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赤い血(終) 剣闘士マリウスシリーズ

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あらすじ

フェデリコ議員の親族の殺害の件で、ヘカテーの屋敷は強襲された。庭に引き出されたマリウスは議員殺害を自白する。

「俺はキリスト教徒じゃない、信じてくれ」
ヤコポは必死に訴える、奴の持ち物の中からキリスト教徒が持つ聖なる印の小石が見つかる。庭で跪いている俺を指さしながら、こいつだと叫ぶ。元は俺が闘技場で死刑にされる少女から手渡された持ち物だ。

別に擁護する気もないが
「それは俺のものだ、そいつは判らずに俺から奪った」
役人が妙な顔をして俺を見る。
「なぜ白状をする?奴隷仲間を助けるためか?」

役人は屋敷の所有権をフェデリコ議員に移すと宣言をした。主人を含めて全員を奴隷として扱うと告げる。ヘカテーが騒ぐと俺を蹴り始めた。とばっちりだ。

「この男が全て悪いの、こいつだけ殺して」
泣きわめく彼女は屋敷の外に連れ出される。彼女を見たのはそれが最後だ。俺は議員殺害の件とキリスト教徒として、大闘技場で殺されると決定された。俺の最後がコロシアムなら思い残す事もない。

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大闘技場の暗く狭い地下の牢屋に居る。猛獣も別の檻に居る。ここから地上に出されて処刑される。猛獣に食わせるのも見世物として人気がある。

そこには他のキリスト教徒達も居た。みな落ち着いている。殉教という考えが彼らにある。死ぬ事で天国にいける。だから死が怖くない。一人の男が立ち上がると俺に近づいた。

「足が悪いのか」

彼が俺の足に手を触れた。俺は単に心配をしただけと感じた。大きなホルンが鳴らされると地上に連れ出される。俺は兵士に引きずられて大闘技場から空を見る。青い空が美しい。

兵士がキリスト教徒を殺すために俺たちを囲む。剣や槍を使い処刑が始まる。ヤコポも居た、俺に近づくと大剣で俺を殺そうとした。俺は無意識で立ち上がるとステップを踏みながら奴の脇腹に肘を入れる。ヤコポは痛みで苦痛の声をあげる。死ぬつもりなのに体が動く。動けば後は訓練と同じ。

自分が立ち上がれた事に驚くが、キリスト教徒達は奇跡も信じている。死んだ人間が蘇った話もある。奇跡なのか本能なのか判らない。萎えた足でふらつく。それでも戦えた。

ヤコポが脇腹を押さえながら剣を使うが、手首を取る。手首を強く握ると剣を持つ手の握力が無くなる。それを利用して剣を奪い取ってヤコポの顔面を切り裂いた。横倒しになるヤコポの首に剣を入れる。

普通の処刑人は格下の相手だけを殺す。剣闘士が相手では熟練度が違う。そして彼らは油断をしていた。いつものように反撃が無いと勘違いをした。俺は処刑人を一人ずつ殺す。

リッカルドも居た。彼は俺に手をかざすと殺意が無い事を示して逃げた。俺は他の兵隊を残らず殺した。闘技場には生き残ったキリスト教徒と俺だけが残る。しばらくすると重装備の兵隊が到着する。

「こいつらは、平和を望んでいた、それでも殺すのか!」
無抵抗の人間を殺す見世物。それを楽しむ奴らに、俺は怨嗟のような感情がわいていた。俺は怒鳴り続ける。幸せになりたいと願うのが悪か?平穏を望むのが間違いか?俺は体の血を手につける。手を真上に上げる。真っ赤な血を見せながら観客席に見せつける。茶番でしかない。意図は理解しても納得する奴は居ない。群衆は俺にヤジを飛ばしながら殺せと叫ぶ。

一人の貴族の女性が闘技場に乱入した、リッカルドも後ろから走りながらついてくる。貴族はアウローラだ。奴隷だった彼女は親族の元老院のフェデリコの元で幸せに暮らしていた。

アウローラは
「キリスト教を信じる人はローマでも多いの、お願い。もう血を楽しむのをやめて」

観客がざわめく。珍しい出し物。芝居なのかと勘違いする奴まで居た。誰かが彼女を指さす。
「魔獣を倒した娘だ」
みなが驚きながらも確認をする。さざなみのように喝采が広がる、血を見るのを飽きた人間もいた。同じ血を持つ人間を殺すのが本心では嫌な人間も居る。英雄が主張をすれば賛同をする人も増えた。観客がアウローラの名前を叫ぶ。

ホルンが鳴らされる。元老院のフェデリコ議員が貴賓席から手を上げた。
「処刑を一時中止する」
みながざわめく中で、俺一人で兵士を殺した事に喜ぶ観客もいる。俺の名前を呼び始める。大競技場で俺の名前が連呼された。

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最終回-2

質素で何も無い部屋の中で目が覚める。農園を巡回して葡萄の出来を見る事にする。俺はアウローラが管理する農園で働いている。あの時のキリスト教徒も一緒に連れてきた。既にローマでは血の見世物を嫌悪する人達も増えていた。きっかけは誰でも良かった。

父のように農園を歩きながら俺は世界が変わる日が来ると信じられた。

終わり

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あとがき

本来は無双する剣闘士を描こうとして無理だと理解できた話です。ヒーロを描けそうにないです。この路線は諦めます。

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