歯ッピー歯ッピー歯ッピー

約20年越しに歯科に行った。

何故行こうかと思ったのかと言うと、この前霜降り明星の粗品が「虫歯18本見つかった」と告白していたからだった。自分ももしかしたら粗品並、なんならそれ以上なのではないか、と。

数年前から知覚過敏のような症状があり、水道水で口を濯ぐのが辛かった。すぐに飲み込めば特に支障はないが、歯を磨く時にかなり痛む。今月頭、雪の降り積もる六本木ヒルズにテンションが上がり撮っていた動画を見返すと、「雪すご〜」ではなく、「歯、痛ぇ〜」という自分の声が入っていた。切ない気持ちになってしまった。

小学生の頃に通っていた歯科は、比較的親切で、綺麗だったと思う。特に怖い思いをしたわけでもないし、怒られたりしていたわけでもない。
なのに記憶に残るのは、口腔に突っ込まれたゴム臭い指の味と、気が遠のきそうなタービンの音、そして麻酔が抜けなくて涎が垂れ流されていくあの感覚である。それが形骸化し、齢26になるまで小学生以上に歯科を忌避していたのだ。
痛みを誤魔化し誤魔化し生きて来たが、もうこの歳になり、健康は何よりも大切にするべきだと徐々に学んできた。私は金と恥よりも健康を取ることにした。

家の近くの歯科はとても綺麗だった。緊張しながら診察室に入ると、隣の部屋からおばあちゃんの声、その反対側からは子供の声がした。幅広い年齢層に少し安堵を覚える。
それも束の間、おばあちゃん側からあのチュイィインという音が聞こえて来た。直後、子供側からも同じ音。この歯科のサイトには「なるべく削らない治療を」と書いてあったはずなのに。
間も無く担当医が入って来て、レントゲンを取り、診察へと進む。見たことのない器具を口に入れられ、あの高校時代の歯科検診で聞いた「1から3がなんとか、4がシーなんとか」みたいなアレを唱えられた。
ドブカス素人が聞いていてもわかる。殆ど「シーなんとか」と言われている。要するに健常な歯の方が少ないのだろう。

そしてその後クリーニングに移る。風を当てられながら、あのチュイィイインが耳元で聞こえた。
あれ、今日は削るとは聞いていないはずだが、と思った時、口内がとんでもない水圧で押し流される。チュイィイインは削る為の機械ではなく、歯石を除去する為の機械だったのだ。新たな知見を得た。
あまりにも頑固な歯石が多かったのだろう、クリーニングは恐らく体感30分近く続いた。だんだん顎の力が弱まり、風を当てられ続け、歯より先に乾燥しがちな唇がパリパリになり、痛みを感じるようになって来た。
「痛みがあれば右手を挙げてくださいね」と言われていたが、流石に「唇が割れそうで」とは言えなくて耐えた。だんだん辛くなって来て、己を鼓舞する為数多の猫ミームを脳内で流すことにする。

クリーニングがようやく終わると、担当医が来てレントゲンの写真を見せられながら、「虫歯が8本あります」と診断された。
多分先生の口調的にヤバい数字なのだろうが、粗品の18本を聞いていたから然程ダメージがなかった。漠然と「粗品の二分の一かぁ」と思った。

奥歯の一本は虫歯が既に神経に到達しているようで、神経を抜く治療をしなければならないらしい。神経って抜けるんだ、と新鮮に驚く。
そして削った後は詰め物をしなければならず、銀歯にするかセラミックにするかカタログ的なものを見せられる。
自分の身体の見た目に金属が入ることが少し怖くて、セラミックにしたいと言うと、一本あたり5万円(保険適応外)と答えられた。8本で約40万。
つまり粗品は120万である。お前が太客やないか。
取り敢えず即答は出来ず、次回に見積もりを正式にもらうことにした。
ツルツルになった下の歯の裏を舐めながら、偶然にも今日額が明かされた賞与のウン分の1が詰め物になるのかぁ、と考えた。

帰宅後、前の職場の上司とのLINEで「虫歯8本見つかったのでセラミックにします」と言うと、突然電話がかかってきた。何事かと思うと、「私もインプラントで100万飛ぶんだよね」と告白された。
思わぬところに仲間がいて心強く思う。健康的な歯を手に入れようと誓い合い、終話した。

今まで目を背けてきたものと向かい合う覚悟は、いつだって辛いものだ。
まだ違和感の残る下の歯の裏に慣れるのはいつになるのだろうか、と思いつつ、今日も歯茎から血を出すのだった。

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