なるたる

鬼頭先生の作品で最も有名なものは、文化庁メディア芸術祭でも受賞歴のある「ぼくらの 」だろう。
「ほくらの 」に比べると知名度は劣るものの、この「なるたる」もファンの間では人気が高く、名作の陰に隠れた名作だ。

作風は「ぼくらの 」と同じく、セカイ系と言われるようなジャンルに入るだろう。
ロボット的なものは出てこないものの、生物なのか非生物なのか曖昧な独特のデザインはとてもよく似ていて、ミリタリー成分もしっかりある。
コエムシのようなマスコット風のキーキャラクターも登場し、子供が主人公であることも、その幼さ故の心の脆さが描かれている点も、共通点は多くある。
大きく異なるのは「ぼくらの 」が群像劇的でオムニバス的でもある構成だったものに対し、「なるたる」は主人公シイナの視点で一貫していること。
その上で不可思議な竜と呼ばれる存在、世界のリセット(という表現が合っているかはわからないが)を目的とする子供、正体は怪しいが竜をよく知る青年、両親との関係……と鬼頭ワールド全開のドラマが描かれている。

コエムシという解説役がいる「ぼくらの 」と違い、神秘的な存在である竜が神秘的な存在のままであることから、主人公シイナと同じ目線で物語を追いかけられるので、「ぼくらの 」よりストーリー性を強く感じる。
「ほくらの」でそのあたりがしっくり来なかった人には「なるたる」の方が性に合うかもしれない。
ただし、「ぼくらの 」がある程度その世界設定を咀嚼できるのに対して、こちらはあまり多くを語られないから、読み終えた後のモヤモヤは覚悟した方が良い。
それが悪いということでは全く無いのだけど。

この頃はこういった「セカイ系」に分類される作品が多く、明るい作品より暗い雰囲気の作品が流行りではあった。
令和では絶滅危惧種となったそのあたりの繊細な雰囲気が好きな人であれば是非履修して欲しい。
そして、履修する際は「ぼくらの 」もセットで履修はマストだ。

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