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『ヴァチカンのエクソシスト』にみる、職業としての悪魔祓い師

長年にわたってヴァチカンの正式な悪魔祓い師=エクソシストとして活躍した、実在の神父ガブリエーレ・アモルトの自伝を映画化。

1987年7月。ローマ教皇から直接依頼を受け、憑依されたという少年を調べるため、アモルト神父(ラッセル・クロウ)はスペインへ向かう。
少年はシングルマザーの母(アレックス・エッソー)と反抗期の姉と共に修道院に滞在していた。
その尋常ならざる容姿と言動から、すぐに悪魔の仕業と確信するアモルト。悪魔の正体を探るべく、若き神父トマース(ダニエル・ゾヴァット)を助手に、本格的な調査に乗り出すのだが―

悪魔憑きものが面白かったのは遠い昔。名匠ウィリアム・フリードキンの、元祖『エクソシスト』がなぜあんなにも恐ろしかったか、いまだ色褪せない。
昨今ようやくホラー界に新星アリ・アスターが現れ、悪魔とはいわないまでも観る者を憑かれる恐怖に陥れてくれた。
その間、半世紀は長かった。

ラッセル・クロウ演じる巨漢のアモルト神父を、何気にコミカルに、型破りな人間味溢れる造形にした本編。
自伝の映画化というのだから、スクーターにサングラスも、エスプレッソへのこだわりも、本当なのかもしれない。

一家は、亡くなった父親が遺した故郷の修道院を頼りアメリカからやってきた。
当面の暮らしのため、ゆいいつの遺産である修道院を改修して売却するまでのあいだ、その歴史が沁み込んだ院内に住み着いたのだが...次々と怪奇現象が一家を襲う。
父親を失ったショックで口を利かなくなった弟の異変にはじまり、なにか邪悪なものが姿を現そうとしていた。

美人で健気な母に、反抗的な姉、見るからに不気味な痩せぎすの弟。定石通りの人物像は絵に描いたようで、変われない通俗をおもう。

ただせさえ気味悪い弟くんがトリツカレ、おぞましい様相を呈していく。
若きトマース神父ではまったく太刀打ちならず、ヴァチカンのアモルト頼みとなるのだが...こんどばかりは一筋縄ではいかないのだった。

この場所でかつて行われた異端審問、修道士により封印された悪魔の存在。その悪魔は、運命的に導かれたアモルトに取り憑き、ヴァチカンの崩壊を目論む。

写本や異端審問、ヴァチカンの歴史が加味されて、時代は違えど『薔薇の名前』を思い出していた。剽軽なラッセル・クロウがどことなくショーン・コネリーに似ているためかもしれない。
もちろん『薔薇の名前』のあの素晴らしさはなく、元祖『エクソシスト』の足元にも及ばない、見て損はないなんて言えない凡庸なサスペンス・ホラーなのだが。

悪魔祓いとヴァチカンの安泰を約束するような、信者には納得いくだろう結末になっている。

 (アメリカ=イギリス =スペイン合作/ 103min/監督 ジュリアス・エイヴァリー)


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