父が亡くなりました⑪

8月15日 PM9時半過ぎ

 医師と介護士が帰って、生前に両親が登録していた葬儀会館に電話をした。24時間のコールセンターに繋がり、内容を伝えたところ、今遺体を移動させるスタッフが出払っているので、お伺い出来るのは12時頃になるとのこと。葬儀会館にも持参する資料等を整理して過ごした。

 時折、父の様子を見に行った。顔にあった痛みで生じていたような皺がどんどんと無くなっていき、とても安らかな顔つきに変わっていった。加えて、浮腫で腫れていたはずの左足と左手は見る間に腫れが引いた。と同時に、亡くなった直後はまだ暖かかった手足が冷たくなり、頭も少しずつ冷えていった。血流が止まった手は本当に白くなった。母は時折泣きながら作業をしていたが、僕と兄は冷静だった。正確に言えば、冷静というより完全に受け止め切れていない為、どんな感情を表に出せばよいのか、心が決め切れていなかったのだと思う。

 お盆終わりの日曜日の夜中12時前。葬儀会館から来る車を迎えに僕は外へ向かった。一体僕はこんな時間に何をしているのだろうか、と自問自答している内に、大きな車がやってきた。車から大柄な男性が二人降りて来たので、僕は自宅へと案内した。

8月16日

 二人は父を白い布で包み、金属製のストレッチャーのような物に父を乗せて、車で先に葬儀会館へ向かった。僕ら3人は後から、葬儀会館へ向かった。葬儀会館では先の二人組の内、上司らしきスタッフが、僕らに応対した。もう時間的には8月16日になっているが、当日の昼から葬儀担当者と打合せとなり、お通夜と告別式の日程等を打ち合わせて、帰路についた。

 帰宅後は順番にシャワーを浴びた。僕、兄、母の順番。僕はシャワーを浴びた後、父がさっきまで寝ていた介護ベッドの横に座った。物理的にそこに居たはずの父が居ない事に、心に掛けていた鍵が外れた。猛烈に泣いた。そんな僕を見て、母も泣いた。兄がその時どうしていたかは分からないが、多分自分の心と戦っていたと思う。しばらくそうした止まった時間が流れて、ようやく2時頃に3人とも寝床に入った。

⑫に続く


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