習氏、デカップリング反対を強調─自国は安保優先、企業の海外上場規制

 中国共産党の習近平総書記(国家主席)は世界各国の政党指導者とのオンライン会合で演説し、経済の「デカップリング」(切り離し)に反対する姿勢を強調した。その一方で、中国共産党・政府は自国企業の海外上場に対する規制を強化するなどデカップリングを促進するかのような政策を打ち出し、経済より安全保障を優先する姿勢を明確にしている。

■「世界覇権追求」批判

 「中国共産党・世界政党指導者サミット」が7月6日開かれ、160以上の国々から500以上の政党・政治団体の指導者が出席した。中国からは習氏や宣伝工作を担当する党中央書記局の王滬寧筆頭書記(党政治局常務委員)らが参加し、習氏が基調演説を行った。
 習氏は演説で、人類は「敵視・対立か相互尊重か、閉鎖・デカップリングか開放・協力か、ゼロサムゲームかウィンウィンか」の選択を迫られているとした上で、発展のための国際協力を強化し、技術の封鎖・分断や発展のデカップリングなどに反対しようと呼び掛けた。
 習氏はその他に次のように語った。
 一、世界の多極化、経済のグローバル化に深刻な変化が生じる中、各国相互のつながり、依存、影響はより深まっている。
 一、民主主義は多くのやり方があり、全て一律はあり得ない。ある国が民主的であるかどうかは、その国の人民が評価することであり、(他国の)少数の人々が決められるものではない。われわれは自国の国情に合わせて民主政治をつくり上げていく。
 一、現代化の道に固定したモデルはなく、自分に合ったものが最も良い。足を削って靴に合わせることはできない。
 一、現行の国際秩序の核心理念は多国間主義だ。国際ルールは世界各国が認めたルールでなければならず、少数の人々が制定してはならない。国家間の協力は小さなグループの政治による世界覇権追求であってはならない。われわれは、多国間主義と称して実際には一国主義を行うことに共に反対し、覇権主義と強権政治に共に反対する必要がある。
 名指しは避けたものの、民主主義陣営のリーダーを自任する超大国・米国が人権問題などを口実に対中包囲網を構築しようとしていることに対する批判であることは明らかだ。

■ネット安全審査を強化

 習氏の演説の要点は、グローバル化の時代には国際的な交流・協力がますます重要になっているということだったと思われる。ところが、中国は7月に入ってから自国企業の海外上場について本格的な規制に乗り出した。
 国家インターネット情報弁公室は2日、ニューヨークで上場したばかりの配車サービス大手、滴滴出行に対するネット安全審査を実施すると発表。根拠法として、国家安全法とネット安全法を挙げた。その後、100万人を超えるユーザーの個人情報を握っている企業が国外で上場する場合に事前審査を義務付けるネット安全審査規則の改正案を公表した。
 6日には党中央、国務院(内閣)の両弁公庁が「証券違法活動」取り締まり強化の通達という形で、国内企業の中国本土以外での上場に関する監督・管理を強める方針を明らかにした。これもまた、国家の安全や社会の安定、ネット上の安全を確保するためだとされている。
 党機関紙の人民日報や国営通信社の新華社は先に紹介した習氏の演説全文を伝えたが、主な内容を伝える中国語の記事ではなぜか、習氏が2回使ったデカップリングというキーワードを避けた。しかし、新華社の英文記事は要約部分も含めてデカップリングを4回も使用した。
 米国などによる中国企業制裁は困るので、主要公式メディアは対外的にデカップリング反対の部分を強調したが、国家安全保障のため中国企業の海外進出に対する規制は強化したいことから、国内向けにはデカップリング反対の主張を前面に出さなかったとみられる。

■「自力更生」言及

 今年3月に正式決定された経済・社会発展の第14次5カ年計画(2021~25)と35年までの長期目標は習氏が昨年4月に党内で行った演説が基礎となったが、習氏はその中で①国際産業チェーンのわが国に対する依存関係を強め、外部の人為的供給遮断に対する強力な反撃・威嚇力を持つ②国家の安全に関わる分野や重点で、独自のコントロールが可能で安全かつ信頼できる国内生産供給体系を構築する─ことを目標として提示。「いざという時に自己循環ができて、極端な状況下でも経済の正常な運営を確保できるようする」よう指示していた。
 ①のためには外国によるデカップリングの動きに反対するが、②のためには自国企業の過度な対外依存は好ましくない。つまり、中国が多国間主義について自国に有利であれば支持し、不利ならば反対しているのと同じように、デカップリングへの賛否も実際にはケース・バイ・ケースということであろう。
 第14次5カ年計画と長期目標は「国内大循環」を主体とする新しい発展戦略を掲げた上で、国内市場の開拓や科学技術の「自立自強」を重視すると明記し、経済政策は内向きの傾向が強まった。
 習氏は7月1日、共産党創立100年の祝賀大会で行った演説でも「自力更生」「自信自強」といった左派(保守派)好みの言葉を使い、「われわれは教師面した偉そうな説教を絶対に受け入れない」と外部からの厳しい批判は拒絶することを宣言。さらに「中国人民は、外来勢力がわれわれをいじめたり、圧迫したり、奴隷化したりすることを絶対に許さない。そのような妄想を抱く者は必ず、14億人以上の中国人民が血肉で築いた鋼鉄の長城の前で頭を割られ、血を流すだろう」と述べ、激しい表現で外国に対する警戒感をあらわにした。
 また、中国の改革・開放に大きく貢献してきた国際金融・貿易センターの香港に関して、習氏は党創立95年の演説で「経済を発展させ、民生を改善し、民主を推進して、調和を促進することを支持する」と述べていた。しかし、今回の演説ではこれらに全く触れず、香港に対する中央の「全面的統治権」行使によって、国家の安全と香港社会の安定を守る重要性を指摘した。
 習政権にとって、香港の最重要課題は経済的役割の強化ではなく、昨年6月制定した国家安全維持法(国安法)による政治の中国化(社会主義化)ということであろう。(2021年7月15日)

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