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『オッペンハイマー』にみる、世界を変えた核兵器のコワサ

クリストファー・ノーラン監督最新作は“原爆の父”、天才理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの実像に迫る伝記ドラマ。 3時間と長いが1ミリも退屈させない演出の妙と、とにかくオッペンハイマーを演じるキリアン・マーフィ氏がヤバい。 広島と長崎に原爆が落とされて、のちにオッペンハイマーは苦難のなか、核軍縮を呼びかけ、赤狩りに遭い、そのキャリアは幸せなものとはいえなかった。 第二次世界大戦下の“マンハッタン計画”、ニューメキシコ州のロスアラモス研究所、のちのオッペンハイマー事件

    • 豪華絢爛『プロスペーローの本』にみる、ピーター・グリーナウェイの偏執

       ”ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ”と題したリバイバル上映が、ここ札幌にもやってきた。 どれも未見の4作品のなか、ずっと気になっていた『ZOO』観られず。 『プロスペローの本』に足を運ぶ。 シェイクスピアの『テンペスト』さえ知らず、簡単なあらすじを頭に入れて、あとは映像の偏執的狂気をたのしみに。 手作り感たっぷり、流動的な画面に繰り広げられる、舞台劇の閉塞を逆手に取った絢爛豪華なショウ。 ワダエミの手になるゴージャスな衣装に、マイケル・ナイマンの贅沢な音楽、た

      • 『ノマドランド』にみる、現代(いま)を生きる答え

        この感慨はなにかに似ている。 ずいぶん前に観て動揺を覚えた『イントゥ・ザ・ワイルド』だ。ジョン・クラカワーの原作『荒野へ』もすばらしかった。 原作はジェシカ・ブルーダーの世界的ベストセラー・ノンフィクション『ノマド:漂流する高齢労働者たち』。 『スリー・ビルボード』の好演が印象深い、主演のフランシス・マクドーマンド氏に圧倒される。 最愛の夫を亡くし、家を手放し、キャンピングカーでノマド生活を送りはじめた彼女は、けっして恵まれても、心から幸せそうにも見えない。旅暮らしは苦労

        • 殺人鬼が整形して『夜歩く』

           初めて読むディクスン・カー(1906~1977)で、記念すべき処女作。 『It Walks by Night』1930年刊行。 翻訳によって随分印象の違うらしい本作。最新のものでも読みにくさを指摘されたりしているようだ。 こちらは半世紀前の創元推理文庫版、井上一夫訳。 評価はしらないが、読みにくいことはなくたまにクスッと笑う。 仄かな怪奇趣味と、おもわせぶりの人狼と、密室殺人トリックの甘さ、それら含めて時を経たいまも楽しい。ミステリに疎いからこそ緩さがよい。 名探偵アン

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          『アネット』にみる、滾り

          鬼才レオス・カラックス作品をこれほどすんなり好きとおもえたことに驚く。 もちろん主演のアダム・ドライヴァーとマリオン・コティヤールの魅力が大きく、初期のあまりにフランス的なところの最早ない、ロック・オペラ・ミュージカルは適度にファンキーにダークでたのしい。 挑発的なスタンダップ・コメディアン、ヘンリー(ドライヴァー)は、国際的に有名なオペラ歌手アン(コティヤール)と情熱的な恋に落ち、世間の大いなる注目を集める。やがて2人の間にミステリアスな娘アネットが誕生し、アンとヘンリ

          『アネット』にみる、滾り

          ミステリ作家による本のススメ、『米澤屋書店』

          ミステリー作家・米澤穂信氏が様々な媒体に書きためてきた書評やお勧め本、対談を一冊にまとめた、デビュー20周年記念エッセイ。 ミステリ好きでなく疎いのになんとなく手に取る推しの推す作家による読書エッセイ。 読みたい本が増えるのではとドキドキしていたわりに、ノート1頁を〆るに留まる。やっぱり私はミステリ好き、ではない。けれども、この本の真摯な良さとは関係がない。おもしろい。 本の話はたいてい映画の話に通じて、どちらにしても、ほんとうにそうだとおもう。 鞄ひとつで済むはずの

          ミステリ作家による本のススメ、『米澤屋書店』

          ウラジーミル・ソローキン『テルリア』リプス!

           『青い脂』の凄まじい読書体験が忘れられないウラジーミル・ソローキンの描く、”ユートピア的多島海(アーキペラゴ)”と化した近未来ロシア。 なんというイマジネーション! なんという自由! ワケがわからない面白さ。 『青い脂』でもそうだった、妙味に気づけていないことは読みながらにして明らか。 なのに麻薬のように不思議世界へ引っ張られ、あらゆる手法、あらゆる長さ、あらゆる遊びとイロニーで読まされてしまう。 むつかしくても放り投げられない。 『青い脂』よりストーリー性を失った、際

          ウラジーミル・ソローキン『テルリア』リプス!

          『ガスパール/君と過ごした季節(とき)』にみる、南仏の風と人の優しさ

          冒頭、いきなりの姥捨てに笑ゲキ。 一文無しのおばあちゃん(シュザンヌ・フロン)を迷わず助けたのはロバンソン(ヴァンサン・ランドン)。彼は幼いころ母親に捨てられて、困った人を放っておけないのだ。 一方、共同で海辺のレストランを準備するガスパール(ジェラール・ダルモン)は、妻が家出して以来、家族の絆にはうんざりだ。 再度姥捨てにかかるガスパール...だがロバンソンの庇護が実を結び、いつしか三人の暮らしに慣れていく。 目下失業中の男たちが、夜な夜な金持ちの家に忍び込んでは食糧を

          『ガスパール/君と過ごした季節(とき)』にみる、南仏の風と人の優しさ

          『BLUE GIANT』にみる、ジャズ魂

          石塚真一氏の人気コミックスをアニメ映画化。 世界一のジャズプレイヤーを目指す主人公・大(山田裕貴)が、音楽への情熱を力に、仲間とともに駆け抜けた熱き青春の日々を、上原ひろみをはじめとする世界的プレイヤーが実際に担当する圧巻の演奏シーンとともに描き出す。 全10巻のコミックスは未読。原作のごく一部を掻い摘んでいるそうだ。 それでも青春のすべてジャズに捧げる熱さは十分伝わる。 同時に、ダイジェストのようでかなりの割愛を予感させるし、女の子がまったく出てこないのだった。 仙台

          『BLUE GIANT』にみる、ジャズ魂

          さようなら石川、こんにちは愛知。

           娘氏の学位授与式を終えて、石川から愛知へ。 鉄道でも飛行機でもない、乗り捨てレンタカーにて。 途中、白川郷を散策、寄り道しながら、一路南へ。 富山から岐阜へ入るころにはだんだん雪が強くなってきた。 何台もの除雪車とすれ違う。 まだ寒い北国からきたというのに... ここは北海道ですか?と尋ねたくなるほどの雪景色。 けれど山の木々は珍しい杉が多くてうつくしい。 極私的に喜んだのは敬愛する堀江敏幸氏が育った多治見市を見られたことです。 氏が18歳まで過ごした街を車窓から眺める

          さようなら石川、こんにちは愛知。

          作家にしておくのにはもったいない、イケオジ島田雅彦著『君が壊れてしまう前に』

          いつか教育テレビで見かけた島田雅彦氏が、作家にしておくにはもったいないほどの私的イケオジすぎて、著作を手に取ったのはかれこれ7年も前の話。 島田作品はぜんぶいい。そんな感想をどこかで目にして、制覇したいとおもったまま、やっぱり7年が過ぎていた。こわ。 『ニッチを探して』以来、久しぶり。1998年角川書店刊行。 ーかつて14歳だったあなたへ。いま14歳の君に。ー (帯) そんな頼もしいエールを込めた異端児の日々のキロク。 日記文学が好きなわたしによく響いた。 1975年、

          作家にしておくのにはもったいない、イケオジ島田雅彦著『君が壊れてしまう前に』

          『ヴァチカンのエクソシスト』にみる、職業としての悪魔祓い師

          長年にわたってヴァチカンの正式な悪魔祓い師=エクソシストとして活躍した、実在の神父ガブリエーレ・アモルトの自伝を映画化。 1987年7月。ローマ教皇から直接依頼を受け、憑依されたという少年を調べるため、アモルト神父(ラッセル・クロウ)はスペインへ向かう。 少年はシングルマザーの母(アレックス・エッソー)と反抗期の姉と共に修道院に滞在していた。 その尋常ならざる容姿と言動から、すぐに悪魔の仕業と確信するアモルト。悪魔の正体を探るべく、若き神父トマース(ダニエル・ゾヴァット)を

          『ヴァチカンのエクソシスト』にみる、職業としての悪魔祓い師

          ゴシック小説の誕生『オトラント城奇譚』ウォルポール

           1764年、ホレス・ウォルポール(1717~1797)によってイギリスで発表されたゴシック小説の始祖。 ある日、著者の見た夢の世界を基に描かれた『オトラント城奇譚』解説によると、「私は何でもよい政治以外のことを考えられるのがとても嬉しかった…」という。 政治家で小説家でもある伯爵ウォルポールが息抜きのようにして書いた初のゴシック小説はその装丁のこだわり諸々に期待しすぎたのか、恐ろしくも面白くもなかった。 時は中世、南欧オトラントの城主の息子コンラッドは婚礼の当日、黒い羽

          ゴシック小説の誕生『オトラント城奇譚』ウォルポール

          『夢みるように眠りたい』にみる、林監督デビューの伝説

          私立探偵、魚塚甚(佐野史郎)のもとに、月島桜(深水藤子)と名のる老姿から、誘拐された娘・桔梗を探してほしいとの依頼がくる。 調査を進める魚塚は、依頼主・月島桜が主演してラスト・シーンを残して未完に終った無声映画「永遠の謎」がこの事件の鍵となっていることを知る。 事件はその映画のストーリーにそって展開し、魚塚は、娘を探しているのではなく「永遠の謎」のラスト・シーンを追っていることに気づくのだった― コアなファンのいそうな、林海象監督デビュー作。稲垣足穂原作『彌勒 MIROKU

          『夢みるように眠りたい』にみる、林監督デビューの伝説

          演奏会へ、そして13年と10年

          親友の出演するジュニア・オーケストラ・フェスへ行ってきました。 久石譲さんジブリ曲は鉄板で、第2部にはスメタナさんのモルダウ。昔よく聴いた気がするけど、久しぶり生で聴くと、繊細なフルートからのはじまりがすでに難しそう。日本語で歌った、音楽の授業を思い出します。 おしまいはドボルザークの新世界。これまた生で聴く機会の久しい曲で懐かしい。選曲が地味、ではある。 学生時代から変らず楽器を弾きつづけている友の姿に感化され、いい刺激を受けて帰りました。いつもありがとう。 Kit

          演奏会へ、そして13年と10年

          『一本の線』野見山暁治、再読

          洋画家・野見山暁治による私小説。1990年刊行。   アルバイトしていた古書店で、著名な作家さんから注文が入り、そのタイトルがずっと気になっていた一冊。 とうぜん、同姓同名の別人である可能性はあるけれど、その作家が紡ぐ流麗な言葉選びに通じるものがある。 なんとも清々しい気持ちになる本。 太平洋戦争を挟んだ画学生としての暮らし。幾人かの異性との思い出。炭鉱を経営する実家と、家族との記憶。胸を患い、実家で療養せざるをえなかった日々のことなど。 ほんとうにこの人は画家なのだろ

          『一本の線』野見山暁治、再読