けものフレンズ

2017年、突如として大ヒットしたアニメ版「けものフレンズ」は、間違いなく日本を優しくしていた。
児童層を意識した緩い雰囲気と、動物の特徴をモチーフに多様性に寛容な世界観、そしてちょっぴりの退廃的なバックグラウンド、CMアバンに入る動物の解説……。
老若男女を広くターゲット層に迎え、終わりかけていたコンテンツを復活させたことも含め、このアニメ版「けものフレンズ」一期は何一つ文句ナシに大成功した。
その後に不穏な雲行きの後に多くの炎上と賛否が沸き起こるワケだが、少なくとも当時の誰もがこの作品が大好きで、このコンテンツが大好きになったハズだ。

擬人化コンテンツというものは程度の差こそあれど大きなジャンルの一つで、別に「けものフレンズ」である必要性など無かった。
しかし、例えば一口に「ネコ」と言ったとき、どういった種類のネコがいて、どういった生態で、どういう違いがあるか――といったところまで踏み込んだ作品は殆ど無く、それを多種多様な動物を跨いで一つのコンテンツに収めたものは無かった。
ここがまず一つの感服するところで、レッドオーシャンの中にブルーオーシャンがあったということだ。
更にはその一種一種にしっかりと学術的な根拠に基づいたキャラクターデザインや設定を用意し、生物について学ぶ一つの入口としてデザインされていることが素晴らしい。
擬人化コンテンツであるものの、これらの要素から小さな子供でもスッと入れるようなコンセプトになっているのだから、ただのオタクコンテンツに類するのはナンセンスだ。
「けものフレンズ」はれっきとした教養コンテンツだ。

しかし、それが故にコンテンツとしては芳しくなかった様子だったのが、アニメ化でひっくり返った。
これは時代背景や社会情勢がピタリとハマり、ブームを巻き起こすだけのパワーがある大人層にもウケたのが大きい。
ここが個人的には「甲虫王者ムシキング」と似て非なるポイントだと思っていて、子供が中心になって起きるムーブメントと大人が中心になって起きるムーブメントの違いを感じるところである。
大人が「甲虫王者ムシキング」をプレイしてもムーブメントは起こせないが、「けものフレンズ」にはそれができたのである。
しっかり要素を紐解いて行けばその差は明確に示せるのだろうが、残念ながら僕にはそこまで考える頭脳もその気もないのだった🙄

唯一の汚点はその後の話で、コンテンツを知っている人なら知っている通り、たつき監督ら制作側と出資者を含むプロジェクト側が対立したことだ。
小難しいことは置いといて、子供の無邪気さのままに誰もが仲良くできる世界だった「けものフレンズ」が、内部分裂による大人の事情という形になってしまったのは、これ以上ないまでの皮肉な結末だ。
すっかり現実に引き戻されてしまった僕は「けものフレンズ」というコンテンツから離れ、ファンを含め関わりを遠ざけたのだが、コンテンツは今もそれなりに盛り上がっているようだ。
とはいえ、今あるコンテンツは僕の目には魅力がなく、仮に触れたとして最初に触れたときのような暖かい気持ちになることも絶対に無いと思う。

ただ一つ、アニメ版「けものフレンズ」がコンテンツを復活させるほどヒットし、多くの人に優しさを与えてくれたという事実だけを、今でもたまに思い出す。

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