ミナミの帝王

学生時代、ガソリンスタンドでアルバイトをしていた。
系列の異なる三店舗で働いていたが、夜学の頃に通っていたJAのスタンドに「ミナミの帝王」のコンビニ本がズラリと並んでいた。
休憩室に持ち込んではちょこちょこ読んでいたのだが、基本的に単話〜数話のオムニバス形式だし、その話数も膨大にあったし、当時は経済経営を学んでいたこともあって、卒業を機に辞めるまで読み続けていた。

内容としてはヤクザモノに近いが、何と言ってもアクの強い絵柄から放たれる誇張表現が爽快で面白い。
コテコテでこれまた誇張された大阪弁がその勢いを更に強めていて、僕の中ではギャグマンガの部類となっている。
一方で裏金融というテーマからしっかりお金の恐ろしいところを感じたり、全くエロスは無いものの結構な頻度で性描写があったりと、ちゃんとアングラしていたりもする。
逆に借金を踏み倒そうとした客をギャフンと言わせるような俗に言う「胸スカ系」の一面もあれば、主人公・萬田の行動原理は一貫しつつも人情ドラマが描かれたりと、一口にジャンルを決めつけるには惜しいところがある。

僕は奨学金と機材やクルマのローンぐらいしか借金には縁がなく、サラ金はおろか銀行からもお金を工面したことはない。
時々友人と競馬でお金を掛けることはあるものの600円以上掛けた記憶はないし、ギャンブルにも縁が無い。
故に異世界モノと大差ない面持ちで読んでいるものの、例えば相続の話だったり、友人知人・恋人の保証人だとか、詐欺の話だったり病気等の急な出来事、それらにお金の問題が常に潜んでいることにもあまり敏感ではないから、たまに身の締まる思いをする。
「このマンガ(作品)を読んで(見て)いなかったら考えることはなかった」という感覚はフィクションを視聴することの最大の価値だと思っていて、その点で「ミナミの帝王」は非日常を味わいつつも現実を見つめ直すきっかけもくれる、大変影響の強い作品だった。

余談だが、当然のように実写でメディアミックス展開されている。
実写化は何度かされていると思ったが、お笑い芸人の千原ジュニアさんが演じていて「え〜あの優しそうな人が萬田銀次郎〜?」と思ったらしっかり強面でビックリした。


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