見出し画像

SS 列車の旅 #たいらとショートショート (720文字)

「先にお飲み物お伺いしましょうか?」
駅弁を頼もうとして車内販売の女性に弁当の種類を聞くと、まずお茶を選べと言われた。お茶なんぞ一緒だと思うが種類を選べと言われた。

「じゃあウーロン茶で」
無いと言う。別の品名を言うと、すべて無い。
「じゃあ何があるんだよ」
と半笑いで聞くとポリ茶瓶を出して見せる。
「暖かいのと冷たいのがあります」

その容器は四角い半透明なプラスチック製品で蓋が丸くコップになる。まだ扱ってるのかと思って暖かい方を買う。細いプラ製の紐がついている。それを車両の窓の所に置くけど不安定そうだ。

「お弁当はどれにいたしましょう?」
俺は弁当を見せてもらうと釜飯弁当しかなかった。茶色の陶器製の弁当を買う。腹が減っているので、まずはお茶を飲む。丸いコップにお茶をそそぐが、とにかくちゃちい。こぼしそうになりながら、すするように飲む。苦い。こんなに苦いのかと思うがまずくは無い。思い出してきた。

お茶を置いて釜飯弁当を開ける。紙の紐を外すと素焼きの肌色の蓋を取る。中身はウズラの卵や栗、ゴボウや椎茸もある。鳥肉は硬いけど味は染みている。器を股の間で固定して、割り箸を入れる。硬い。中に入らない。冷たく硬い飯をほじりながら、一口食べる。

「まぁこんな味だったな」
別にまずくは無いが、おいしいと褒めるような感じでもない。俺はお茶を一口飲むと硬い飯を溶かす。栗を食べてウズラの卵を食べて飯を食べる。おかず、おかず、飯とお茶のルーティンを崩さずに食べ終わる。最後に残った苦いお茶を飲みながら、列車の旅に満足をする。

そろそろ目的地だ。俺は降りて一泊してからまた列車に乗る。今日は別路線の駅弁を食べるためだ。車内販売の女性が来る。
「ご注文はいかがなさいますか?」

(720文字)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?