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ライター雑記(その46) 島根県が経済発展できなかった理由

私が住む島根県は人口が少ないだけでなく、経済的規模で見ても小さい地域です。

事実、統計サイト「GD Freak」によれば、島根県の県内総生産は2兆6893億円であり、日本のGDP(名目国内総生産)に占める割合は0.46%に過ぎません。47都道府県の中で佐賀県に次いで45番目となっており、ほぼ全国最下位の様相を呈しています。

内需が主要な日本経済において、経済規模は人口に比例しているため、島根県の県内総生産の小ささは妥当と言えば妥当かもしれません。それでも、島根県がなぜ人口が増えず、経済発展もできなかったと疑問に思う人もいらっしゃるのではないでしょうか。少なくとも、私は、島根県に住む人間として、常に疑問に思っていました。

島根県が経済発展できなかった理由について思索を重ねてきたところ、1つの仮説にたどり着きました。それは、「経済発展ができなかった理由は、産業集積に不可欠な平野面積が小さい上に、港湾が少なかったから」という仮説です。

今回のライター雑記では、都市発展の理論における平野と港湾にスポットを当てつつ、事実や統計をもとに答え合わせをしようと思います。

都市集積の理論における平野と港湾

都市集積の理論において、平野は、都市の産業に比較優位をもたらす「移動できない生産要素(immobile Factors)」の中でも、自然条件の構成要素として位置付けられる一方、港湾は、社会資本(インフラ)に分類されます(下図)。

引用:中村良平「第2章 都市集積の理論」岡山大学経済学部

「移動できない生産要素」は、自然条件や社会資本だけではありません。観光資源を含む天然資源も「移動できない生産要素」となっています。

以上のことから、都市は、天然資源と自然条件、社会資本の3つで構成される「移動できない生産要素」に恵まれれば恵まれるほど、発展するというわけです。一部の地域が「移動できない生産要素」に恵まれる現象は、都市経済学において、資源の不均等分布と言われています。

ただし、当地に比較優位が生まれるかどうかは、「移動できない生産要素」のみならず、熟練労働者の多寡のほか、中央官庁や中央官庁の出先機関といった行政の意思決定機構の存在も関わってくるため、複雑です。

それでも、都市発展の要素として、港湾や平野、ひいては自然条件が大きく関わってくることは間違いないでしょう。

仮説を検証した結果…

では、ここからは、上述した都市発展の理論をもとに、当初の仮説が正しかったかを考察してみます。

まず平野ですが、島根県では、河川の堆積作用で形成され、社会経済活動の中心になるとされる広い沖積平野が出雲平野と松江平野にしかありません。

県内全体の面積のほとんどが標高30メートル以上の山地となっており、家や商業施設、工場の立地に便利な平野は限られた土地にのみ存在する格好となっています。

国土交通省の資料によれば、沖積平野は全人口の51%、資産の75%が集中するとされ、社会経済活動の根幹を担う地層とされます。これを踏まえると、沖積平野が一部に限られる島根県の地理は、経済発展に非常に不利だといえるでしょう(下図)。

引用:島根県『第2章 自然条件の調査』

港湾に関しては、海岸線に沿って重要港湾4港、地方港湾77港など、計90港が存在します。しかし、経済の中心となっている出雲平野と松江平野には、国の利害に重大な関係を持つ重要港湾がありません。島根半島に山稜が連なっていることから、建設が難しかったためだと考えられます。

地形を見れば自明かもしれませんが、以上の論考から、仮説はおおむね合っていたといえるでしょう。

仮に、地層年代の完新世(1万1,700年前から2000年前)に沖積層が島根半島の全体に広がっていれば、より広い平野ができていたと考えられます。平野が広ければ、結果として、日本の近代化とともに、港湾ができ、経済活動の活発化や人口拡大につながっていたと推察します。

島根県の経済が発展しなかった理由については、「高度経済成長の流れに乗れなかったため」といった意見もあります。しかし、都市発展の理論や本記事での分析を踏まえると、自然条件という根源的な理由が強く影響していると思わざるを得ません。


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