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利益はいつ発生しているのか?

商品販売によって得られる利益 income はいつ得られるのだろうか? ひとつには、販売したときにまさに利益(儲け)が発生しているのだと思える。なぜならば、売買契約が成立するまさにそのときまで、その商品が売れる保証などどこにも無かったからである。もしも商品が売れなければ、いつまで経ってもそれにかかった原価 cost は回収できず、さらにそれを在庫として保管する費用を食うばかりであり、販売の目処が経ってようやく原価回収と利益が発生する。だから、保守主義の観点を守るならば、実際に販売されて利益が実現するまでは、商品はその製造原価のまま帳簿に記録されていなければならず、販売契約が実現したときに初めて利益が実現し、そこで帳簿に計上されるべき(つまり、利益が利益として認識されるべき)なのである。

と、いうのがひとつの見方である。上掲の本によると、利益について、会計学者のペイトン Paton とリトルトン Littleton という人はこういう考え方をしていたそうだ。日々の取引を仕訳(しわけ)という手法で記録し、損益計算書をつくっていく視点でみると、特定の商品の売買が実現するか否かは偶然的である。だから、実現するまでは製造原価のまま帳簿に記入しておく、ということである。

原価は累積的に発生するが、原価と売価の差である利益は販売時点に突然生じると仮定する(p.493)。

57ページ、『会計学説の系譜と理論構築』上野清貴編、2015年。太字強調は引用者による。引用文中のページ数は、Paton, W. A. [1922] Accounting Theory: With Special Reference to the Corporate Enterprise: Lawrence : Scholars Book.

しかし、利益について別の見方をしていた人もいたという。スプローズ Sprouse とムーニッツ Moonitz は利益は原価が蓄積される過程で徐々に積み上がるものだと考えたそうだ。

スプローズ=ムーニッツは、メイ(May)を引きながら、利益が販売の時点だけでなく、企業活動の全過程を通じて生ずること、〔利益〕実現は収益測定の便法として統計的に一般化したものに過ぎないことを示しているからである(Sprouse and Moonitz[1962]pp.13-14)。

125ページ、前掲書。太字強調は引用者による。引用文中のページ数は、「1962年試案」とも呼ばれる Sprouse, R. T. and M. Moonitz [1962] A Tentative Set of Broad Accounting Principles for Business Enterprises, AICPA Accounting Research Study No.3, AICPA.

スプローズ=ムーニッツの利益観を説明するのは私には難しいが、利益を純資産の増減から捉えようとしているようだ。すなわち、それは利益を資産と負債の変動によって基礎づけることである。なぜならば純資産とは資産から負債を差し引いた金額であるからだ。また、彼らは資産を「期待される将来の経済的便益」(上掲書、p.124)と位置づけるので、通常は市場に売りに出したりしない工場設備などの固定資産ですらも交換価値性があると敢えて解釈する。なぜならば資産全体を交換価値の元に一元的に価値測定する必要があるからである。こうして資産および負債の変動をできる限り時価評価して認識することで、純資産が認識でき、結果、利益も導かれるというのが彼らの見方のようである。

このスプローズ=ムーニッツの見方が「資産負債観」と呼ばれる見方の始まりだそうである。スプローズ=ムーニッツの見方は資産とその価値測定を中心におくものであり、以後米国では主流の考え方に接続していく。一方、ペイトン=リトルトンの古典的な見方(売買が発生して生じた収益を費用と対応させる見方)は「収益費用観」と呼ばれていて、今は分が悪いそうである。

(1,681字、2024.02.21)

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