中国白書、台湾を香港並みに格下げ─「統一後、軍隊派遣せず」削除

 中国政府が22年ぶりに発表した台湾白書は、これまで明記していた「統一後、台湾に軍隊を派遣しない」という文章が消えた。一国二制度による国家統一政策で台湾優遇を取り消し、その地位を香港・マカオと同じレベルに格下げした形だ。

■「一国三制度」を修正

 8月10日発表された「台湾問題と新時代の中国統一事業」は1993年、2000年に続く3番目の台湾白書。統一後の台湾について、93年白書は「独自の軍隊を持つ。大陸(本土)は軍隊を派遣しない」、00年白書は「中央政府は軍隊を派遣しない」としていたが、新しい白書では言及がなかった。一方、台湾に対する武力行使の選択肢は維持した。
 中国の台湾政策に詳しい香港の消息筋によると、統一後の台湾に軍隊保有を認めるのはかつての最高実力者、トウ小平(97年死去)の考えなので、その妥当性はこれまで非公式に議論されただけだった。しかし、今回の白書は新時代に対応した習近平国家主席の思想に基づいてまとめられ、軍隊保有容認論は削られたという。
 中国共産党政権は、一国二制度を香港・マカオ・台湾の全てに適用して国家の完全統一を成し遂げると主張。だが、毛沢東時代の蒋介石懐柔策を引き継ぎ、軍隊派遣問題で台湾を特別扱いしたので、事実上は「一国三制度」構想となっていた。
 00年白書にあった「台湾で実行する一国二制度の内容は、香港・マカオよりさらに緩やかでよい」「(統一交渉は)『一つの中国』の原則の下で何でも話し合うことができる」も今回は書き込まれなかった。台湾に適用される「高度な自治」が大幅に縮小されたのは明らかだ。
 新白書は、香港の「反中活動」鎮圧が一国二制度の堅持にとって、いかに重要だったかを強調している。習政権は台湾に関しても、民主派を徹底的に弾圧する今の香港と同じような政治体制を想定しているとみられる。中国側の思い通りになった場合、中華圏唯一の民主主義体制は蒋介石時代の独裁政治に逆戻りすることになる。

■「台独」言及、3倍に増加

 台湾白書のこうした変化はいわゆる「台独」(台湾独立)勢力や「外部勢力」に対する習政権の警戒・反発の強さを示している。具体的な対象は、「一つの中国」の原則を受け入れない台湾の民進党政権や台湾に接近する米国である。
 00年白書に計12回出てきた「台独」「台湾独立」は新白書で計38回と約3倍になった。「外部勢力」「外国勢力」も計3回から計16回に増えた。
 また、新白書は民進党に4回言及し、「『台独』分裂活動を行っている」「(台湾)島内で非中国化を進めている」「外部勢力と結託して『二つの中国』『一中一台』をつくり出そうとしている」と決めつけた。
 中国は今回、ペロシ米下院議長の訪台に強く反発して、台湾周辺でミサイル発射など大規模な軍事演習を実施するとともに、これまでより強硬な台湾白書を発表。このため、「習政権は統一のタイムスケジュールを策定して、台湾側に交渉入りを迫る」(8月16日の香港紙・星島日報電子版)といった見方も出ているが、前出の消息筋は「それはあり得ない」と否定した。(2022年8月16日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?