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すばらしい選択


 最近よく、自分の人生ってなんだろうと考えてしまう。それはきっと、僕が一人暮らしを始めたから。
 今まではご飯もシャワーも起きる時間も寝る時間も全部母親が絡んでいた。たとえば母がご飯を作る直前あるいは最中に、僕のお腹が減ったからといって勝手にご飯を用意し始めるわけにはいかないし、シャワーは家族全員が夜の間に浴びなければならないと母親が決めた。つまり僕は、今まで母親の作ったルールの上で生きてきたのだ。母親はいつも口癖のように言っていた、「あんた、お母さんのいう通りにせんとちゃんとした大人になれんで」と。
 このような日常生活に加え、人生の選択には大概父親が絡んできた。小学校ではいつの間にか父親に連れられて少年野球のチームに入っていたし、中学と高校でも野球を続けるようにやんわりと指示されていた気がする。そういえば受験する高校も大学も「お前はこの学校を受けろ」と指示されて、実際その通りにしていた。就活の時期は、「とりあえず大企業に入っておけ」と銀行やら証券会社か、テレビCMが放送されている会社を勧められた。父親の望み通りメガバンクに就職が決まると、「これでお前も安泰だな」そう言っていた。
 そして最近両親が決まって口にするのが、そのうち孫の顔でも見れたらなあ、という話だ。気持ちはわかるけど、僕にはまだ早い。確かに就職して4年目にして仕事にもかなり慣れてきたけど、どうにも結婚やらなんやらを考えられないのだ。その代わりいつも考えているのが、『自分の人生ってなんだろう』なのだ。
 新卒一年目と比べて変わったのは、一人暮らしに慣れて、仕事にも慣れて、プライベートの時間が生まれたという部分である。家に帰っても仕事のことが頭から離れなかったり、掃除、洗濯、自炊をしたり、休日は無理して友人と遊んだり。結局のところ自分とは向き合っていなかったのだ。そして最近やっと向き合い始め、ある事に気づいた。結局僕は、親の敷いた人生のレールを進んできただけなのだ。言われるがまま、指示されるがまま、導かれるがまま。親が選らんだものを、ただ倣っていただけなのだ。最後に自分で決めたのって、いつのなにだろう。振り返ると明らかに、これぞ親の敷いたレール人生、みたいな内容で埋め尽くされていた。

 僕は自分の人生に真剣に向き合おう、と決めた。そう思うと、行動を取り始めるのは早かった。まずは転職がしたい。今の仕事は父親が良いと思っているだけで、僕は良いと思っていない。だから、自分で自分の仕事を決めるんだ。
 転職に関してはある程度理解している。初めにやるべきことは、転職サイトへの登録だ。転職が普遍的になった今の日本では、それが溢れている。それぞれ向き不向きがあるからこそサイトから慎重に選ばなければならない。20代向け、30代向け、給料アップ向け、キャリアチェンジ向け、特定業界向け、女性向け等々。これらは数も多く複雑化もしていたのだが、親切なことに、このような転職サイトをまとめたサイトさえあった。そこにはわかりやすく表に纏められており、これを使えば自ずと正確な選定が出来る。正確な選定ができれば、よりマッチしやすい転職先が見つかりやすいし、ターゲットの利用者に合わせた志望理由や退職理由、自己PRの書き方、作り方を指南してくれる。準備という面では、最高の滑り出しだった。
 準備が整ったあとは、サイトに出ている求人に応募するだけである。このサイトが素晴らしいのは、最初にある程度条件を設定していると、自動で僕が興味を持ちそうな求人をピックアップしてくれる。また、上がってきた求人に興味がないボタンを押すと、自動でもっと細かい傾向を把握していってくれる。給料、残業時間、業界、就労環境、他にも平均年齢や設立年数なんかも考慮してくれているのだろう、日に日に良さげな企業が目に付くようになった。
 4年もメガバンクに勤めていると書類上の印象は悪くないのだろう、そこの通過率は高かった。あとはそれなりに準備してそれなりに面接担当者と話して、面接担当者が気に入ってくれればすんなり合格となるだろう。面接担当者と合わないとなると勝手に面接は落ちるし、きっと合格して入社しても雰囲気が合わなかったりするのだろうなと考えている。僕がその会社に合っているかどうかは、向こうが判断してくれるのだ。
 程なくして、上がってきた求人に応募し、面接官と話が合い、内定をもらえた。
 当選それは受諾した。転職に対し両親は反対してきたが、当然僕はそれを押し切った。僕は両親の呪縛から解放された。

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 転職により残業が減ったので、空いた時間でマッチングアプリとやらを始めてみた。近頃のアプリは自動化が凄まじく、自分の使っているアプリは、たとえば顔写真をひらき誰の顔写真を開いたかをアプリ側が把握し、顔の好みを推測してくれるらしい。他にもステータスを詳しく書けば書くほど、過去の事例をもとにマッチ率の高いステータスを持つ相手を引き合わせてくれる。面白いもので、実際にあった女性とは本当に話が弾んだ。まさか家で使っている家電が殆ど同じ女性と出会うとは思うまい。自動化の精度は恐ろしく高度だ。マッチングアプリ、天晴なり。

 僕はこうして出会った女性と同棲する流れになった。二人でいきなり不動産に行ってみるのも悪くなかったが、とりあえず部屋が載せてあるサイトやアプリを色々覗いてみるようにした。二人の優先度が高い希望条件と、優先度が低い希望条件を出していき、大まかに二人の住まいの目星をつけていった。「あなたにオススメの新物件」とサイト側が色々な部屋を自動的にピックアップしてくれる。最終的には、そのように表示された所を選び、住み始めた。

 僕はここ数年で、何度も素晴らしい選択をしている。僕は、自分で物事を決められる人間になれたのだ。

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