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「千曲市ワーケーション」エピソード2〜ウェルカムのはじまり〜

2021年ラストの投稿を飾らせていただくことになりました。信州千曲観光局の山崎です。
前回のnoteにエピソード1と題名をつけてしまったばかりに、エピソード2を書くことになってしまいました。今回は第1回ワーケーション体験会後に千曲市で起きたピンチにつぐピンチと、なんやかんやで今の「千曲市ワーケーション」の素地ができた話を、つらつらとお話します。

よもやよもや、次々と襲う試練

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前回エピソード1で取り上げた第1回「千曲市ワーケーション」体験会。その翌日、2019年10月12日千曲市を台風19号が襲います。前日までのワーケーション参加者との楽しいひと時がうそのように、夜から降り続いた雨で千曲川が増水し、千曲市に甚大な被害をもたらしました。床上浸水475戸、床下浸水1202戸、市役所周辺は浸水し、庁舎はモン・サン・ミシェル状態に。
前日まで体験会を行っていた温泉街も一部浸水被害にあい、千曲川の美しかった景観は失われ、ワーケーションで人気のお弁当スポット、河川敷の公園も水没してしまいました。その日から自分の「ワーク」は災害ゴミをひたすら2tトラックでゴミ置き場に運ぶこと。この頃はワーケーションのことなど考えられず、日常を取り戻すため奮闘していました。

2020年新春、だんだんと日常を取り戻し、風評被害で遠のいていた客足も戻りつつあった温泉街にさらなる試練が訪れます。新型コロナウイルス(COVID-19)です。これに関しては語るまでもなくパンデミックになったわけですが、台風19号からの復興まもない時期に訪れたダブルパンチは観光事業者にとっても想像以上に辛いものでした。
そんな年度末、自分にとっての転機が訪れます。

「いち早く立ち上がる漢」と「くすぶる私」と「温泉イーツ」

2020年4月、市役所からの辞令で信州千曲観光局に出向が決まりました。この頃の千曲市は市内での感染者こそいなかったものの、首都圏での緊急事態宣言(新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言)などの影響で観光客が激減し、ゴールデンウィーク前には全国で緊急事態宣言が発令され、公共施設は休館となりました。観光局が入っている千曲市総合観光会館も休館を余儀無くされ、観光誘客もできないような状況でした。
そんな状況下で観光を担う観光局に異動したものですから、自分は何をすればいいのかわからず、事態が終息するのか、お客さんがもどってくるにはどうすればいいのか、「DMO(観光地域づくりを行う法人)がやるべきこと」だの「コロナ禍の観光地がやるべきこと」だの、「べきことべきこと」なネット記事を読んでは悶々とくすぶっていました。

くすぶりすぎて灰になりかけている自分に声をかけてくれたのが一緒にワーケーションを企てた株式会社ふろしきや代表の田村英彦さん(以下:田村さん)でした。台風19号と新型コロナウイルスが重なり逆境に立たされた宿泊施設を支援するクラウドファンディングのプロジェクト、「SUVIVE2 ×19」を早々に始めていて、外出ができない時期に戸倉上山田温泉の美味しいものをまとめて注文できて、配達してくれる、UberEatsならぬ「温泉イーツ」という宅配サービスを始めていました。「温泉イーツ」のメンバーが、田村さんと、有田屋旅館の柳ヶ瀬さん、亀清旅館のタイラーさん、姨捨ゲストハウスなからやの鍛治さん、3月に移住してきたワークスペース&カフェCLOUD CUCKOO LAND(クラウドカッコウランド)オーナーの古澤夫妻、そして配達は現在「温泉MaaS」で大活躍中の畑山ハイヤーさんです。(一応自分は電話番を任されていました)

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この「温泉イーツ」は千曲市ワーケーションにつながっていくのですが、一番コロナ禍で苦しんでいる宿泊業やタクシー会社のみなさんが、いち早く前向きに取り組んでいる姿はあまりにもかっこよくて、胸が熱くなりました。
そこで田村さんに言われた言葉、
「次は山崎さんの番ですよ。」 
……重っ!! 
 
これが2020年5月初旬の話。
前向きなバトンを渡された気になった自分は、まずは「温泉イーツ」をはじめとする取り組みを市民に知ってもらう必要があると考え、「市内を旅しない?」というキャッチコピーのブルータス感全開のマイクロツーリズムポスターを作って千曲市中に貼ってみたり、チラシを全戸配布したりしました。
緊急事態宣言が明けた直後の6月からは、市民に地元の旅館や飲食店を利用してもらうため「泊まって食べてキャッシュバック」という、千曲市民が市内旅館や飲食店の5,000円以上のレシートを観光局に持ってきたらその場で1,000円キャッシュバックする単純明快なキャンペーンを実施しました。これらは小さな活動でしたが、「温泉イーツ」が自分のマインドを前向きにしてくれた大きな出来事となりました。

キャッシュバック

第二回ワーケーション体験会

2020年7月、そんな「温泉イーツ」のメンバーを巻き込んだ第2回ワーケーション体験会が開催されました。この体験会では時期的に県内在住の方が多かったのですが、現在の「千曲市ワーケーション」でもお馴染みのコンテンツが多く生まれた回でした。

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この体験会から始まったもの
・絶景の姨捨ゲストハウスなからやでの交流会
・千曲市総合観光会館のワークスペース利用
・ずくだしサイクリングツアー(亀清旅館タイラーさん主導)
・有田屋旅館のローストビーフ丼
・富岡写真館による撮影

第2回開催の「千曲市ワーケーション」では、交流の拠点「姨捨ゲストハウスなからや」や、「コワーキングスペースGorori」(観光会館)も初登場。地元住民を巻き込みながら徐々に仲間を増やしていく「千曲市ワーケーション」のスタイルが強く出始めた回となりました。そう言えばテレビの取材が入ったのもこの時が初めて。体験会終了後に残った参加者と一緒に私たちが出ているニュースを見るのは贅沢な時間でした。

ウェルカムのはじまり!ちくま史上最もウェルカムな夏!

第2回「千曲市ワーケーション」体験会が行われていた2020年7月当時、東京都など一部地域でコロナの感染状況は収まらず、地域によって感染状況に差があり、新型コロナウイルスに対する恐怖も蔓延していたため、県外の方に対する誹謗中傷や、差別が全国的に問題になっていた時期でした。住民感情を鑑みて各地の観光地は表立ってお客さんを歓迎できない空気が流れていました。
観光局では6月に行なったキャッシュバックキャンペーンに続く誘客キャンペーンをしたいと考えていた頃、取材で旅館の方々と話す中で、ふと気になる言葉を聞きます。

「県外から来たお客さんが、旅館の前に県外ナンバーの車があると迷惑がかかるからと、遠くの駐車場に停めて歩いてきている」

「せっかく旅行で来ているのに、こそこそして楽しめてないのではないか」

お客さんが肩身の狭い思いをしている状況に心を痛めている様子でした。戸倉上山田温泉は善光寺の精進落としの湯として栄えた温泉地。もともと色んな場所から来た旅人や住人が混じり合って形成されてきたまちのためか「来るもの拒まず」的な考えを持っている人が多く、にぎやかなことが大好きな気質。コロナ禍による現状は、大変ストレスに感じるものでした。
そこで、田村さんと相談し、打ち出したのが「ちくま史上最も“ウェルカム”な夏」というキャンペーン。

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肩身の狭い思いをしているお客さんが千曲市で堂々と楽しんでもらうためにどうすればいいか、さらに地域の分断がおきかけている世の中に一石を投じようと、考えに考えて出した答えが、とにかく歓迎していることをわかりやすく伝えるために「ウェルカム」と言おうというものでした。
台風19号にコロナのWパンチで客足が遠のき、大勢のお客さんに来て欲しい思いもあって、本当に史上最もウェルカムな気持ちでした。
ウェルカムなんて普通ですし、当たり前なんですが、この当時は結構勇気がいりました。他の自治体から「よく許可がおりたね」と言われたり、配信したプレスリリースのアクセス数が2週間近く1位でありながら、記事になった数はごくわずかという怪現象も起き、マスコミも取り扱いに困っている様子でした。
キャンペーンの内容は、なるべくふざけた内容で観光客が楽しめる内容にしようと、単純に宿泊割引やクーポンを配るのではなく、現地でガラガラ抽選をして当たりが出ると、宿泊代から食事代まで千曲市で過ごした1日が全てキャッシュバックされる「あなたの1日キャッシュバック」を企画しました。このふざけた企画に全ての旅館・ホテルが協力してくれ、毎日大勢の観光客がキャッシュバックを目指し、チラシ片手に温泉街を堂々と歩き観光会館でガラガラ抽選にチャレンジしていきました。

ウェルカムはつづく

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「千曲市ワーケーション」は過去2年間で11回開催してきました。緊急事態宣言下であるにもかかわらず開催してこれたのは、逆境で培った仲間と、ウェルカムキャンペーンで得た以下の考えがあるからです。

“私たちには言いたいことがあります。それは「ウェルカム」です。
自粛要請や他人への思いやりによって移動がはばかれる時もあるでしょう。
ただ、どんな時も私たちはウェルカムです。
離れた場所にいる人が出会い、刺激しあい、笑い合う。
互いの感染症対策を理解した上で、withコロナの環境下でもその関係を続けていきたいと心の底から願っています。
千曲市に来たら堂々と楽しんで欲しい。
私たちは来てくれた皆様を歓迎します。”

「ちくま史上最もウェルカムな夏」のWEBページに記載しているこの文は、辛い日々をもがいて出した答えで、「千曲市ワーケーション」の基本的な考えだと自分は思います。
「千曲市ワーケーション」はそんな思いから、名前を「ワーケーション・ウェルカムデイズ」として色んな地域に住む色んな肩書きの色んな職種の方々と共に開催しています。毎回多くの方が参加してくれて楽しんでいる姿を見るのは本当にうれしいです。
これからもこの思いを胸に、「千曲市ワーケーション」に来る皆様を私たちは史上最高に歓迎します!
ちくまウェルカム!!


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