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GovTech東京による共同調達は浸透するか

JX通信社/WiseVine 藤井です。
WiseVineの社員として一時期、遠隔自治体間の共同調達スキームについて関心を持って調査していたことがあり、東京都が設立したGovTech東京による共同調達スキームがうまく広がっていくのか、強い関心を持って見ています。

この共同調達スキームについて、自分の勉強としてまとめておこうと思います。なお、すべての資料が公開されているわけではないので、勘違いなど含まれていたら、こっそりX(@daisukefujii)とかで教えていただきたいです。

共同調達とはなにか

民間企業でも、富士フイルムとコニカミノルタが調達の統合を発表したりしているように、複数の組織で調達を束ねることで、効率化を図る事例はいろいろとあります。
一方、公共団体においては国も地方自治体も、原則として競争入札による調達とすることが法律で定められています(参考)。特定の企業と契約をするためには、随意契約とすべき理由(随契理由)を法律に照らして特定する必要があり、ハードルは低くありません。また、共同調達にすることで、例えば地元の企業に優先的に入札の資格を与える、といった資格調整ができなくなるなど、一定の自由が奪われる側面もあります。

とはいえ、一部の業務(公共分野では「事務」、ということが多い)を複数の自治体でまとめている例は身近にもいろいろあり、例えば市町村が原則として設置する消防は「広域消防組合」として複数自治体が合同で運営することを国としても促進していますし、都内でも23区のゴミは、「東京二十三区清掃一部事務組合」という組織が23区それぞれから委託を受けて、清掃を行っています。

23区の区長からなる特別区長会も、かねてより23区でバラバラに調達をしないで済む方法については模索しており、電子入札システムはこれまでも共用化されていましたし、下記のような調査報告書も出しています。

https://www.tokyo23-kuchokai-kiko.jp/report/docs/r01_04shibuya_h104.pdf

一般財団法人による共同調達

GocTech東京は東京都が100%出資する一般財団法人です(定款)。

GovTech東京のウェブサイトでは、共同調達に関する業務を以下のように説明しています。

東京都と区市町村等で運営を行ってきた「東京電子自治体共同運営サービス」※をGovTech東京が受け継ぐ形で「都・区市町村DX協働運営委員会」を設置し、機能を更に拡充させながらサービス運営を行っています。また、区市町村のニーズ等を踏まえて、共同化に適したデジタルツールやシステム等についてとりまとめを行い、共同して調達・開発を実施しています。

https://www.govtechtokyo.or.jp/services/digital-foundation/

ここでGovTech東京と各区市町村をどのように契約上結びつけているのか、という資料を見つけることができていないのですが、共同調達に関する組織を、一般財団法人という形で設立したのは、結構珍しい形ナノではないかと思います。いちおうGovTech東京も、評議会という形で都や各区市町村のガバナンスが効くようにはできていますが、基本的に一部事務組合や広域連合などの組織は各自治体の意志が均等に反映されるよう作られるもので、実態としても各自治体からの出向者で組織されている事が多いので、独立した意志を持った一般財団法人が、その中核となるのは珍しいスキームだと思います(GovTech東京には30名程度の都職員が出向していますが、独自の採用活動をどんどんやっています)。これは、調達に関する仕様策定や調整に伴う必要能力が高く求められるICT調達分野では、結構いい仕組みなのかもしれません。

今年度の調達状況

令和6年度においては以下の調達が、共同調達で実現したようです。特に事務負担の重い総合評価方式を積極的にやっているのが意欲的だと思います。
ただ、総合評価方式では辞退がかなり多く、価格面での競争が成立した案件がほとんどないようなので、まだこなれてないのかな…という印象です。

(1)総合評価落札方式

(2)最低価格落札方式

調達のイノベーションは地方自治の健全化に必須

「入札」、実は都道府県レベルでも、いまだに電子入札ではなく、紙に書いて厳封した入札書を箱に入れて、その場で立会開札をおこなう、というスタイルが根強く残っています。電子入札にできるための条件というのがいろいろとあるらしく(詳しい理由はよくわからないのですが…)、この季節になると、わたしのような民間の公共営業担当は、全国の自治体の入札室に出向くことになります(交通費と時間が惜しい)。
入札実施には自治体側・入札する民間側とも非常に間接業務が多く、また調達すべきサービスも複雑化する現代では、公平性を維持することにも困難がつきまといます。「この紙に書いてあるとおりのパソコンなら何を買ってきてもいいよ、一番安いやつで」って、知らない人に電気屋さんで買い物を頼むとおもったら、結構怖いですよね…?そういうことをするわけです。だから「んー、強いて言えばりんごのマークのパソコンがいいかも…」とか、無理のある感じの仕様書(これはたとえですけど)が出回るわけです。しかもその仕様書は、民間企業のように調達の専門部署が書くのではなく、現場の部署(「原課」とよびます)が書くのです。そりゃ大変に決まっています。

本質的に必要な仕様を調達のプロが調整し、スケールメリットを出しながら調達を進めていくために、GovTech東京が今年度はどんな共同調達を実施するか、とくにガバメントクラウドなどの動きが本格化する今年は、注目していきたいと思います。

自分の仕事(地方自治、防災、AI)について知ってほしい思いで書いているので全部無料にしているのですが、まれに投げ銭してくださる方がいて、支払い下限に達しないのが悲しいので、よかったらコーヒー代おごってください。