『たまごの祈り』㉘

 久しぶりに食べたお鍋は暴力的に美味しかった。雑に入れたから何枚かでまるく固まってしまった豚肉も、温め直しすぎてすっかりスープを吸い込んでしまったシメのラーメンも、ぜんぶ私たちのために存在していた。
 お鍋いっぱいに膨らんだラーメンに生卵を割り入れながら、私は柳に言った。
「今日、たまごを作ったの」
 卵は温かなラーメンに触れたところから白くなっていった。
「へえ、伊田と初めて会ったときに売ってたようなやつ?」
 柳はとがった箸先で乱暴に卵をかき混ぜた。
「そう。まだ着色はしてないんだけど」
 卵に包まれたラーメンはみるみる幸せそうな黄色に染まった。
「見たいな。部屋にあるの?」
 お鍋からラーメンをすくい上げながら、柳はそう言った。
「うん。取ってくる。ちょっと待ってて」
 部屋から木製のたまごをみっつ、柳に見せるために持って行くと、柳は、すごいな、本物の卵みたいだ、といって褒めてくれた。彼は慈しむように、つやつやのたまごの表面をしきりに撫でた。
「夢の話の続きを聞かせてくれたら」
 柳が顔を上げて言った。
「そのときに、おれの秘密の話を聞かせてあげよう」
 これありがとう、と言いながら柳はたまごを大事そうに私の掌に乗せた。柳の指先から熱が移って、たまごは微かに温かくなっていた。

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