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『ノマドランド』にみる、現代(いま)を生きる答え

この感慨はなにかに似ている。
ずいぶん前に観て動揺を覚えた『イントゥ・ザ・ワイルド』だ。ジョン・クラカワーの原作『荒野へ』もすばらしかった。

持つべきものも多くは持たず、流浪の民としてキャンピングカーで全米を移動しながら、季節労働の現場を渡り歩くノマド(遊牧民)の女性ファーンを主人公に、厳しい現実と向き合いながらも、仲間たちと温かな交流を重ね、自らの責任と覚悟を胸に、自由で誇り高き旅をつづける姿を、アメリカの美しい自然をバックに綴る。 

(allcinemaより)


原作はジェシカ・ブルーダーの世界的ベストセラー・ノンフィクション『ノマド:漂流する高齢労働者たち』。
『スリー・ビルボード』の好演が印象深い、主演のフランシス・マクドーマンド氏に圧倒される。

最愛の夫を亡くし、家を手放し、キャンピングカーでノマド生活を送りはじめた彼女は、けっして恵まれても、心から幸せそうにも見えない。旅暮らしは苦労ばかりだ。
それでも時々、驚くほど自然のなかでキラキラと美しく、愛らしく、根源的な生を誠実に生きる姿に揺さぶられる。
クリストファー・マッカンドレスの生き様を見た時とおなじ、こんなに羨ましくなるのはなぜだろう。
ミニマムな暮らしが私も好きで、ミニマリストなんて言葉が流行る前から物をあまり持たずに生きるのが好きだった。
だからこそ、憧れてもできない彼らの生き方に深い所で動揺してぐらぐらくるのかもしれない。

切り取られる、アメリカの荒野があまりにも美しい。
驚くほど広いアメリカの大地の魅力に気づいてしまう作品でもある。
荒々しくて、登場人物はオープンで、屈託なく、素朴。
たしかに不便で生活に苦しい面はあっても、なにものかからは完全に自由で、野垂れ死ぬのも自由。
孤独といえば孤独なのかもしれないが、都会の孤独死とは大いにちがう。
マッカンドレス君の無念の死ともちょっとちがう。

監督はクロエ・ジャオ氏。
共演に『ジェイソン・ボーン・シリーズ』でCIA局員を演じていたデヴィッド・ストラザーン氏。
老年にさしかかったふたりの人生が交差して、ごく仄かなロマンスの生まれて終わる様もまた、自然のなかに至極ナチュラルですてきだった。 (108min)

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