ミスト

スティーブン・キング作品の映画はどれもハズレが無い上、ホラーからヒューマンドラマまで幅も広く、オススメの映画教えて〜と言われたら取り敢えず挙げている。
「ミスト」は、そんな中でSFホラーといった感じたが、読後感のようなものはとても重く、「後味が悪い」「胸糞」ともよく評されている。

一部クリーチャー的なグロテスクさがあり、パニック系ではあるものの、基本的にはジメっとした陰鬱な雰囲気と閉鎖空間による不安感が生み出す恐怖である。
ある意味、邦画ホラーと似たような空気が終始充満しており、クリーチャーによる洋画ホラーの要素と合わさっているとも言える。
そんな独特の内容ながらも、ホラーのお決まりはしっかり守られていて、最初に逃げ出した人は最初の犠牲者になるし、単独行動した人はもちろん犠牲になる。
味方同士の対立も起きて、主人公がリーダーシップを執るところもお決まりだ。

この作品が「後味が悪い」とか「胸糞」と言われることの要因は、その結末は勿論として、この主人公のリーダーシップが良い方向に機能しないことがあるだろう。
大抵のホラー系やパニック系は、主人公のリーダーシップ(必ずしも先頭の役割とは限らない)によって犠牲者を出しながらも襲い来る敵や困難を打破していく。
しかし、「ミスト」はそうではない。
主人公のリーダーシップは決して間違った判断ではないものの、結果は裏目に裏目が乗っていき、見ているこちらまでもが無力感に打ちひしがれる。
ではあのとき判断をこう選択していれば……と考えてみても、やっぱり主人公の判断が最良に思える。
現実の我々も同様の経験が誰しも必ずあるだろうから、それが余計に自分自身まで否定されている気持ちにさせて、兎に角「苛立ち」を感じてしまう。
この無力感の共鳴による苛立ちこそが、その「後味が悪い」「胸糞」という感想の正体なのではなかろうか。

しかし、結末は決してバッドエンドではない。
主人公は生き延び、世界も終わることはなく、脅威はあっけなく焼き払われる。
なんならその他のホラー映画と全く同じ構図で、主人公だけが生き残りましたなんてむしろあるあるだ。
そこまでの過程の描き方でこんなにも印象が変わるのだから面白い、と僕は思う。

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