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"ダンボールに重なる手" (2分で読める小説)

"ダンボールに重なる手"

「蒼くん、ちょっと手伝ってよ!」
 林真紀はダンボール箱を抱えてうわずった声を出した。
 こっそりと誘うはずだったのに。 
 こちらを見上げるクラスメイトの視線に思わず頬を赤らめる。教室の飾り付けをさぼって友達と談笑していた東條蒼は、気恥ずかしそうに真紀を見上げると「別にいいけど」と立ち上がった。
 ダンボール箱の中にはハサミなどの小道具が詰まっていた。別に重くはなかったが、二人で持つとバランスが崩れて、下校時間を過ぎた静かな廊下にガシャガシャとうるさい音が鳴り響いた。
 真紀はちらりと視線を上に向ける。すると蒼と目が合って慌てて視線を下げた。何だかダンボール箱が熱い。
「あのさ」
「へっ? な、なんだよ?」
「いや、やっぱなんでもない」
 距離が近いからだろうか、ちょっぴり背の高い彼の声は首筋の産毛を震わして、その息遣いに毛先が揺れる気がした。
 先週の金曜日、駐輪場の裏で蒼が告白してきた時、真紀は咄嗟に「文化祭が終わってから返事をする」と答えた。本当は嬉しくてその場で手を握りたかったのだが、蒼とは小学生から知ってる仲だけに照れ臭かったのだ。
 蒼の歩くペースが少し上がった。真紀も慌ててペースを上げる。ダンボールがひっくり返りそうになり、うわっと持ち直そうとするとお互いの指が触れ合った。
「あのさ!」
 蒼は立ち止まって真紀を見つめた。真紀は赤面して視線を明後日の方に泳がす。
「な、なんですか?」
「あの、あれだよ。えっと」
 今ならおっけー出来るかも。即答で。真紀は左手をダンボールから離すと恥ずかしそうに髪を整えた。
「えっと、いや、やっぱりまだ何でもない!」
「……へえ? もう、なんなのよぉ!」
 真紀は拍子抜けしたように彼の目を見つめた。蒼は慌てて前を向くとぎこちなく歩き始めた。
 文化祭が終わってからと言ったのは、そういえばあたしだったな。真紀は顔を赤らめる彼の手を無性に握りたくなる。
 こうなったらこっちから告白し直してやろうと深呼吸をした。だけど、喉まで出かけた言葉が中々出て来ない。
 やっぱり、もう一度告白してくれないかなと祈るようにその横顔を見つめた。

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