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SS 夜の株式会社 三題話【ティーブレイク&株式会社&妥協】

 深夜のビルの窓は暗い。残業する人達が居るのか窓の一つに明かりが見える。夜の株式会社だ。普通と異なる能力を持つ彼らは、妖怪や悪魔と交渉す深夜の戦士。

 若いOLが不満そうに係長に文句を言う。

「えー係長、栄光の手って経費で落ちるんですか?死刑囚の手ですよ」
「葬儀屋にコネがあるんだよ、袖の下で使うから計上しといてくれ」
「課長が呼んでます」

 若い部下が係長に近づくと耳打ちする。嫌な顔をして、髪の毛がすっかりまばらな係長が課長の席に行く。もう歳で現場仕事に狩り出されるのはきつい。

「君ね、なんでもかんでも経費にしないでくれよ」
「……必要なアイテムなんです……」

 合理化だ、経費削減だ。そんな話は普通の会社でしてくれと思う。それは天命なのだろう、俺は魔力が使える事が判ると、夜の株式会社に転職した。給料はいいが、命の危険がある。それでもやりがいは有る。

「新しいビルの建築場で悪魔が出ている、対応してくれ」

 課長はポンと書類を机の上に投げた。俺はそれを持って会議を招集する。資料を読むと昆虫の姿をした【ロノベ】が関係している。話術の悪魔だ。

「今回は説得で回避しよう」

 部下の前でなるべく軽い仕事と思わせる。プレッシャーが大きいと今の若い奴は辞めてしまう。深夜零時になると夜のティーブレイクだ。悪魔よけの薬草を煮出した汁を飲む。うーんまずい、もう一杯。

「もう外出ならタクシー代出してくださいよ」

 OLが催促する。朝になれば電車が動くだろうとつぶやく。魔方陣を使い工事現場まで転送する。さすがに帰宅に魔法は使えない。なにしろ移動するだけで生け贄のネズミが死ぬ。かわいそうだ。

 現場には確かに悪魔が居た。だが第三軍団所属の【ロノベ】ではない。第四軍団の【ゴモリー】だ。軍団のナンバーすら間違っている。課長の資料が使えない。

「なにか用か?私はゴモリー、お前らの嘘見抜く!」

 悪魔との交渉は、大半は対価を渡して戻ってもらうのが通常対応だ。下っ端の悪魔も命令されて地上に来ているだけだ。サタンから地上侵略の命令が出ているのか、最近は頻繁に悪魔が出現する。いつもは賄賂を渡して帰ってもらう。別に闘ったりはしない。エクソシストは人間側も負担が大きい。

「あ!私は、夜の株式会社の係長です」

 名刺を渡す。【ゴモリー】は不審そうに紙切れを受け取る。女性の悪魔で顔が醜い。ガマだ。実際に周囲はガマだらけだ。下手すると踏む。

「それで人間は何を対価に差し出すの?」

 人類も最初は神父を利用してエクソシストで解決したが、両方に損害が出た。悪魔も人間も知恵で解決することを望んだ。彼らもサラリーマンみたいなもんだ。

 俺は【ゴモリー】に対価のリストを渡すと、ページをめくりながら納得したようだ。

「用意周到ね、それでは最後に私の質問に答えなさい、私と結婚したいか?」
「かまいませんよ」

 醜い彼女は俺を凝視する。悪魔の挑発だ。嘘をつくと相手を溶解させる【ゴモリー】は俺の答えに憤怒したのか両手を挙げて呪詛を唱えたが、俺は平気だった。

「なんだと………? お主は真実を言ったのか? 」

 俺はうなずく、夜の妥協だ。この仕事は長い、悪魔についてはよく調べている。悪魔を騙すのは危険すぎる。彼女はにっこりと笑うと俺を抱きしめた。

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「今日は遅いの?」

 俺は彼女と結婚した、出社前に妻は俺に抱きついて甘える。ガマは偽りの姿で本来は美しい。俺の奥様は悪魔だ。

終わり


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