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族車の作品が影響受けた本 その1

2021年12月12日まで北杜市のHOKUTO ART PROGRAM Ed.1にて
私たちのHUMAN AWESOME ERRORの作品が展示されています。

前回からの話を続けます。「工藝族車」はモノの作品ではなくて活動が作品なので、活動の時間の中で影響を受けていく要素があり、その一部が何冊かの本です。これらの本はいずれも族車というアンダーグランドカルチャーだけでなく、私たちが今生きている時代がどういう空気なのかを語りかけてくるものです。

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その1. 爆音列島 | 高橋ツトム

多くの人にとって暴走族のイメージを先導していた漫画は、少年誌に連載された湘南爆走族や特攻の拓といった作品ではないでしょうか。
暴走族が隆盛を極めていた80~90年代の世相と並行し、むしろ編集部のマーケティング戦略としても有効だった時代の漫画です。
元旦に富士山の麓を目指す、いわゆる初日の出暴走に対応して千人規模の警察が動員されるようになって衰退を初めたゼロ年代以降、もはや時代遅れとなってマーケティングネタですらない時代に、80年代を回顧しながら当事者によって描かれた漫画が爆音列島です。
旧車會の面々と会話を始めた頃は、もっぱら「特攻の拓」が共通言語でした。
しかし、仲良くなるにつれ、時代の生き証人達は、「爆音列島」を心のアンセムとして挙げることが多くなり、私も読み始めました。

「ブッ拓はファンタジーで、バイクのこともよく知らない人が描いていて…」「ほんとは東京の族車はそんな派手じゃないんですよ喧嘩のがメインなんで」「ちなみにネリカン(ねりま青少年心理相談室、もしくは東京少年鑑別所)はマジであのまんまっす」そんな話を聞きくと、彼らが爆音列島に自分たちの実際見てきた風景を重ねていることがよく分かります。
高橋ツトム氏が丹念に重ねていくディティールがピカレスク文学のような芸術性まで昇華しているだけでなく、職業アートディレクターが行うようなチームの塗装時のデザインレギュレーション、ミリ単位で指定されたラインの太さと色など、当事者でなければ書けない貴重な記録も多くあります。

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当初の自分にも当てはまりますが、よくアートやデザインの素養をなまじ積んだ者が半ば上から目線で「自分のスキルと自由な発想でこの泥臭いデザインを洗練させられる」と思って大失敗するパターンがあり、デコトラなんかもその餌食になりやすいフォーマットです。

さらに言えば昨今度々文化盗用問題で炎上するハリウッド周辺の話とも地続きで繋がっています。
形にはなるべくしてなった理由や歴史があり、それを無視することもできます。もしそれを無視する場合は、例えば式典や茶会などに呼ばれて、幾つか直面するルールを「そういうものだから」という言葉を使わずに成り立ちを説明でき、敢えてそれを無視する能力のようなものが必要になるでしょう。「伝統」とは時として、それだけ人の思考を停止させる強制力があることを私も経験上知っています。

手前味噌ながら工藝族車のプロジェクトでは、現在カスタムパーツとして売っているようなアップハン絞りがない頃から「ハンドルは団地の階段で自分で曲げていた」という重鎮のKさんのエピソードを元に、工芸家が熱して曲げた跡が色濃く残るチタンのパイプでハンドルを作りました。
これは歴史を踏まえて初めて発生するアイディアです。

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「爆音列島」の本編は、予兆もなく突然死ぬ友人や、シンナーによる退廃など、綺麗事と予定調和で終わらない筋書きも魅力です。
また、土建業や極道に就くOBを脇目に主人公が呟く迷言、「族って仕事になんねえかな?」が、現代における旧車會系Youtuberなど新しい世代を予言するような箇所にもハッとさせられます。
チャンプロードやティーンズロードのバックナンバーと共に、当時の空気を伝える貴重な文献です。

その2 に続く

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