羊監督

浦世羊島 うらせしじま 1955/10/10生まれ 本名矢ヶ崎芳也 長編ミステリー「S…

羊監督

浦世羊島 うらせしじま 1955/10/10生まれ 本名矢ヶ崎芳也 長編ミステリー「Sign」執筆終了。 さんまさん、江川卓、所さん、故勘三郎、故千代の富士と同世代です。 本業は特殊な占い師。守護霊前生も鑑定。手かざしもします。鑑定料高いけど元は取れるはず。

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  • 長編ミステリー コSign

    2年半費やしましたが、ようやく小説が完結しました。 「コ」は小・故・固・呼・股・娘・己など多くの字を包含する「コ」です。 別に自信がある訳ではないのですが、横溝正史ミステリー&ホラー大賞の締切に間に合ったことを知り、応募してみました。 痴漢問題をメインとして、線維筋痛症やラブストーリーなど多くの要素を取り上げました。長いのでゆるゆるでも読んでください。

  • 現代詩・小説

    自作の詩や、気になる小説やネタを上げます。

最近の記事

20.エピローグ―愛と恋の行方

岩田は3日有給を取って、色川の家に泊っていた。岩田は昇進のことを真っ先に話すと、 「え、凄い。捜査一課の警視なんてドラマや映画でしか見たことないですよ。嬉しいな」 「ドラマみたいに派手な仕事じゃないけどね。喜んでくれるならよかった」 「話はそれだけ?」と色川は暗に催促する。 「いや、真面目な話をします。付き合ってください。結婚を前提に」岩田は緊張した。 「その言葉を待っていたのよ。わたしは下の事務所を管理するだけにして、ハーフリタイヤしてもいい?ちょっと収入は減るけど、子供を

    • 19.終末ラプソディー

      そこへ高柳がノックもせずに入って来た。 「その盗聴器をよこせ。違法捜査だぞ」偉い剣幕である。岩田が落ち着いて答える。 「いや、違法じゃないようで。それより、なぜ署内を監視しているのですか?」 「監視だと?そんなことは、してない」徐々に音量が下がった。 「例えば取調室とか、よく調べてみましょうか?」岩田が問い詰める。 「いやいい。分かった。じつは上からの命令でしたことだ」高柳が降参した。 「湯浅氏、というのは湯浅剛之介警視監ですよね。矢野のリストにG・Y58歳とある。珍しいイニ

      • 18.G・Y

          加古は自分のアパートで慶菜と一緒に、ゴールデンウィークの予定を立てていた。 最近の慶菜は、服装の露出度が控え目になっている。コンタクトも外してメガネをかけていた。もう誰の目を惹く必要もないからだろう。普通のロンTにデニムだ。加古も着古した服装でリラックスしている。 「ディズニーランドは行きたいでしょ?」 「うん、そうだね。ただ混みそうだから、いっそその直前の平日に行かない?」 「それもそうね。じゃあ旅行とか」 「旅行は、まずケイちゃんのご両親に挨拶してからだよ。あ、それで

        • 17.晩春の嵐光

           『ああ、加古くん。なんか久し振りな感じだね。何か新情報があるの?』 「豊里村のことですが、地図を調べたら、篠崎家と千堂家が隣り合わせなんですよ」 『昭和30年から40年くらいの地図?』 「そうです。まさにその時期ですね」 『さやかと千堂はそれを知っているよな、普通』 「ええ。売却のときに地図を見たはずです。ということは千堂と篠崎さやかは、完全な他人ではない可能性がありますね」 『だよね。戸籍がいい加減だから調べようがないが、ある程度近親かも知れないな』 「その二人がいま出会

        20.エピローグ―愛と恋の行方

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        記事

          16.豊里裸族

           その頃、加古は一人でネット検索をして、事件のことを調べていた。千堂聡介の名前も挙がってくる。驚いたのは真偽のほどは定かではないが義理の娘、瑞穂の父親は先日外国で亡くなった橋爪大使だという情報だった。確かに橋爪大使は千堂の後ろ盾で、LGBTQ開放の賛同者でもあった。だが現在の千堂は篠崎さやかと不倫しているのは確定だ。連続殺人の主犯は千堂だろうか、と考えた。実行犯が誰なのか情報不足で分からないが、矢野であっても不思議はない。ただ、アンダーテイカーにも腕っぷしが強く、かつ痴漢加害

          16.豊里裸族

          15.消された二文字

           茜のスマホには『明京女子』という連絡フォルダがあり、二十人ほどの人物が並んでいた。それ以外にも『他大学』というフォルダもあり、そこには九人の連絡先があった。 「この人物すべてに当たれば、実行犯がいる可能性はあるんだね?」岩田が訊く。 「そうですね。可能性でしたらあります」 「早速聞き込みをしてみる。野津、捜査本部に伝えて欲しい」と岩田が言ったとき、江頭が部屋に入ってきた。 「陽晴が証言しました。ナイフのことは本当に知らないそうです。警察車両追突は仲間がやったと言っています。

          15.消された二文字

          14.誰がウィクトーリアか

           三鷹北署に戻ると、入り口前に報道関係者が来ていて、水巻という男が指名手配されているがどう思うかなどと訊いてきた。二人は何のことか分からなかったが、逆に質問すると、 「岸村の殺害犯ですよ。知らないんですか?」と言われた。最新のニュースはうっかりだがテレビもラジオも聞いていなかった。岩田が、 「それは警視庁に訊いてくれ」とうるさいとばかりに言ったが、 「連続殺人の捜査本部はここでしょ?」と別の記者が叫ぶ。 「岸村が四人目か、独立した殺人か分からんだろ」と岩田は振り切った。  休

          14.誰がウィクトーリアか

          13.証言の円舞

           警察寮に戻ると、ほどなく加古のスマホが鳴った。野津からだ。 「加古くん、どこかで体液を採取された覚えはないか?」 「あ、それはその、あります、けど、いま言えません」しどろもどろになる。黒猫みゃあこしか思い浮かばなかったから、慶菜の前では話せない。 「わかった。じゃあ、ちょっとそこへ行くから、寮の前で話そう」 スマホを置くと慶菜が、 「どうかした?」といぶかった。 「いや野津さんと個人的に話があるんだ」努めて平静を装う。  10分も経たないうちに野津が来て、加古は寮の前に出た

          13.証言の円舞

          12.不思議な凶器

           多和田茜を帰らせて、野津と岩田は捜査会議室で推理を練っていた。 「矢野・アイグレー・多和田・品田というラインが成立するとしたら、さあなあ」と岩田が苦慮する。 「まあガンさん、矢野がバイオレットピープルでありかつアイグレーというのはちょっと飛躍した推理になってしまいます」 「だよな。もうひとつ、千堂・篠崎姉弟・アンダーテイカー・モルヒネ。ここも、モルヒネを徹底追及できないが、関連性は知りたい」 「その関連はアイグレーも絡みますしね」 「あとはドローン問題だ。加古くんたちを警察

          12.不思議な凶器

          11.ほどけないもつれ

           外出こそできないが、同棲状態でどちらの両親にもバレないのは最高だ。慶菜も同じ気分らしい。ただ、警察の寮なので、音量は控え目にしないと迷惑になる。幸い雨音が大きいが、慶菜は達するときの声が大きいので、それは必死に我慢させた。  「僕さ、卒業したら塾講師しながらミステリー書こうと思ってるんだ」加古は正直な気持ちを言う。慶菜も賛成した。 「私は目先OLだろうけど、贅沢言わなければ生活できるわよね」と嬉しそうだ。 「ケイちゃんのご両親が許してくれるかだけど、一生懸命説得するから」

          11.ほどけないもつれ

          10.乱れたシナリオ

           隣室ではなおも取り調べが続いていた。 「バイオレットピープルというグループ名だが、なぜパープルなんとかではないのか?」 比較的穏やかに江頭が尋ねる。 「じつはビレッジパープルという候補もあったんですが、これは既存の音楽グループと同名かつ『村』っていうのもちょっとですし、集団を表す『グループ』も違うなあと考え、行きついたのが菫色の人々つまり『バイオレットピープル』なんですよ」 「なるほど。じゃあ、もう一つ重要なことなんだが、キシムラケンイチという名前に覚えはないか?よく考えて

          10.乱れたシナリオ

          9.蠢く繋がり

           裏道に面した小さなマンションの前で、千堂は車から降り立ち、入口で指紋認証をして402号室に行く。セキュリティーに関しては完璧な場所である。軽くノックをして「わたしだ」と言って中に入る。そこはバイオレットピープルの隠れ事務所兼現在の矢野元教授の住居だった。事務所用の6畳ほどの部屋と広いLDKで、外観の平凡さに反して一目で高級とわかる内装だ。床も壁もアイボリー一色だが、本物のフローリングと生木の壁である。  小さなソファに座ると千堂は怒りを堪えるように言った。 「アレを流通させ

          9.蠢く繋がり

          7.デート、そして

           東八道路を東に走り、人見街道を経て井の頭通りへ。ちょっとした渋滞はあったが順調に走った。京王線の下を潜ると彼女のアパートはすぐそこだ。慶菜の実家は八王子市南部の地主で、大学に通うにはいささか遠いという理由を盾に一人暮らしをさせて貰っていると聞いた。  年頃の娘を持つ親は、心配で実家に置いておきたがるが、娘本人は年頃だからこそ実家を出たいものだ。異性との交際に口を出されるのが嫌だからに決まっている。  ふと、加古は、同じ車が後ろをずっと走っていると感じた。確か車種も車体の色も

          7.デート、そして

          8.震える弥生

           痴漢、バイオレットピープル、殺人、MEA、アンダーテイカー、色川容子、加圧ジム、矢野元教授、篠崎陽晴、品田風美、アイグレー、加古を含めて捜査妨害と思われる犯行、そしてモルヒネ。要素が多過ぎて、頭がこんがらがって事件のこれといったヒントが見つからない。  そこへ加古から着信が。 「おはようございます。いま彼女を用心しながらアパートまで送ったところです」 「そうか。彼女の名前は?」 「高島慶菜。明京の演劇部でクラスメイトです」 「身辺に警護をつけようか」 「いや、まだいまはそこ

          8.震える弥生

          7.震える弥生

           加古のアパートまで着いたときには、もう20時前だった。慶菜は疲れたのか居眠りをしている。『女の子にしては、きょうはずいぶん歩いたからな』と思い、優しく 「着いたよ」と揺すって起こした。 「あ、ごめん、寝てた」 「僕の部屋に行って、きみがシャワー浴びたりしている間に車を返して来るから」 「うん。ご飯はどうするの?」 「飯はタイマーで炊けている。あとは悪いけど買ってあるコンビニ総菜でいいかな」 「全然いいわよ」と欠伸をする。 加古は助手席側に行ってドアを開けて手を貸す。 「疲れ

          7.震える弥生

          6.不穏という名の

           その頃、明京大学ラウンジで、高島慶菜は奇妙な光景を目にしていた。寝不足の目を擦っても見間違えはない。演劇部の活動日で、休憩しようと入ったラウンジの片隅、退職したはずの矢野元教授と高校のクラスメイトだった英文科の多和田茜が談笑している。  高い天井がガラス張りの窓際。学内で最も欧米大学風の場所だ。外には四季折々の花壇が見え、灌木も植えてある。小雨は先程やっと止んだ。 慶菜が、 「茜、どうしたの?」と少し距離を置いて呼ぶ声が反響し、茜はくったくなく、 「あ、ケイちゃん!」と応じ

          6.不穏という名の