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うたの日の薔薇短歌振り返り(前編)

 2018年12月からうたの日に参加している西鎮ですが、今年の7月、そこでの一区切りとも言える「いただいた薔薇が100本」という状況に至りました。
 約四年半という非常に長い時間をかけて薔薇×100を達成したわけですが、折角の機会ですので、ゆるゆるその道程を振り返ってみたいと思います。なお、1本目から50本目を前編、51本目から100本目を後編、ということにして振り返っていきます。

1st~10th🌹(2018.12~2019.10)

 Twitterで「うたの日」という場を知り、そこで生まれて初めて短歌を作った。12月12日のことだ。初めは(自分ならそこそこできるのでは)という勘違いがあり、実際、一週間ほどで最初の薔薇をいただけた。だが、そこからじわじわと短歌の難しさを知ることになる。結局、首席を10回いただくまでに、約10ヵ月を要した。この頃は、うたの日は午後1時からの部屋しかなく、参加者も200人弱であった。上手くなりたくて、よく首席を採られる歌人の歌を繰り返し読んだ。太田宣子さん、芍薬さん、近江瞬さん、山口綴りさん、岩倉曰さん、神丘さん、そしてtoron*さんらの歌が特に気になっていたと記憶している。今でもこの方々の歌はしばしば読み返す。

縁側で結んで開いてする母が見つめる先は小さき私か


『結』 2018年12月20日

花束と拍手と春を携えてわたしにとっての陽だまりが去る


『陽』 2019年3月10日

戦慄よ美しくあれ翡翠かわせみに叩きつけらる魚の目にも


『翠』 2019年4月16日

白いソファ そのビニールをときながら考えていた生活が去る


『ビニール』 2019年6月19日

頬杖をついて背中のいつもより大きくみえる四歳の秋


『杖』 2019年9月10日

ああこれはまごうことなき人類の最後の夜に食べたい餃子


『人類滅亡』 2019年9月20日

みんなからラッキーボーイと騒がれて微笑むきみのてのひらのマメ


『ラッキー』 2019年9月28日

海からの工場たちの呼吸さえただ懐かしく生まれた街は


『臭』 2019年10月1日

無花果、とささやく「じく」のくちびるの残像さえもつのりゆく秋


『自由詠』 2019年10月10日(初の自由詠🌹)

モノクロの写真のすみに立つ父は旅の途中の顔をしている


『真』 2019年10月15日

最も気に入っている歌は、やはり「戦慄よ~」の一首だろう。芍薬さんやtoron*さんから温かな評をいただき、ますます短歌にはまって行ったと記憶している。

11st~20th🌹(2019.10~2020.1)


 コンスタントに薔薇をいただける力がついた気になってしまっていた時期(少しあとで、勘違いだったと痛感する)。確かまだ、うたの日以外では余り短歌を作っていなかった。「女性主体をイメージした時は旧仮名」という自分ルールを設けたのはこの頃。

自己評価「C」としか書かないきみは今、あつくあつく映画を語る


『C』 2019年10月25日

はきはきと「愛」と答える五限目のくちびるにみたきみの早熟


『早』 2019年11月12日

幾千の夜の隙間へ飛びたって虚空をつかむUFOキャッチャー


『捕』 2019年11月14日

女子たちのやばい、やばい、の後方でそっと眺めたあの日の夜景


『やばい』 2019年11月26日

あのひとを流せぬままに新潟をつらぬく河にもゆりかもめ飛ぶ


『新潟』 2019年11月28日

消えてゆくルーティンもあるガチャガチャをスルーしてゆく小さな長靴


『ルーティン』 2019年12月14日

五歳には五歳の誇り ぼくの手をはねのけ駆けるはつ雪のみち


『誇』 2019年12月18日

羊たちとさ迷ふ夜の果てにあり祖母の布団は線香のにほひ


『臭』 2019年12月23日

とほいとほい記憶にひつかかつたまま美術教師の自画像のあを


『師』 2019年12月26日

スーパーを並んで歩く足どりのずれまでぼくらの芸風とする


『令和二年の抱負』 2020年1月1日

 学校生活と子育ての歌が多い。最も気に入っている歌は「スーパーを~」だろうか(ののさん、このお題、好きです)。

21st~30th🌹(2020.1~4)


 月4回以上は薔薇を採りたい、等という目標を密かに抱きながら歌を出していた時期。今思うと、それほど意味のない目標だった気もする。その日のお題の全てに歌を作ってみて、最も良くできたものを出詠することもしばしばあった。うたの日での評価軸に沿った歌を作ろうとし過ぎていた気がする。

きみを宿す何か月まへだつたらう、くぢらの仔らと海游ぐゆめ


『鯨』 2020年1月18日

春になればゆくひとといて便箋の余白のように流れゆく雲


『便』 2020年1月26日

わびすけのあでやかな死を濡らすのがこんなに冷たい雨でよかった


『艶』 2020年1月31日

豆柴の巻き尾のさきの毛のゆれもほんのわずかな春にふれてる


『豆』 2020年2月4日

透明なアロエの果肉を削いでゆけば幼き頃の熱の香のする


『肉』 2020年2月9日

少年のあわき鳶色、あのひとの染色体を目に受け継いで


『染』 2020年2月24日

麻酔から醒めゆくような教室にゆらめく痛み、春の自意識


『酔』 2020年2月27日

幾重にも水面につもる美しき花びらの死も春なのでしょう


『美』 2020年3月18日

境内にまるまる白き猫さえも母におもえて戌の日参り


『犬と猫』 2020年4月19日

さようならの二重らせんが絡みあいむしろ明るい、ぼくらのあおぞら


『二』 2020年4月30日

 この時期、植物を詠み込んだ歌が目立つ。特に気に入っているものは数首あるが、あえて選ぶなら「わびすけの~」の歌だろうか。

31st~40th🌹(2020.4~2021.2)


 薔薇の数だけで言えば、非常に苦しんだ時期。ただ恐らく、短歌への向かい方は、この時期に多少進化したようにも思う。各新人賞に挑戦し始めたのもこの頃。初めて、二日連続で薔薇をいただいた時期でもある。

群青の絵の具いちばん減ってゆく十五の夏は波にとけてく


『具』 2020年6月18日

冷麺の梨とかサラダの林檎とか苦手なひとが苦手なままだ


『サラダ』 2020年7月6日

殴りかえし連れていかれた少年の羊の皮が残る教室


『狼』 2020年7月12日

羽ばたいてしまふと思ふ明け方のましろき肩甲骨にふれれば


『肩甲骨』 2020年9月20日

いつか渡る鳥なのだろう秋風が揺らしたきみの柔らかき髪


『鳥』 2020年9月28日

半熟のままおりこんでゆく朝に慣れてしまっただし巻き玉子


『巻』 2020年10月3日

この冬を越せるだろうか名を呼べば尾だけゆっくり三度みたびゆれおり


『犬』 2020年11月1日

わたしからわたしが出てく千段の石段越えてゆく立石寺


『好きな寺』 2020年12月18日

渡り鳥になれない僕のダウンからあふれた羽を冬へ放った


『渡り鳥』 2020年12月19日

春風に犯されてゆく残雪の呼吸のたびにふきのとう萌ゆ


『犯』 2021年2月26日

 「殴りかえし~」の歌が最も気に入っている。お題から「羊の皮を被った狼」というイメージを浮かべ、中学時代の思い出と絡めて詠んだ記憶がある。

41st~50th🌹(2021.2~8)


 とにかく楽しく「詠みたいように詠む」を意識するようになった時期。短歌による自己表現の場として、複数の場を得たことが大きいように思う(結社はいまだに入っていないが)。うたの日は「楽しむ場所」と、改めて気がついた。

元町の坂をくだって(二秒だけ鳥の目線になる)海へ出る


『元』 2021年3月6日

ベスト・オブ・後輩だった浅村が三年かけて元カレになる


『ベスト』 2021年4月13日

どこ迄も化粧下地よのびてゆけ、あなたをきつと忘れてしまへ


『下』 2021年4月22日

余熱さえ計算されたスクランブルエッグのレシピめいたくちづけ


『スクランブルエッグ』 2021年5月2日

あゝまさに群青だつた、はつ夏の陽射しを泳ぐ制服の群れ


『まさに』 2021年5月9日

あまがえるが肺呼吸して鳴いているぼくらがいまだ慣れぬ世界で


『肺』 2021年5月23日

きっときみもひとになってくゆらゆらとエコーの海をたゆたう背骨


『おたまじゃくし』 2021年6月3日

ジャムの蓋をするりとあけるひとと住む暮らしの底によこたはる鳥


『開』 2021年6月18日

ありがとうございましたの響きからレジの向こうに広がるアジア


『亜』 2021年7月4日

作り方を教えてくれたばあちゃんを今夜迎えにゆく精霊馬


『キュウリ』 2021年8月2日

 「ありがとうございました~」の歌が特に気に入っている。「外国人のコンビニ店員」で色々詠むなか、辿り着いた感覚がある一首。
 「ベスト・オブ~」の歌は、それまで余り経験のなかった「短歌に固有名詞としての人名を登場」させてみた歌。これ以後、歌での人名は原則、東北楽天ゴールデンイーグルスの選手からとることにしている(後編に続きます)。

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