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「ゆめみるうろこ / いよわ」考察・解説してみた

 波方と申します。前の考察記事でも反応を頂いており励みになります。今回はいよわ氏の「ゆめみるうろこ feat.知声」について考察していきたいと思います。なお、本考察はあくまで個人の見解であることをお断りしておきます。突飛な考察は何もできませんがよろしくお願いします。




MVの構成について

 おそらく映像表現のリファレンス元はこの曲だと思います。


 まずは、考察しやすくするためにMVの時系列を以下にまとめてみました。

うろこちゃんは辰年以外は眠りについています。


年越しとともに活動を始めるために目を覚ましたのでしょう。


寝落ちしてますね。


絶望の起床、絶起


 次に、「ゆめみるうろこ」の歌詞はカレンダーの数字と対応していて、ひらがなにしたときの文字数が365日+12ヵ月で合計377文字となっています。

 ですがこのカレンダー、おかしくないですか? 日付と曜日の対応を考えると明らかに2024年、辰年のものです。辰年はうるう年のはずですが、このカレンダーには2/29、すなわちうるう日が存在しないのです。どうしてでしょう。

 

あっ!!!!!!!!!!!!!!

MVで描かれていた骨壺。つまり、29(肉)がない=何者かが骨だけになってしまったということなんでしょうか。真相は闇に包まれています。


歌詞考察

ゆめみるうろこは
寝巻きを着たまま
骨も宝も持っていなくても
信じてくれなきゃ
死んでしまうわ!

 「信じてくれなきゃ死んでしまう」のは、龍は想像上の生物なので信仰を失うと実体を保てなくなるからです。
骨=(本物の龍らしい)骨格も
宝=龍が手に持っている宝珠も
持っていない。すなわち、うろこちゃんが、いかにもな龍の姿ではなく、寝巻きを着た美少女キャラクターの姿をしているということが示されています。


窓辺に並べた
古い約束が朽ちるほど
欠伸する間に日が経って
毒も薬も無くなってんだよ

 「欠伸する間に日が経って」は、年を取るにつれて体感する時間の流れは速くなっていくという法則から、数千年もの時を生きる龍と他の生物との時間感覚の違いを誇張のレトリックで簡潔に表しているといえます。
 他の部分については後述することにしましょう。


顔を覚えて
名を呼んで
笑い合っていても
番号順に居なくなる
無駄が無くて結構

 「番号順に居なくなる」というのは、人間が寿命が来た者からいなくなることだと考えられます。
 あるいは学校生活を指しているとも考えられます。端的に言えば、どれだけ楽しくても学校生活には終わりがあり、卒業して学友と別れなければならないということです。学校によって違うとは思いますが、卒業式ではよく出席番号順に名前を呼ばれ、壇上に上がって卒業証書が授与されますよね。とはいえど、これは曲全体の文脈と合致しないので有力にはならないでしょう。


それでも
大往生のスーパースター

 「大往生のスーパースター」というのは著名人(特にミュージシャン)の逝去を表していて、MVではうろこちゃんが11年ぶりに起きる度に好きだったアーティスト達の訃報を受けて涙しているのだと考えます。部屋にティッシュの塊が転がっているのは、亡くなった人達に対して流した涙を拭っていたからではないかと思いました。


ロックン・ロールは勝ったんだと
教えてくれたあいつは元気かな

 前半の部分、「バベル」のメロディ(ショッピングモールが建ったんだよ)ですね。「あいつ」というのは重音テトのことなのかもしれません(髪型”ロール”だし)。
 「教えてくれた」のは前回の干支に起きた12年前で、ミュージシャンの訃報から連想してその人のことを思い馳せているのではないでしょうか。


ゆめみるうろこは
花を添えたまま
あれもこれも悟ってしまったら
満腹すぎて死んでしまうわ!

 花というのはしばしば、好意、感謝、祝い、弔いなど、人の想いが乗せられるものです。「花を添えたまま」とはまさにこの沢山の受け取った/抱いた想いを自分の中で咀嚼しきれていないことを示していると解釈します。
 つまり、人間よりも遥かに速い時間感覚で、長くの間、同じように人間から情報を受け取り「あれもこれも悟ってしまったら」感情を消化しきれないから「満腹すぎて死んでしまう」のです。
 考えるに、ただ信仰の対象として、世界の事象の説明や拠り所を求められたから機能的な意味を与えられて存在している神話生物の龍に対し、人間の生の意味(sens)はカオスとも言うべき、不可解で多義的で過剰なものだと思います。言い換えれば、ごった返していて混沌とした、決まりきった目的を持たない人間達の営みの洪水を解釈して受け止めるキャパシティがないのかもしれません。
 ではこの消化不良の解決方法とはいったい何でしょうか?
 それは、12年のうち11年間を寝て過ごすことだと思います。つまり、なだれ込んでくる情報を眠りにつくことでセーブし、タイトル通り「夢を見る」ことで一年間の出来事をゆっくり反芻しているというのが私の説です。

 ここで述べたことを踏まえ、「花を添えたまま」という歌詞と関連させると頭サビの歌詞にも細かい意味が見えてくる気がします。

窓辺に並べた
古い約束が朽ちるほど
欠伸する間に日が経って
毒も薬も無くなってんだよ

(再掲)

 つまるところ、「古い約束」=花であり、時間経過に際してそれに込められた意味を――それがネガティブなもの(毒)であれ、ポジティブなもの(薬)であれ――失ってしまうということを表しているのだと思います。


ダースで数えた流行りの記憶は
不確かにベールの向こうで笑うんだ
お前の面影があったって

 「ダースで数えた流行り」は、12ヵ月(1年)をひとまとまりとして数えた、その年の流行物を指しています。MVを見てみると3DSやガラケー、有線イヤホンなど、12年前らしい物が描かれていますね。ですので、画面右上にある漫画はその当時流行っていたものだろうと推測できます。

続く部分はうろこちゃんが見た夢の内容そのものだと思います。要するに、うろこちゃんは「前回の辰年はやっぱり、なんとなくお前らしい年だったな」と言われているように思えたのではないでしょうか。


ゆめみるうろこは
普通のわがまま

 これは「布団から出たくない」という、一般的な人間と変わらない、いたって平凡な願望のことだと考えました。


逆さに登る冷や汗すら
お久しぶり
肌でわかった!

 「逆さに登る冷や汗」とは何を表しているのでしょうか。私は、龍の棲む天空から人間の世界へ急いで降っているがゆえに、汗が空気抵抗で自分の肌の上を登っているということだと解釈します。


支度はこれから
仕置もこれから
頭痛薬
言い訳もじきに整って
洒落たセリフを考えていたよ

 うろこちゃんが頭痛薬を服用しているのは、年が明ける前にお酒を飲みすぎて二日酔いになっていたからです。いや、うろこちゃんの場合は二日どころか何十日間も爆睡していたので二日酔いと言うべきではありませんね。ガチで危機感持った方がいいと思う。
 さておき、それに起源を持つという一説もあり、また似た体の部分を持っていて龍と関連が深い蛇は、「うわばみ」とも呼ばれ大酒飲みの例えとして用いられます。きっとうろこちゃんは前述の訃報を受けた時に悲しみを紛らわすためにお酒を飲みすぎてしまったのでしょうね。

 「仕置」「言い訳」は遅刻をしたことに対してだと思います。「言い訳もじきに整って 洒落たセリフを考えていたよ」が何を表しているのかというと、2024年始のいよわ氏本人の状況です。「言い訳」「洒落たセリフ」はこの曲自体。つまり、元旦に辰年に関する作品を投稿できなかった/しなかったということを逆手にとり、それ自体を曲のテーマにしてしまったというわけです。見事。


おわり