに乗り込んだ者に――モリアーティ教授やその仲間が含まれていたとすれば、どうだろうか。記録や記念品を残しておくホームズのこと。「モリアーティと接点を持つ契機になった封筒に、その証拠を封じて」おいても、おかしくないのではないか。
 もしそうであったとするなら、モリアーティとの戦いの歴史は、すなわちワトソンとの歩みとも言えよう。
 危ない旅路の最後にワトソンを呼んだのも、ホームズの認めざる「激情」によるものではなかったか。
 ロンドンでモリアーティの犯罪の証拠を青い封筒に収めながら、ホームズの胸には、この封筒を契機に初めてワトソンとともに解決した「最初の事件」が去来していたのではなかったか。
 私には、そう思えてならないのである。