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木箱記者の韓国事件簿 第29回 北朝鮮レストランめぐり

 北朝鮮が外貨獲得の手段としてレストランを海外に展開しているのは有名な話だ。そのレストランに何度か訪れたことがある。初めて行ったのはベトナム・ホーチミンの「朝鮮柳京食堂」。日本領事館の近くにある。訪問前日に予約と合わせステージショーの時間を確認しておいた。お客は意外にも韓国人が多く、あとは中国人と日本人が訪れるそうだ。これまで3カ所の北朝鮮レストランに行っているが、最初に訪れたホーチミンが奉仕員(ウェイトレス)の美人度も高く、写真撮影も可能で、ツーショット写真も撮れるなどサービスは最も良かった。ついでに物販サービスもあり、美人奉仕員に微笑みながら勧められて北朝鮮のコインを購入してしまったが、それは彼らの思う壺であっただろう。

 次に訪れたのはタイ・バンコクの「平壌アリラン館」。日本料理店なども並ぶスクンビット・ソイ26にある。奉仕員は素朴などこにでもいる女性という雰囲気。近寄りがたい美人よりかは親しみが持てる。写真撮影禁止の張り紙はしてあるが、撮影してもとがめられることはなかった。ショーを鑑賞していたら奉仕員の1人に手を引っ張られ一緒に踊らされたのも良い思い出だ。ただツーショット写真はやんわりと断られた。この店は後にしばらく閉店し、現在は「平壌ヘマジ館」と名前を変えて盛業中とのこと。ただ写真撮影は以前より厳しくなったとの話も聞く。再訪の機会があればそのあたりも確認しておきたい。

 その次はマレーシア・クアラルンプールの「高麗館」。繁華街ブキビンタンの近くにある。ここは料理の写真はOKだったが、奉仕員の写真撮影は一切禁止。さりげなくステージショーの写真を撮ったがやんわりと注意された。一緒に訪れた知人と店のレジ前で記念撮影をしていると奉仕員から「共和国の旗の前で撮るのはどうですか」と勧められ、柱に掲げられた北朝鮮の国旗の前で撮影された。ここでも懲りずに奉仕員とのツーショット撮影を求めたがやはりダメだった。

 いずれのお店も料理を楽しみながらショーを見られるというのが売り物になっている。カヤグム演奏や、北朝鮮の民謡、舞踊などのほか、英語や日本語の歌も披露してくれた。全般的に料理は各国の物価水準を考えると高額だが、盛りつけはきれいで丁寧に作られている印象だ。北朝鮮レストランは韓国人の利用客も多いが、最近は韓国当局が利用自粛を呼びかけていることもあり減っている。中国などでは閉店する北朝鮮レストランも増えているというから東南アジアの北朝鮮レストランもいつまで存続できるかは未知数だ。「危なくないか?」とよく聞かれるが、ごく普通のレストランであり、一般的なマナーを守る分には危険はないはずだ。ちなみに韓国人客はこういう店で韓国が経済的に豊かであることをひけらかしたりするので奉仕員受けはよろしくないらしい。北朝鮮を過度に賛美するようなことまではしなくてもいいが、政治の話などはしない方が無難だろう。直接訪れるのは難しい北朝鮮だが、海外旅行のついでに少しだけ未知の国の雰囲気を味わってみるのも楽しいもの。ただ経済制裁の対象となっている国の外貨獲得源になっているので派手に遊ぶのは慎みたい。

 番外編として、前回中国・延吉に行った話をしたが、延吉で訪れた料理店も紹介しておこう。訪れたのは北朝鮮レストランではなく地元の朝鮮族が経営しているお店。日本人の知り合いが延吉に赴任していたのだが、その知り合いの知り合いの家族が経営していた。日本から来た客ということで歓待され、2階の個室で食べきれないほどの料理を振る舞われた。普通の飲食店なのでステージショーはなかったが、カラオケの設備が置いてあり自由に歌えた。歌本を見て驚いたのは、中国歌謡や香港・台湾歌謡があるのは当然として、韓国歌謡、日本歌謡のほか、北朝鮮歌謡まで網羅されていたことだ。北朝鮮歌謡のカラオケはなかなかお目にかかれない。うれしくなり数曲歌わせてもらったが、その知り合いの知り合いには「日本人がなぜ北朝鮮の歌を知っているのだ」と不思議がられた。聞けば現地の朝鮮族の間で北朝鮮歌謡はまるで不人気で、カラオケで歌う人などまずいないのだそうだ。北朝鮮レストランにもカラオケ設備はあるので頼めば歌わせてくれるかもしれないが、これまでのところ北朝鮮歌謡のカラオケを楽しんだ経験は延吉のこの店が唯一だ。

初出:The Daily Korea News 2017年2月13日号 note掲載に当たり加筆・修正しました。

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