『たまごの祈り』㉑

 目が覚めたらカーテンの隙間から斜めに光が差し込んでいた。久しぶりにあの日の夢を見たので自分でも驚いた。私は静かに浅い呼吸を繰り返して、そのままじっと動けずにいた。
 あんなものは、ただの事故だったと思う。
 人には事故的に不幸が降りかかることがあって、それによって多少気分が悪くなることもあるけれど、加害者が故意でやっていたとしても、世の中の全員が悪だとは思わないし、あのころから関係のない母親を悲しませた自分が嫌になってしまうくらいのことだ。幼かった自分には防ぎようのなかったことだし、あれ以来母に色々と気を遣わせてしまったのが申し訳ないけれど、少し男性が苦手になっただけで、あれ以来実害はないし、私が私を責めすぎてもどうにもならないのでもうやめにした。私はもう大人なのだ。
 ほんとうに?ほんとうに私は大人なのだろうか?
 あの頃となにも変わった気はしなかった。私という人はただぼんやりと生きて、時折不幸だったりそうじゃなかったりした。

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