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「シャーロック・ホームズの帰還」遊戯

「シャーロック・ホームズの帰還」におけるエピソードの生起時期と二人の生活について考える。
 最高潮にブロマンス。
 この作業にあたっての注意事項は、「シャーロック・ホームズの冒険」遊戯に倣う。また初出年月日について、再確認の必要あり。他のシリーズについては以下。
「シャーロック・ホームズの冒険」遊戯
「シャーロック・ホームズの回想」遊戯

 ネタばれ要素によって構成されているので、未読の方は注意されたい。


凡例
発生年月 事件名(発表年月)
【本文における日付特定のヒント
人となりを知れるエピソード
自分が思い出すためのキーワード等】
感想
探偵物としての方向性


■時期の特定が可能な話

94年4月 空き家の冒険(03年9月)

【日付記載あり
■ホームズ
ライヘンバッハの調査を「非常に同情的かつ非効率」と酷評
ライヘンバッハの数か月後(=91~92年)ワトソンの手記を興味深く読んだ
マイクロフトにだけ、必要な金を送ってもらうために秘密を打ち明けた
三年の間、何度もワトソンに手紙を書こうとペンをとったが、結局書かずにいた
ロンドンに戻るとベーカー街のハドソン夫人のところへまず顔を出し、部屋に戻り、ワトソンの座っていた椅子を見て想いを馳せていた
背中の曲がった老人に化けて、事件現場をのぞきにきたワトソンとぶつかる
正体がばれる危険を危ぶんで、不服そうな唸り声をあげて立ち去る
まさか失神するとは思わなかったホームズ、失神したワトソンを椅子に寝かせてブランデーを含ませ、椅子の上にかがみこんでいた
細く筋張った腕、顔は青白く、以前よりも鋭く細く見えた
再会して最初に話すのが「今夜危険な仕事があるが、協力してくれるか」
「悲しみを忘れるには仕事が一番だ、マイディアワトソン」
ロンドンの裏道に精通している
冷たい指でワトソンの手首をしっかりつかみ空き家の張り込みへ
昼間に失神させたのに懲りずに、偽の的でワトソンを驚かせようとする
言葉を挟もうとするワトソンに辛辣で、「三年を経てなお、辛辣な気質や、知性が劣るものへの短気さは衰えていない」と評される
張り込み中のアクシデントに、これほど動揺したホームズは見たことがなかった
犯人との邂逅を『旅の終わりは恋人のめぐり合い』と揶揄
犯人は通りから来るとにらんで、そちらに警部を配置し、自分は空き家からワトソンと経緯を見守る算段だった
いつもの部屋に入って、ワトソンにいつもの椅子に座ってくれるよう促す
各個人は先祖の進行を代表すると思っているが、固執するつもりはない
■ワトソン
ケンジントンで開業医をしていた
ホームズがいなくなった後も事件に興味を持ち、新聞を注意して読んでいた
ホームズが現れたのを見て、人生でただ一度の失神
「君の求めなら、いつでもどこにでも行くよ」という忠犬ワトソン
ホームズがいないあいだに悲しい死別があった
ポケットに拳銃、胸にスリルを抱いてホームズに同行
通りで張り込みをするレストレード警部たちを「どこかで見かけたような」程度の認識
空き家の隅に引っ張り込まれて「唇の上に彼の暖かい手を感じた」
ベーカー街のいつもの部屋を「いつになく整頓されていたが、いつも通り」で、図表、パイプかけ、ペルシャスリッパに煙草が詰め込まれている
■その他
レストレード警部が担当、「モルゼイ事件は君に似合わずよく解決した」と嫌味?を垂れるホームズ
「最後の事件」で出てきた空気銃が事件の鍵を握る
ハドソン夫人の助けを借りる珍しい展開
先月の3日に公表の禁が解けた
日本の格闘技「バリツ」でモリアーティ教授の手を逃れた描写
犯人をうつぶせにたたきつけるホームズ、ホームズの喉を掴んだ犯人の頭を台尻でぶん殴るワトソン
ホームズ探検記:結局チベットを旅行し、ラサに行き、ダライラマと数日過ごし、シガーソンというノルウェー人になりすまして探検記を書き、ペルシャ、メッカ、ハリツームのハリファのところに世話になり、南フランスのモンペリエでコールタール誘導体の研究に精を出し、その後この事件を契機に宿敵を捕まえて危険を排除できると察知してロンドンに戻った】
ちょいちょいBLかな?と感じさせる。唇に触れて「しーっ」とか、ブロマンス? これが?? 現代の価値観とはちょーっと違いますね??
ホームズが登場するまでと、空き家で待機する2部構成ではあるが、どちらにしてもミステリーっぽさはあまりない。
ワトソンの「悲しい死別」は、その後ワトソンがベーカー街へ戻っていることから、夫人のメアリーが亡くなったとみて良いだろう。多分。ワトソンが悲しみの淵にいるときにそばにいてやれない不甲斐なさをすこしは自覚してほしいものだ。いやむしろホームズがその淵であったわけか。
ところであちこち旅して国外にいたホームズは、どうやってワトソンの情報を得たのだろう…兄かな…
状況を整理する話。


不明5月 プライオリスクール(04年2月)
【完全に妄想だが、この時期と仮定すると、お金の流れが想像できる部分あり。詳細は後述】


94年半ば ノーウッドの建築業者(03年10月)

【ホームズが復活を果たしてから数ヶ月後
■ホームズ
ホームズ曰く「モリアーティ教授が死去して以来ロンドンは面白くない街になった(この数ヶ月は言うほど事件がないわけではなかった)
冷めた誇り高き性格のホームズは、大衆の賞賛という形式一切を常に忌み嫌い、彼の手法、成功、彼自身について何も公表しないようにとワトソンを非常に厳しい条件で制約し、この事件については今やっと解除さればかり
依頼人が冤罪にかけられていることを「ありがた…興味深い事件ですな」と口を滑らせかける
ワトソンに新聞を音読させるホームズ
危険なことがおきる心配がないから、とワトソンを連れて行かない
バイオリンを弾いて心を鎮め、ワトソンに「今度ばかりはレストレードが正しいかも」と意気消沈しつつ、気掛かりを打ち明ける
事件の調査に行った翌朝、隈の浮かんだ顔でイライラしていた
ホームズは極度に緊張したら食事を取らず、「今はエネルギーと神経の力を消化に使うのを容認できない」とワトソンの医学的抗議に答えたことがあるが、ワトソンは彼が自分の頑強さを頼みにして、完全な栄養失調でよろよろになったのを知っている
■ワトソン
ホームズの求めで私は診療所を売り払いベーカー街で同居
ケンジントンの小さな診療所を買いとったのはホームズの遠縁のバーナーという名の若い医者で、ワトソンがあえてふっかけてみた高い値段をあっさり受け入れたが、実はホームズが費用を持った。数年後、ある出来事で初めてその理由が判明
■その他
ワトソン曰く、依頼人は「ギラギラした目で気も狂わんばかりの震えて髪がボサボサで青白い若い男の依頼人。亜麻色の髪をし、顔立ちは良く、くたびれた冴えない服装をし、恐れおののいた青い瞳で、綺麗に髭をそり、か弱そうで敏感な口、歳は27歳前後、紳士にふさわしい服と態度」
レストレード警部の担当、「親愛なるレストレード、きみは素晴らしい資質があるが想像力が足りない」と煽られる
レストレードいわく「これまで一、二度警察に協力していただいて、ロンドン警視庁に対する貢献に借りがあります」と少なめ評価
レストレードは彼の許容範囲を超える経験で、このカミソリのような頭脳が自分には手に負えないものを切り裂く事ができると知っていた
レストレードがホームズをやり込めようとして、その仕返しにホームズも張り切る
「巡査の前ではお話できませんでしたが、ワトソン博士の前なら言っても構いません。これは今までで一番お見事でした」と素直なレストレード
警部の横柄な態度が突然、子供が先生に質問するような態度に変わるのを見るのが愉快なワトソン
燻し出されるお話】
ホームズの復活が94年4月なので、だいたいその年内か?
ワトソンがさらっと221Bに戻ってきているが、その経緯がバレた経緯に興味がつきない。
開業医をやめたワトソンの職業は、小説家か何かだろうか。
トリックがあまりに奇抜で、レストレードが完全にミスリードされたうえ、ホームズをバカにする……がゆえに、レストレードの記述が少し多め。
犯人のトリックを暴くエピソード。

94年11月 金縁の鼻眼鏡(04年7月)

【日付記載あり。
■ホームズ
激しい嵐の夜、大きな拡大鏡で、羊皮紙の消された元の文字を解読していた
馬車から人が出てきたのを見て「気の毒だが外に出なければならないようだ」、馬車が出たのを見て「まだ望みがある、待たせていないのならな」
鼻眼鏡から持ち主を推理
アルコールランプでコーヒーを入れてホプキンズにごちそうする
新鮮なアレキサンドリア煙草をすごい速さで吸い、灰をまき散らして隠れた人の形跡を暴こうとする
■ワトソン
激しい嵐の夜、最近の外科論文に没頭していたが、窓から外を覗いて馬車を発見
嵐の中を訪ったホプキンズに、ホームズの言葉によるとホットレモンを処方
■その他
ホプキンズ警部の担当で、ホームズのやり方を踏襲しようとしたが何も発見できなかった
ホームズの家に助けを求めに行き、暖炉前のソファーで仮眠
手書きの見取り図があり、推理の要になりうる
嵐が収まった翌朝は厳しく冷え込んだ
ホームズとワトソンが仕事を始めた当初、アンダマン島民を追いかけたことがあった
ロシアの革命者が事件に関与】
犯人を自殺させてしまう。ロシアの革命者がどんな人たちだったか、どんな人だと思われていたかの一助になりそう。
ノーウッドの建築家と似た話構成。
ホームズがアルコールランプというと、おしゃれなサイフォンより、理科室にある実験器具のイメージが出てくる。面白い謎があれば何もかも放置して飛び出していく印象のある現代ホームズ像に比べて、正典のシャーロック・ホームズは天気が悪ければ外に出たくないし、事件がなければ自分で実験したり書物読んだりして、そこそこ充実している。
ところで、一緒に仕事を始めた当初、アンダマン島民を追いかけたというのは、どんな事件だったのだろうか……。
トリックを暴き事情を解明するエピソード。

95年4月 孤独な自転車乗り(04年1月)

【日付記載あり、4月23日
■ホームズ
手袋をはめていない女性の手をとり、そして科学者が標本を見つめるように、非常に入念にほとんど感情を交えず調べる
サリー州境のファーナムの近くと聞いて「覚えてるだろうワトソン、あんな事件があったな」と話を振る
依頼人が彼氏の名前を出すと微笑みを浮かべる
ワトソンを調査に向かわせ、調査に怒涛のダメ出しをしつつ、「そう気を落とすなワトソン」と緩いフォロー
酒場に聞き込みに行って、裏拳を食らい左ストレートで返し殴り合い、「いかに楽しくても、サリー州境で僕が費やした一日は、君の一日よりもそれほど成果が上がったわけではない」これはフォローか?
ホームズが拳銃を持って事件の現場へ
強靭な支配的性格で場を制圧できる
■ワトソン
依頼人を「すらりと背が高くさっそうとした雰囲気の上品で美しい若い女性」と表現
ホームズに頼まれた調査を「なかなかうまくこなした」と思って、よくやったの一言くらいあるだろうと思っていた
調査にダメ出しをされてちょっとムキになるワトソン
座ることの多い生活で、運動がきつく、ホームズに100ヤードほど遅れをとる
■その他
1894年から1901年にかけてホームズは非常に多忙、ごくわずかのやむをえない失敗を除いて大部分を解決し、すべての事件をワトソンは完全に記録している
頭にひどいが骨までは達していない裂傷のある馬丁を「彼は放っておこう、どうしようもない」と放置する雇い主
気を失った女性と挙式したその現場で結婚が成立し終生縛られる描写と、「強制された結婚は成立しない」というセリフ
その後どうなったかの詳細はワトソンのメモに残っていない】
ホームズが復帰してちょうど1年目。
1894~1901年の7年、すべての事件を完全にワトソンが記録しているということは、この期間は221Bに住んでいたということだろうか。ワトソンの結婚が1886年あたりで、夫人との死別が94年だとすると、結婚期間8年。それより前を加算すると、ホームズと一緒の帰還は結婚期間より長そうだ。
ワトソンに辛辣なホームズと、運動不足がたたっているワトソン。実家の母と父はこんな感じだったなぁ……。
状況を整理するエピソード。

95年7月 ブラック・ピーター(04年3月)

【日付記載あり(7月最初の週)
■ホームズ
1895年はホームズの最盛期で、名声も依頼人の数も高まった
あくまで事件の質にこだわり、金のある依頼人を断り、貧乏人の調査をしていた
朝食前に肉屋の裏で、豚の死体を狂ったように銛でついていた
■ワトソン
被害者の妻と娘について描写が少ない(珍しい)
深夜に張り込みをしながら「ぞくぞくする興奮」
■その他
遺留品に船員関係のものが多く、関係者が船乗りであることがポイントになっている
ホプキンズ警部の担当、30歳くらいで地味なツイードのスーツを着て、胸を張った姿勢。ホームズからは将来を有望視されている
ホプキンズ警部はホームズのやり方を称賛し、弟子として尊敬していることを公言
ウィスキーやブランデーという選択肢があるのにラム酒を呑むのは船乗り】
事件自体はグロテスクというか、なかなか読みごたえがあるが、ホームズとワトソンの様子という点に限って言えばさらっとしている。
地の文で船員の性質を語るのにそれなりの文面をとっているので、この文章に出てくる諸々や当時のイギリスの交易状況を調べれば、日清日露戦争時代のイギリスにおける船文化が少しわかるような気がする。アザラシ革は主に北方民族が使用してきたものらしいが、当時のイギリスではどの程度普及していたかも、少し気になるような。
被害者の妻と娘について、ワトソンがあまり言及していない。身分の高い家じゃないからかなぁ……という思考を最後に。
事情を整理しトリックを暴くエピソード。

95年 三人の学生(04年6月)

【1895年、ほかの事件の関係で、ホームズとワトソンは大学のある街の図書館近くの家具付き下宿で数週間を過ごした
■ホームズ
イギリスの古い勅許状について面倒な調査をしていたが、目覚ましい成果を収めた
切り抜き帳、化学薬品、居心地の良い乱雑さを失い、居心地の悪さを感じていた
最初は「忙しいから」と依頼を断ろうとする
知性の問題で、肉体的問題ではないから、ワトソンの事件ではない、と言う
証拠がないのに学生を疑うわけにはいかないという依頼人に、「疑いを聞かせてください、証拠は僕が見つけます」という暴論
「一度間違いを犯した君が、将来どこまで登っていけるか、我々に見せてくれ」
■ワトソン
依頼人のソームズ氏が、普段から落ち着きのない人間だと知っていた
「喫煙と不規則な食事で追い出されるぞ、そして僕も巻き添えだ」とホームズに濡れ衣を着せられるワトソン
■その他
フォーテスキュー奨学金試験の前日、ギリシャ語試験の問題が漏れたかもしれない、という話】
ふざけて濡れ衣着せられた件を。赤裸々に書き残しているワトソン。
他の事件の関係で居を移し、論文を仕上げるほどの期間ロンドンを離れていることから、現時点で最も長く情報のない期間にこの件があったと推定。ところでどうして二人がロンドンを離れてこんなところで生活をしているのか、そのあたりもやや気になる。ワトソンが現地大学教授のことを知っているということは、ワトソン関係かな?
事情を解明して犯人を見つけ出すエピソード。

97年晩冬 アビ屋敷(04年9月)

【年代記載あり。冬の終わりという表記から、2~3月ころか。
■ホームズ
「黙って、服を着て来い!」とワトソンを捜査に誘う
馬車の中では分厚いコートに身体を埋めて黙りこくっていた
今は本当に忙しいが、いつかは犯罪捜査技術を網羅した教本を書こうとしている
何か発見して戸惑い、その気持ちを振り払おうとして何事もない口ぶりで話し、しかしまた考え込む(のをワトソンに見透かされる)
どうしも納得がいかず、考えていることをワトソンにつらつら話す
これまでの経験で一、二度、犯人を見つける事で、その犯人の犯行以上の害を与えてしまったと感じた事がある
ホプキンズ警部をつらい立場に立たせないために情報を控えた
女性が犯人をかばう様子に愛を感じた
「ワトソン、君が我が国の陪審員だ。僕は君以上に国民の代表としてふさわしい人間には出会った事がない」
■ワトソン
凍てついた朝、ホームズに肩をぐいっと引っ張られ、蝋燭をもって熱心に顔をのぞき込まれて目が覚める
起床10分で準備を済ませて馬車に乗り込める
ホプキンズ警部が持ち込んだ事件をすべて事件簿に入れているという点でいい審美眼を持っており、ホームズがワトソンに呈する苦言を埋め合わせるだけのものになっている
科学的課題ではなく、物語的視点から見ている、とホームズにチクチク言われ、「自分で書いてみればいいだろう」と刺々しく言い返す
被害者の妻を「これまで見たことがないほど上品な体つき、女性的な態度、そして美しい顔」「金髪に青い目をしたブロンド、やつれていなければ間違いなく完全に調和する肌の色」
■その他
ホプキンズ警部の担当、過去7回呼び出されたがすべて興味深かった
朝一で221Bを出て、駅で暖かい軽食
女主人が生まれたときから母のように付き添っているメイドを「昨今では見当たらないタイプのメイド」と評する
「俺は彼女の結婚を嘆かなかった。俺はそれほどわがままな人間ではない。彼女が俺みたいな相手と一緒になって人生を棒に振らなかったことを喜んだ」
最愛の女性を守るために、相手と一対一の勝負をした
その場でワトソンを陪審として裁判、犯人を告発しないことを約束】
気持ちのいい終わり方をするベスト3くらいに入れてもいいかもしれない。
叩き起こして同行させたワトソンが黙ってくれてるのをいいことにチクチク言いだすホームズ、人間性を疑われかねない。そんなホームズの内心の揺らぎを細かに察知しているワトソンは、もはやホームズの友達の域を出ているのではなかろうか。保護者かな?
最後、犯人は最愛の女性の結婚を嘆かず、幸せになったことを喜んだというのに、ホームズときたら……突然ワトソンを誉めだすんだ……まあそうだよな早朝にたたき起こしてディスられてもちゃんとついてきてくれるんだから、どこかで救いがないとな……。それにしても急にデレはじめてびっくりした。
トリックを暴き事情を解明するエピソード。


■時期の推定が困難な話


踊る人形(03年12月)

【日付記載なし
■ホームズ
ひときわ強烈な悪臭を発する生成物を抽出する化学実験をしながらワトソンの投資問題を考える
黒い冠毛と鈍い灰色の羽に覆われた不思議な痩せた鳥のよう
推理を「単純な話だな」と言われて不愉快そうになる
外出しようとするワトソンを「ここにいたほうがいい」と止める
暗号を解いている間、明らかにワトソンの存在を忘れる
事件解決のために現地に行くが、片づけたい化学実験も残っている
ニューヨーク警察局にウィルソン・ハーグリーブという友人がいる
ワトソン博士は「友人で同僚」
「人が考えることは、人が暴くことができる」
■ワトソン
サーストンとのみ、ビリヤードをたしなむ
ワトソンの小切手帳はホームズの鍵がかかる引き出しの中にある
おどる人形を「いたずら書き」と言う
依頼人を素晴らしい男性と評し、純真で率直、優しく熱意のこもった青い目と大きな魅力的な顔をしていると描写
依頼人の前では穏やかな態度のホームズだが、非常によく知っている間柄のため、興奮していることを見破るのは難しくない
■その他
ノーフォーク警察のマーティン警部が担当、ホームズの捜査を邪魔しない分別があり、捜査が進むにつれホームズの言うことを何でも聞こうという気になっていく
依頼人が殺されてしまう
犯人の台詞「彼女はケガをしていないと言え!」(cf.三人ガリデブ)】
不快臭を発する実験は喚起しながら実施した方がいいと思う。
日付の記載がまったくないが、ワトソンの行動をちょいちょい制約しているので、同居中か。
「ノーウッドの建築業者」で開業医をやめた当時のワトソンの職業に想いを馳せたが、ホームズいわく「同僚」なので、諮問探偵助手とかになったのだろうか。
愛する女性を心配する男の台詞を読んで、「三人ガリデブ」を思い出してしまった。あの話で同じようなことをホームズがワトソンに言ってなかったか。
本誌の挿絵から暗号を解読するエピソード

プライオリスクール(04年2月)

【年代不明、5月13日に失踪して3日後に依頼。
■ホームズ
子どもを見つけたら5000、犯人を挙げたらさらに1000ポンドと聞いてやる気を出すホームズ
複雑で異常な事件に執着する、とワトソンに言われている
「ワトソンと私のような老練な猟犬」
42種類のタイヤのあとを詳しく把握している
「私はお金がないものですから」と賞金を満額もらって満足気
■ワトソン
入るなり倒れた依頼人をさっと診察するワトソン
人の顔を見て「彼は間違いなく悪党だ」
■その他
暖炉の前に熊皮の敷物を敷いている221B
疲労と空腹で、来るなり失神する依頼人
公爵の子供10歳が、隠し子の兄に誘拐された事件
手書きの地図が出てくるが、状況は口頭でも説明される】
白銀号事件同様、失踪した形跡を追う話。以前出遅れたからか、3日の空白をかなり痛手とみている模様。
賞金の金額で依頼に対する姿勢が変わる、かなり珍しい話。
以下妄想であるが、ホームズが大きな出費をする話はほぼない。賞金の多寡で仕事を受けるか決める話もほとんどない。そしてこの話、年代は不明だが5月である。なんでそんなにお金が必要だったのだろう。……ハッもしかして94年か? このお金を元手にケンジントンで売りに出された開業医の家を親戚に買い取らせたのか? というわけで、この事件は94年、「空き家の冒険」と「ノーウッドの建築家」の間ではないかと想像している。
事件を解明しトリックを暴くエピソード。

犯人は二人(04年4月)

【日付記載はないがかなり以前で、関係者は全員死亡
■ホームズ
犯人を招いておきながら、午後遅くからワトソンと散歩に出かけ、六時頃やっと戻ってくる
「神よ、秘密と名声がミルヴァートンの手に握られた男を救いたまえ!さらに女をもっと救いたまえ!」(何言ってんだ)
これまで仕事上で50人の殺人鬼と対峙しなけれればならなかったなかで最も嫌悪感を持ち、ここまで感情をむき出しにするのをワトソンはほとんど見たことがなかった
「ワトソン博士は友人で協力者です」
怒りと屈辱で青ざめるホームズ(過去には顔を赤くする描写もあり)
両手をズボンのポケットに深く突っ込んで、顎を胸に当て、立ち尽くして考え込む
変装してクレイパイプ片手に出て行く
「僕が婚約したと聞けば興味が湧くだろう?」「ホームズ!それは、おめで…」と祝福されかけるホームズ
偽の婚約を咎められ「どうしようもないな」と肩をすくめる
押し入りに同行するというワトソンに「長く一緒に暮らしてきたんだ、同じ監獄で果てるのもいいかもしれないね」と折れるホームズ
かねがね「自分は有能な犯罪者になれたかも」と考えていた
小綺麗な革ケース入りの最新侵入キット、ニッケルメッキのカナテコ、ダイアモンドが先についたガラス切り、万能鍵、整備済みのダークランタンまで持っている
夜目が効くホームズ
ホームズの特別な趣味「金庫破り」
緊張するワトソンの手を握って安心させるホームズ
■ワトソン
犯人を帰すまいとするホームズに協力して逃げ道をふさぐ
敵の家に押し入るというホームズの言葉に最悪の状況を想像するワトソン
ホームズの決意を聞いて「やるしかないな、いつ出掛けようか」「僕を連れて行かないなら警察に駆け込むぞ」とホームズを脅しにかかるワトソン
侵入に備えてワトソンが黒絹でマスクを2枚作る
危険を喜び、鋭い興奮を持ってこの危険に従事するワトソン
もし侵入に気づかれたら、飛び出して大きなコートをかぶせて拘束し、あとはホームズにまかせるつもりだったワトソン
目の前で事件が起きた瞬間飛び出そうとしてホームズに止められたワトソン
庭師に捕まり、中背で屈強な体格、四角い顎、太い首、口髭、目にはマスクと描写されるワトソンに、「かなり曖昧だな、まるでワトソンの人相だ」とうそぶくホームズ
■その他
二人の経歴のなかで、二度とない体験
ホームズとワトソンは観劇好きの二人連れが家に帰るところに見えるよう正装して出発
肩を寄せ合って同じカーテンの隙間から外を覗く
6フィートを超え2マイルを走って逃亡
レストレード警部の担当】
偽装婚約しちゃうホームズ、ホームズの結婚を祝福しかけるワトソン、押し込みにつれていかないなら警察に垂れ込むぞとホームズを脅すワトソン、二人監獄に入るのもいいかもしれないとデレ倒すホームズ、いつでも押し込みできる用意がなぜか整っているホームズ、パンクでわくわくしていて逃亡中に庭師に捕まりかけるワトソン、なんかずっと手を握ってるホームズ……
もう何から突っ込めばいいのか分からない。
ホームズを脅して折れさせるなんて後にも先にもワトソンだけだと思う。アイリーン・アドラーの写真は鍵付き引き出しに収まってる(ボヘミアの醜聞)かもしれないけど、同じ引き出しにはワトソンの小切手帳が入ってる(まだらの紐)しな。
「花婿失踪事件」において、「思索に没頭するときは油の回った黒いクレイパイプを使う」らしいので、この結婚詐欺中も思索に没頭していたのだろうか。
冒険譚。

六つのナポレオン(04年4月)

【年代の表記なし
■ホームズ
暑い日にバターにパセリが沈む深さから事件を推理したことがある?
調味料入れに新聞を立てかけて読みながら遅い昼食
鉛入りの狩猟鞭がお気に入り
レストレード警部から熱い称賛を受けて、これまでになく感動していたが、すぐに冷静に戻った
■ワトソン
寝室で着替えてる最中にノックされホームズに事件に誘われる
犯人に噛みつかれかける
■その他
レストレード警部の担当、レストレードが来ると警察本部の状況を詳しく知ることができるのでホームズは歓迎
この日は天気や新聞のことを話していた
夜の仕事に取り掛かる前、221Bのリビングの長椅子で仮眠をとるレストレード警部
上流のロンドン、ホテル街のロンドン、劇場のロンドン、文学のロンドン、商業地のロンドン、海のロンドンというロンドンの側面を示す表現
イタリア人、ドイツ人等、イギリス人以外の登場が多い】
紛失したものを探すエピソードとしては、青いガーネットに似たストーリー。
とうとう着替え中のワトソンの寝室に立ち入ったホームズ。ブランクを経て再同居を始めた二人の間に距離感などない。
事件に立ち会ってしまった記者が絶妙にコミカルで面白い。事件をモノにしたいという情熱には感服する。
事情を解明するエピソード。

スリークォーターの失踪(04年8月)

【日付記載あり、ただし曖昧。
7、8年まえの2月。1896年か1897年か?
■ホームズ
普通の状況下ではもうコカインを使うことはない
仕事のない時期、禁欲的な顔がやつれ、目つきが陰気になっていく
アマチュアスポーツについては知識が及んでいない(ホームズの出る幕がない)喜ばしいことと表現
身分の低い目撃者を安心させる技術の達人
守銭奴で不愉快な老人に、わざと危険をほのめかして、殊勝な態度を引き出す
馬車を自転車で尾行したが、結局「先に行ってほしい」と巻かれる
レスリー・アームストロング医学博士を、率直で公明正大と評する
注射器を持っているのを見て狼狽するワトソンに、笑って注射器をテーブルに置く
■ワトソン
仕事が閑散として不活発な時期はホームズにとって危険だと経験から学んでいた
何年もかけて、ホームズの薬物依存を和らげてきた
事件の依頼の電報を感謝
有名ない医科大学部長・医学博士の名前を知らないほど、医学界との接触を失っていた
今夜はさえてるな、と珍しく褒められる
ホームズが注射器を持っているのを見て最悪の事態を想像し、狼狽
■その他
ホプキンズ警部の紹介
手書きの吸い取り紙の図がある(参考程度)
レスリー・アームストロング医学博士は、モリアーティ教授に匹敵する才能の持ち主
尾行に失敗して犬に追跡させる】
依頼人に依頼されたことははっきりさせたが、その結果を依頼人に伝えるでもなく、何をするでもなかった時点で、ホームズが何をしたかったかよく分からない。結局どうしたんだろうか。
ワトソンにとってこの事件は、「このまま事件がこなかったらまた薬物に手を出すのでは、と危惧していた最中、ホームズが注射器を持っていた」という印象が強かったのだろう。友人としては最大限にホームズのことを気遣っていると感じる。
事態を解明するエピソード。

第二の染み(04年12月)

【日時不明、意図的に伏せているが季節は秋
■ホームズ
この作品が公開された時点で、ホームズはサセックスで養蜂の研究をしている
自分が事件を解決することを公表するのに抵抗を示すようになってきた
「女性は君の担当だ」と言いつつ、観察した結果をワトソンに披露する
過去に「鼻にパウダーをはたいていない」というだけの理由で光を背にした女性に、疑義を抱かせられた経験があるホームズ
意見の捜査中、友人なら無口、それ以外なら不機嫌という雰囲気
ひっきりなしに煙草を吸い、バイオリンをちょっと弾き、物思いに耽り、不規則な時間にサンドイッチを貪り、たまに問い掛けてもほとんど答えない
事件が進展せず、関連性も分からず、警察も含めて誰もが敵だ、とワトソンに話す
女性をかばうためにかなり無茶をし、いたずらじみた方法で事態を収拾
■ワトソン
事件簿の公開はしないようにと言われたが、この件は前々から公表する約束だったと抗議し、許可をもぎ取った
国家の存亡にかかわる問題にサラッと同席しているワトソン
何気ない一言でホームズが驚いたことに歓喜
関係女性を「ロンドンで一番美しい女性、不思議で繊細な魅力と、美しい色合いの素晴らしく整った顔立ち」「女王」と表現したが、巡査は「きれいな顔立ちでした、人によってはとびきりの美人だというでしょうね」
■その他
レストレード警部の担当、ワトソンが「ブルドッグ顔」と表現
細長い水色の封筒に入った書簡が紛失した事件】
またも水色の封筒に入った書簡である。ホームズの事件の節目には水色の封筒が出がちである。
英語における”bulldog”は、頑固な人、勇敢で粘り強い、という意味がある反面、日本語で言うところの「ちんくしゃ」に近いスラングの意味もあるらしい。レストレード警部はどっちかというと頑固の部類なんだろうが…どうなんだろう……
ワトソンの誉め言葉については、巡査の評価とはやや異なる模様。
トリックを解明するエピソード。


総評と感想と妄想

・ホームズはちょいちょいワトソンをディスっている。ホームズとしては犯罪捜査学の教科書になるものを求め、科学的知見に基づいた本を期待していたが、ワトソンはホームズと彼を取り巻く事件の物語を書いているつもりだったということだろうか。しかしホームズは、ワトソンが書いているのが「伝記」だと認識しているので、そんなに科学的精密さを求めないであげてほしい。
・ワトソンが褒めたおす女性は、上流階級で優雅に暮らしているケースが多い。そういった人たちがおおむね綺麗だからなのか、ワトソンが雰囲気込みで女性を見ているからなのかは、もう少ししっかり考察してもいいかもしれない。とりあえず女性に対して甘いのは事実だが、案外ホームズも女性に対しては一歩引いている。当時の紳士観を踏まえるにしても、もし現代にいたら「ブロマンス」の一言では突っ込み切れない。ワトソンが「僕はゲイじゃない」と否認しても無駄。
・ワトソンは、ホームズにとって友人で自分の伝記作家で信頼できる仲間で同僚で協力者で、ホームズとワトソンは二人とも老練な猟犬で、ホームズが出会ったなかでも国民の代表として陪審席に座るにふさわしい。うーんこの。ちょっとデレすぎ。他に友人がいない人にこんなに懐かれると、逆に心配になる。
・「プライオリスクール」は賞金に貪欲なホームズがどうしても違和感があって、初めて読んだ頃の私にはしっくりこなかった。が! いまこうして時系列整理しながら読んでると、少し見方が変わった! やはりホームズは基本的にお金に困ってないし、質で事件を選んでいる。じゃあなぜこの話だけ、賞金に心動かされたのか。一体何にお金がそんなに必要だったのか。同じ本の中で、ホームズが大きな出費をした話があることを踏まえると、このとき彼が賞金を必要としたのも自然と頷けるのだ。

遠縁の医者の若者をして、ちょっとお高めに設定されたケンジントンの医者の家を買い取らせただろ!!

こうしてホームズとワトソンは、ベーカー街221Bで仲良く暮らしたのでした。