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小学生のBeekeeper

私はミツバチを担当する飼育委員

私は小学4年で転校した。つまりわが家は、都心からまだ自然が残る郊外の住宅地に引っ越した。転校当時は、私の生活スタイルがその地域の子供たちと違っているからなのか、今風に言えば彼らから仲間外れにされていた。それが担任の先生にも分かっていたからなのか、先生は私に飼育委員になることを勧めた。私は仲間外れにされて辛いと思ったこともないのだが、それよりも動物を飼育することの方が面白そうなので、先生の勧めに従って飼育委員になった。飼育委員とは、委員という称号が付くので、何らかの権限があるようだがまったくそういったものではなくて、ただ小学校で飼っている動物の世話をするだけの役目だった。この小学校では、ウサギ、それとどういう種類かは忘れたが小型のオウムを飼っていて、あともう一つミツバチを飼っていた。

屋上のさらに上にあった百葉箱とミツバチの巣箱

ところが、飼育委員として、飼っているのはウサギとオウムだけで、ミツバチの面倒を見ようという生徒はいなかったようだ。つまりミツバチ担当の飼育委員はいなくて、用務員のおじさんがいやいや面倒を見ているというところだった。
なぜ、ミツバチの飼育を生徒が嫌がるかといえば、いくつかの理由がある。一つはやはり、ミツバチは人を刺すということがある。理由なく刺すのではないが、生徒たちにとっては理由なく刺されるのと同じようなもので、これが生徒たちがミツバチを嫌う一番の理由だ。次に第二の理由だが、実はミツバチの巣箱は地上にあるのではない。三階建ての校舎の校内から屋上に出るための出口が屋上の上に四角い建物として乗っかっていて、またその屋上部分に百葉箱と二つのミツバチの巣箱が置かれていた。

ミツバチの世話をするためにいちいち屋上に上がって、さらに屋上への出口となる四角い建物の屋上に上るのは結構な重労働だった。それも生徒たちがミツバチの世話を嫌がる理由だった。とにかく、だれにとってもミツバチの世話は人気がなく、そんな状況の中に私が転校してきたので、先生たちにすれば彼にBeekeeper(養蜂家)をやらせればいいといった話の流れだったと思う。私がミツバチを恐れないのは、私が蜂に刺されないからではない。裸足でミツバチの世話をするので、寿命の尽きかけた蜂を踏んで足を刺されたことは何度もあった。とは言え私はミツバチの世話が嫌いではなく、自分一人で好きなように世話ができるので、私にとってはなかなか楽しいことだった。この作業については全く不満はなかったが、若干不愉快なことはあった。それは採蜜の時だった。

採蜜を待ちわびる先生たちの一升瓶

ミツバチの採蜜は巣箱から蜜の詰まった棚を取り出して、その棚をドラム缶の中にセットしてドラム缶に接続した遠心分離機のハンドルを回すと、ゆっくりと蜜が降りてきて、最終的にドラム缶内に溜まったハチミツを小さな蛇口から採集する。ずっと昔の話なので、細かいメカニズムは忘れたが、その蛇口の下に一升瓶を置けば、一升瓶いっぱいの琥珀色のハチミツが採れるのだ。採蜜時に何が不愉快かといえば、ミツバチの巣箱にハチミツが溜まってくると、飼育員の指導をしている担任の先生が、一升瓶を何本か持ってきて、そろそろ採蜜できるのではと聞いてくる。催促がましくそれが不愉快なので黙っていると、弁解するように「これは、全部が私の一升瓶というわけじゃなくて、校長先生や教頭先生の分も含まれているんだ!」と、訳の分からないことを言う。私はハチミツが特別好きではないので、そのことで文句を言うつもりはないが、どんな神経を持っていたらこんなことが平気で言えるのか、昔も今も私にはよく分からない。




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