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ラオス史上2人目のブレードランナが生まれたことの意義 -エンジニア目線-

これまでの経緯

2019年Xiborgはラオスに行き、ラオスパラリンピックコミッティー、義肢装具製作所COPE、NPO法人ADDP、パラ陸上コーチ羽根さんの協力のもと、現地の義肢装具士にスポーツ義足の作り方のワークショップを行った。

その後新型コロナウィルス感染拡大の影響もあり、せっかく走り出したランナーが練習を継続することはできなかった。あれから、3年現地のコーチ羽根さんから急にメッセージがあった。

「ランナー候補が見つかった。スポーツ義足を作るかも。」

その後、必要なパーツの確認や作り方など現地の義肢装具士と通話もしながら、徐々に準備が整い、知らないうちにスポーツ義足ができあがり、ラオス史上2人目のランナーが誕生した。さらには、今年1月にタイで開催された国際競技会に参加し、公式記録を残すことができた。詳しくは羽根さんの記事を参照。

練習を始めてまだ1ヶ月足らず、無茶な挑戦だったが、本人やコーチたちの頑張りもあり、100m・200m・槍投げ全ての競技を無事にやり遂げた。

背景にあるエンジニアリング

選手たちの様子は羽根さんの記事を読めばわかるので、本記事では義足の技術について補足したい。まず今回の大成功の裏には、第一に羽根コーチや選手たちが限られた環境下で競技を継続してきたことの凄さが挙げられる。次に義足技術について。ラオスでは国際赤十字がよく用いるポリプロピロン(PP)と呼ばれるプラスチックの日常義足が使われている。日本では、ソケットにはカーボンなどが用いられるのに対し、このPPカーボンに比べ比強度や剛性が低く、走るための義足、ブレードを取り付けることは難しいとされてきた。それでも、途上国を含む世界中でポリプロピレンの技術が使われていることを考えると、この材料を使ったスポーツ義足ができれば、より多くの人がスポーツを楽しむことができると考えた。

我々は、独自に作った金属パーツを2重に重ねたポリプロピレンのソケットに埋め込み、ブレードを取り付けて強度が十分が試験を行った上で、現地の義肢装具士にワークショップを行った。これが2019年のこと。そして、今回残してきたパーツを使用し、3年前にやったことを自分たちで違う患者に対してスポーツ義足を作ったのだ。

残してきたパーツ
出来上がったスポーツ義足

日本から技術者を人を派遣してものを作ることは簡単だが、現地に根付くものが少ない。我々がやりたかったのは、現地の技術者が技術を学び、広げていくことだった。今回はその成果が見れたことがとても喜ばしいことだった。

この方法は、昨年ブータンでも同様のワークショップを行い実証することができた。これでPPが使われている国ではソケットの後方にブレードをつけるタイプのスポーツ義足を現地で作ることが可能でとなった。今年の2月にはシエラレオネでも実証実験を行う予定である。

もちろん課題も残っている。この義足ではソフトライナーと呼ばれるクッションが使われているが摩擦も大きく、走り続けると断端に傷ができやすい。また吸着も弱く、日本で使われているタイプのものよりも脱げやすい傾向もある。また強度を担保するために多少重くなってしまう。さらに、耐久性に関してはほぼデータがない。今後も要経過観察なので、今後のLoza選手の走りに注目しながら、よりよりエンジニアリングを模索していきたい。

もう10年くらい前だろうか。羽根さんがラオスに行くと聞いた時、その熱意にあまりに感動して、本人に直接めちゃくちゃ応援していること、できればいつか一緒に仕事がしたいと伝えた。それが少しでも叶ったことに喜びを噛みしめながらも、まだまだやらなければならないことも多く、今後も精進していく所存である。

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