週刊ヲノサトル vol.8 (2018.11.19-11.25)

11月19日(月)

■ どこで読んだか忘れたけど。江戸時代の職人は「稼いでちょっとお金が残ったらまず良い道具を買え。もうちょっと残ってたら服を買って身なりを整えろ」と言われていた、という話が記憶に残ってる。

「宵越しの金を持たないのが江戸っ子」なんてカッコつけつつも、入金を使い果たしたすだけでは「次」がないから、「次」を呼び寄せるためには、道具をアップデートしてより良いプロダクトを提供することも、外見をアップデートしてクライアントの期待を高めることも重要だと、江戸っ子は知っていた。

身なりと言えば好きな話がある。ハリウッド映画業界のプロデューサーたちはなぜみなダークスーツに身を包んでいるか? イカサマな稼業だからだ。イカサマな稼業がインチキな格好してたら誰も出資してくれない。だからスーツなのだという。

ちなみに現代でもたとえば音楽家なんかはだいたいお金が入ると今いるわけでもない楽器を買ったりスニーカーを買ったりして報酬を使い果たす人が多いように見受けられますが間違っていたらごめんなさい


■ 来春1月4〜6日の Co.山田うん『十三夜』前売が始まりました。
13人のダンサーによる甘美な幻想の世界。当方が全曲を手がけた2014年作、待望の再演となります。 Co.山田うん 公式サイト


■ 他人に興味がないと、あらゆることに優しくなれるよね。いや単に無関心なだけなんだけど。逆に夫婦別姓を否定する人とか他人の性指向に口出しする人とか、よくそこまで他人に介入する元気とヒマがあるなって感心します


11月20日(火)

■ 「カタストロフ」と聞くと自動的に 1970年代の同名映画 を思い出してしまう映画脳ですが、展覧会はそこまでカタストロくなかったな


■ CM音楽の大先輩に、機材運びとしてついて行った。スタジオにシンセを十何台も並べるのを見て「これ全部使うんですか?」と訊いたら「そんなわけないだろ。でも大金払う側は、なるほどこれは金がかかるなと、目で見て納得したいんだ」と言われた。ソフトシンセが普及するはるか以前の昔話である


■ 笑顔は才能ではなく努力だ。コンビニの店員さんに、タクシーの運転手さんに、エレベーターで乗り合わせた見知らぬ人に、理由はなくても「どうも」とか声をかけてチラッと笑顔を見せる努力をしてないと、いつのまにか仏頂面の不機嫌そうな人間になってしまう。何しろそっちの方が「素」だから。自戒。

笑みが必要だ。人を貶めてほくそえむような下衆な笑いではなく、たとえばおいしいものを口にした時しぜんに口元に浮かぶ、ほっこりした笑み。いい音楽を聴いたり、素敵な絵を目にして思わず顔がゆるむような、静かな笑み。それがこの国にはたくさん、たくさん必要だと思う


■ 教材チェックでうちにあるルパン三世ボックスセットを次々に再見してたんだけど、宮崎駿氏が別名義で監督したシーズン2最終話『さらば愛しきルパンよ』の完成度の高さに、あらためて泣いた…


■ 好きな映画を訊かれると「あれも…これも…」と答えづらいが、『蜘蛛女のキス』『未来世紀ブラジル』『ショーシャンクの空に』あたりは欠かせない。いずれも現世の過酷を「想像力」で克服しようとする話だから。映画は…いや全ての創作物は、想像力のエクササイズ。現実に立ち向かう力をくれる栄養源。

とか書いたけど、くりかえし観ちゃうのはジャック・タチとかエリック・ロメールといった監督の、どーでもいい時間が流れてクスッと笑うだけみたいな映画だったりもする。その時間に身を浸してるのが気持ちいい、温泉浴みたいな映画だ。

一方で、ストーリーがあまりによくできているから年に一回ぐらい観たくなる映画も存在する。個人的には『アパートの鍵貸します』とか『ミッドナイト・ラン』とか。

まあテーマパークのような映画も、風呂のような映画も、いいもんですよね。映画に貴賎なし。映画に貴賎なし。(2回言いました)


11月21日(水)

■ 今日はスーパーマーケットで特売になってたブ厚いステーキ肉を焼いた。
「どうだい、いつもの薄っぺらい肉とはちがうだろ?」
「たしかにパパの人生とはちがうね。薄っぺらいパパの人生とはね…」

#息子氏の正論


■ 苦手な文体をひとつだけ挙げるとしたら、動物を擬人化して語らせる文脈で出てくる「〜だワン」とか「〜だニャー」という語尾だ。

そういう意味では、毅然として「我輩は猫である」と語らせた漱石のセンス、好きである。


■ 
「パパ、血を吐いたことある?」
「ない」
「そういうイメージあるんだけどなー」

#息子氏の質問


■ 寂しい時や悲しい時は、とりあえず寝ちゃおうじゃあないか


■ ツイッター見ていて思うけど、世の中には「自分の宣伝がしたいだけの人(=自分にしか興味がない人)」ってのが確実にいるよね(音楽家にわりと多い)

ツイッターって基本的には「善意」のメディアだと思うんだよね。良かれと思って様々な情報を発信する。それを良かれと思って拡散する。そんな連鎖のメディア。自己宣伝もアリだけど、宣伝以外の「善意」がいっさい見えないアカウントには、冷めるよね

まあリアルライフでも、自分の話しかしない「俺が俺が」な人はけっこういるから、ネットだけの問題というわけでもないんだけどね

とはいえ当方のように、息子氏とのばかげた会話とか焦がした料理の写真とかを公にさらすのが果たして「善意」かどうかというのは、大いに疑問ではある


■ 5時間ほど前に洗濯機が洗濯を終えたことを今ふと思い出した


11月22日(木)

■ 今朝は「お前らが思うカッコイイポーズを教えろ」タグの厨二感が炸裂してるな(ほめてる


■ 撮影されているところを撮影されてしまった

朝から3コマの大学業務…からのブラックベルベッツのライヴ営業でさすがにHPほぼ無くなったけど、主催者さんにはことのほか喜んでいただけたようで何より


■ あやしまれない理由がない

そんなあやしい明和電機の社長と、来春1月25日に対談します


■ 子供の頃『魅惑のスクリーンミュージック全集』みたいなレコードを買ったらサウンドトラックそのものじゃなくて、サントラ曲を「なんとかオーケストラ」が演奏し直した音源だったので、とてもがっかりしたのが忘れられない。その「曲」ではなく、あの場面で聞こえたあの「サウンド」が聴きたかったのだ


■ 息子氏は左ききなので、手がぶつからないよう右ききの僕は右側に座ることが多い。だからといってべつに不自由はないし、まして彼を右ききに矯正しようなどとは全く思わない。ふーん…人間にはなんで「きき手」ってあるんだろうなあ…と逆に楽しく感じる

誰しも「きき手」がある。使いづらい手で絵を描くよりも、使いやすい方の手で描けばいいだけのことだ。そうやって楽しく絵を描いてる人に「それは間違っている。こっちの手を使え」なんて押し付ける権利は、誰にもない。たとえば性自認や性指向についても、そのように考えている。

世間は多数派のために設計されているので「左きき」は不便や不遇を強いられる。だが歴史を振り返ればそんな「左きき」の仕事こそが世の中にインパクトを与え、歴史を動かしてきた。手前味噌ながら、拙訳 『未来の<サウンド>が聴こえる』 に出てくる電子音楽の発明家たちも多くはそんな「左きき」たちだ


11月23日(金)

■ 昨夜は『ボヘミアン・ラプソディ』を観たギタリストのテラシィイ先輩(仮名)が「映画に感動するよりも話のいたるところ『バンドあるある』すぎて身につまされた…」としょっぱい表情で語っておられたよ

ショコラータ、スリル、スカパラなどレジェンダリーなバンドに在籍してきたパイセンならではのお言葉に「で…ですよね…」とうなずくほかなかった


■ つい数ヶ月前に購入したばかりのアプリがブラックフライデーで半額以下になっているのを見つけたときの筆者の気持ちを140字以内で書きなさい。(2点


■ しかし 『未来の<サウンド>が聴こえる』 の翻訳中ずっと感じてたのは、新しいものを作る人って大体、あまり幸せな人生を送れていないという事実。多くが金銭的に追い込まれたり家庭破綻したりする。しかし、それでも発明や創作に取り憑かれてしまう人間の「業」のようなものには感動を禁じ得ない。文化を作ってきたのは彼らだ

なので「電子音楽」には興味がなくても文化史や発明史に興味のある方には、ぜひご一読いただきたいと思ってます。専門用語にもなるべく訳注を入れるようにして、読みやすさにはこだわりましたので……。


11月24日(土)

■ 大学業務のため早朝から電車。つまり遅番からの早番。こんな土曜日もあります

■ 大学業務の後は 日本ポピュラー音楽学会 の全国大会に参加。興味のままに聴講したのは

・ライヴハウスPAマンの心情を聞き取り調査

・20世紀初頭の太平洋航路では専属バンドがどんな曲を演奏してたか

・「愛国ソング」の分類

・NHK『みんなのうた』誕生秘話

面白そうでしょ?どの発表も面白かった!

しかし中でも 増田聡 さんの「『愛国ソング』の系譜」は、本人の話芸もあいまって学術発表というより抱腹絶倒のエンタメ!急増している日本礼賛系のJポップを仔細に分類し、桜ソング、憂国の長渕、サッカーナショナリズム…などとパワーワード炸裂。研究はこれからだというが、書籍化が待ち遠しい。

実は、この会には昔入っていたが退会し、あらためて入り直したのだった。

なんで今頃また入ったかと言うと、この10年間は息子氏のためにできれば土日を空けておきたかったというのが大きい(学会はだいたい週末だし、各地で開かれるので泊まりで出かける必要もある)

学会でしょっぱなから席にノートパソコンを置き忘れ、数時間後に開かれた総会の最中に突然思い出し、蒼ざめて現場に駆けつけたが既にそこには存在せず、しばし呆然の体をなしたものの、事務局がちゃんと預かっていてくれて安堵したことのないものだけが、この私に石を投げなさい。

また、学会といえば懇親会の重要性を誰もが指摘するところだが、残念ながらすかさず帰宅して、一日ほったらかしてた息子氏に干物を焼く。いつまでも焦がしてると思うなよ! 


■ ところで今日から上映開始の『恐怖の報酬』(53年のフランス映画を77年にウィリアム・フリードキンがリメイク。これまで権利関係のゴタゴタでビデオ化も再上映もされなかった幻の作品)が早く観たくてたまらない。音楽は タンジェリン・ドリーム ってのがまた……。

■ 
「パパって臨場感あるよね」
 #息子氏の指摘

■ 
「パパって非常識?」
「いや、常識人だよ」
「でもその体型は非常識だよね」

 #息子氏の質問

■ 
「パパ、その服いいね」
「ちょっとは痩せて見える?」
「そんな事は決してないけどね」
「決して」
 #息子氏の指摘

■ 
「パパ、スリープして」
ドサッ(食卓につっぷす)
「もういい」
 #息子氏の指令


11月25日(日)

■ さて今日も 日本ポピュラー音楽学会 

午前のワークショップ『定量調査はポピュラー音楽の何をどこまで明らかにできるか』は、大量のアンケートからポピュラー音楽の「聴かれ方」の現在が浮かび上がる濃密な3時間。聴き手にどう届けるか考え続けている作り手の1人としては、たいへん勉強になりました。

このセッションは、最後に 南田勝也 さんの「学術的な定量調査は、音楽が今も様々な人々に聴かれ、愛され、人と人を結びつけるコミュニケーションとして機能していることを、俗説や感情論ではなく証拠によって示すことができる」という内容の挨拶でしめくくられた。胸熱!

そして午後は、学会設立30周年記念シンポジウム。3時間におよぶ語りから浮かび上がってきたのは、ミッド80'sから90'sにかけてのニューアカブームと、学問的枠組の再編、学際的な知への移行、冷戦構造の終焉、欧米中心文化の解体、「ワールド・ミュージック」流行……じつは全てがつながっていたということ。

かつてのポピュラー音楽研究が周縁的だったり異端的だったりしたのは、ジャンルを問わず文化が正統なメインカルチャーと「サブカル」に区別されていたからではなかったか。美術に対するアニメやマンガやゲームの地位と同様、クラシック音楽に対するポピュラー音楽の地位は基本的には「サブカル」扱いだったのかなと思われる。

だが30年を経て「サブカル」は死語となった。国民皆ヲタク。お上が宣伝にゆるキャラ萌え絵を採用し、万博でも五輪イベントでも前衛音楽ではなくJポップが採用される時代、高級芸術もサブカルも「スーパーフラット」になった。ポピュラー音楽研究も当然、30年前とは別のステージに入っているだろう。

とはいえポピュラー音楽の研究には、美学的な解釈や構造分析だけでは読解できない様々な位相が存在する。(ビジネス、マーケット、メディア、リスナーetc.)したがって「学際的」にならざるをえないわけだが。これについて 小川博司 さんがいいことをおっしゃってた。

「学際的な研究に必要なのは、異分野の人間が集まることだけでなく、自分の中にある”学際性”を動員することだ」と。

確かに。研究に限らず、ふだんの人間関係だってそうだ。異業種がただ集まったって交流なんかできない。専門外のあれこれに好奇心を持ち「学際性を動員」しまくってる連中が集まってこそ、宴は盛り上がるってもんだ。

というわけで2日間いろいろ考えさせられ、大いに楽しみ、自分へのおみやげに薄い本も買ってホクホクしながら帰路についたのであった。行ったことないけどコミケ帰りってこういう気持ちだろうか

↑薄い本



「授業中、いねむりとかしてない?」
「いやあ授業中は寝れないよ。環境的に」
「環境」
 #息子氏の贅沢


■ 世の中の人間を2種類に分けるとしたら、夜中に起きてるやつ寝てるやつだ。夜中に起きてるやつって、どうでもいいことを考えすぎて眠れないんだ。だけど洋の東西を問わず、芸術も文化もそういうやつらが作ってきたんだ。たぶん。(ほら、こういうどうでもいいことを夜中に考えている) 

■ 学生とか見ていると、作品が完成できない人って、短歌でいうと5-7-5 7-75-7-5 7までは作れるんだけど最後のに納得いかなくて終えられない場合が多い。納得なんかいかなくてもとりあえず雑でもいいから5-7-5 7-7という形をまず作っちゃって、その後あらためて精査し直せばいいのにと思う。たぶんどんな仕事にも通じる話。

でもそれができなくて、納得いかないと5-7-5 7 の先に進めない性分ってのも、わかるんだけどね…。わかるんだけどね…。


■ 夏は寒く冬は暑いので、電車は井戸に似ているな


それでは、また来週。

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