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甘いチョコレート

今日はバレンタインだ。

僕の10代のバレンタインをふと振り返ってみると、下駄箱に恋文と共にチョコが添えられていることも、放課後、夕暮れの教室に呼び出され愛の告白とともに貰うことも無かった。活発な幼馴染に渡す相手はいるのかと聞くことも無かったし(この場合、自分が貰う対象なのは言うまでもあるまい)。そして他には……

…………。

女の子と無縁な僕が思いつくシチュエーションは精々こんなものである。



僕が家族以外から貰ったのは幼稚園の時と、高校2年生の時の2回だけ。

幼稚園の時に貰ったのは、よく一緒に遊んでいた子から貰った。振り返ってみると、5、6歳の子供でもバレンタインという文化は定着しているんだなぁと思う。余談だが、女の子と遊ぶなんて後にも先にも、いや、先のことは分からないがこの時だけである。こんな時、スターフォックス64のアクアスでのファルコの一言が使える。


「こんなもの…後にも先にも一回キリだぜ!」


……話を戻そう。あれは、高校2年生の時の事だった。

何か飾り付けがされている訳でもないのだが、心なしか学校はお祭りムードを漂わせている。空気が違う。多くの生徒が意識しているからだろうか。

この日に告白しよう。そんなドラマかアニメのようなロマンティックな決意を秘めた生徒もいたかも知れない。朝学校に着くと、下駄箱を開けて「入ってないかー」なんて声も聞こえた。今どき下駄箱に入れる人なんているのだろうか。そんな事を考えながら下駄箱を開けた。もちろん、チョコレートは入っていなかった。

僕にとってはいつもの学校生活だった。周りの女子がどんなに友チョコを渡そうが、隠れた本命を渡そうが僕には関係が無かった。授業の準備をする。授業を受ける。授業が終われば読書を始める……。

と思いきや、あれはもう下校が近づいてる時間だったように思う。一人の同じクラスの女子が、一人で本ばかり読んでる僕に話かけてきた。

「欲しい?」

「え?」

「あげる」

ボソボソとお礼を言って軽い会釈もしておいた。

貰ったものを見てみると、チョコだけじゃないお菓子の詰め合わせをくれた。余ったとかなんとか言っていたような。クラスの男子全員に配っていた。という訳では無さそうだ。かと言って照れ隠しでもない。他に同じ物を貰っているのを見かけた。友チョコというほどでもないが、義理ほど堅くも無い。クラスメイトチョコ……クラチョコと言ったところか。

どうやら、手作りのようだ。どんな環境で作ったのだろう。衛生管理はちゃんとしてたかななんて事も考えたり。僕は潔癖症の気があるのだ。貰っておきながらなんて無粋な事を考えているのか。


……まさか洗剤が混ざってたりして。ここまで来ると末期である……


我ながらなんて思考を持ち合わせているのだろう……。


その日の夜早速食べた。学生時代、唯一もらったチョコの味は甘かった。


次会ったとき、感想言った方がいいかな……。でも自分から話しかけるのは……。向こうから聞いてくれれば……。


そんな事をグルグルと考えていた。


ん……?喉が痛い……。
(まさか本当に洗剤が…!?)


みるみる体調が悪くなっていく

そして、ついに熱まで出てしまったのだ。

バレンタインの日は金曜日だった。僕は、月曜日休む羽目となった。

土日を挟み、月曜日を休んでしまった。僕が学校を行く頃にはすっかりバレンタインムードは終わっていた。当然、感想を聞かれる事もなく、自分からも言えずじまい。


甘いチョコレートの苦い記憶だ。

でも、これが所謂甘酸っぱいというやつなのでは?


良く分からないけど。

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