無題

【追憶の旅エッセイ#8】オーストラリア一美しい都市でベッドバグに蝕まれる

「Welcome to Australia(オーストラリアへようこそ)」と目の前のドクターは言った、にやりと笑いながら訛ったオーストラリア英語で。

オーストラリア滞在10ヶ月目、私はとうとう洗礼を受けた。

インドで洗礼と言えばお腹を激しく下すこと、というのは周知のこと(多分)だと思うが、オーストラリアでの洗礼といえばそう、これ。

ベッドバグにやられる、ということだ。

ベッドバグ(南京虫/トコジラミ)を知らない人のために、簡単に説明しておくと、小さくて2つの牙で穴をあけて執拗に吸血する虫、のこと。

もっと詳しく説明したいと、googleで調べ始めたらかつての猛烈に痒い日々を思い出して、気が滅入ってきたのでこのくらいにしておこうっと。

ベッドバグは基本的に暗い場所や狭い場所、暖かい場所が大好きだそうで、比較的年中温かいオーストラリアはその温床のような国なのだ。

旅も終盤にさしかかり、疲れが溜まっていた最悪のタイミング。

そう、ベッドバグの被害はその猛烈な痒さ

寝ても起きても痒い、寝ることができないほど、痒い。もう何も考えられず、痒みに全神経が集中するのをどうすることもできない。

そして何より、おぞましい。

そんな小さな目に見えるか見えないかサイズの虫が、執拗に自分の肌から血を吸い続けるということ。そしてその小さな虫が持ち物のどこに潜んでいるかわからず、あっという間に孵化して無限に増え続けるのだとしたら…想像してみて欲しい…。

そのパワーは本当に凄まじく、私ではないが(私は幸運にも?初期)、ベッドバグの温床となっていたベッドで一晩寝て起きたら、下にしていた右側だけザザザーっと赤いブツブツが無数にできて腫れあがっていたそうだ。

あまりの痒さに掻きむしると跡残るし、その子は女の子で余計可哀そうだったっけ…。

さらに旅の疲れもあり受けるダメージは、体だけではない。心身ともに参ってしまう、それがベッドバグなのだ。

「ベッドのシーツ全て変えて、できればベッドも変えて、持っている服、着ている服、全てしっかり洗ってねー。そうそう、肌に塗る薬も出しておくから、隈なく全身塗るんだよん」

冒頭のオージー先生は、気軽に言うが、私はそれこそ世紀末のような痒さを有している。この状態でこれから大掃除(みたいなもの)をしなきゃいけないとは…!汗汗

オーストラリア一美しいといわれる街・メルボルンで、まさかやられるとは思わなかった。

原因はわかっている、宿のベッドだ。

その宿はなんだか不思議な場所で、ドミトリーは巨大なひとつの大きい空間に壁を作って各部屋を作っているようで、なんと天井が全て繋がっている!

2段ベッドの上に立てば、私のサイズ(158cm)でも隣の部屋が覗けるどころか、全ての部屋の壁が見渡せる。そんな作りをした宿は、初めてだった。そんなオープンな空間、もうはっきり言ってどこから奴ら(ベッドバグ)がやって来ても可笑しくはない。

そして天井がオープンな開放感からあまり気にならなかったけれど、そこに窓がなく、じめじめしていたような記憶が確かにある。

とにかく私は言われた通りに、まずレセプションに出向いてベッドバグの件を告げてリネンの替えをもらう。

でもここは確信犯、というか実績があるようで慣れた感じで「はいよー」と新しいリネンセットを渡してくれた。

その何年も後に、私はオーストラリアの某バックパッカーで働くことになるのだが、その時にベッドバグが出たなんて言おうものなら、その人は嫌煙されその部屋の人は一旦別ベッドが用意されて、部屋まるごと駆除を行うほどの大惨事になったものなのに…。

思い返してみると、このときのメルボルンの宿の対応はゆるゆるだなーと今、思う。私にとっては助かったのだけれど。

さぁ、そしてバックパックの中の服なども可能な限り洗濯に回す。その間、自分自身も石鹸で体を隈なく洗い、病院でもらった薬をこれでもかと全身に擦り込む…。

あぁ、何度も言うけれど、この美しいメルボルンの街で、私は一体何をやっているのだろう…と。

ヨーロピアン調の美しいブロックアーケードや、イタリア街として知られるライゴンストリートやカフェの道など、行った…んだろうな。ほぼ記憶にございませんが…、と思って旅帖を遡ってみると、行ってるな(下記参照)。

あまりにも美しいその街並みと、自分の体で進行形で起こっていたグロテスクなできごとのうそみたいなコントラストを、今でもこんな風に思い出すことがある。

じめじめした湿度の高いところ暗いところ、要注意ですよ、皆さま。

気を付けてよい旅を!

◆旅帖より◆


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