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静岡ブレードランニングクリニックイベントレポートvol.1

「走ることは誰にとっても最も基本的なモビリティでありスポーツである」

静岡県で開催予定だったブレードランニングクリニックが中止となり、代わりにオンラインでのトークイベントが開催されました。健常者、障害者関係なく「走ること」を熱く語り合ったイベントの様子を全3回にわたってお送りいたします。

豪華な登壇者のみなさま


佐藤圭太選手
2016年リオ・パラリンピック 400mリレー銅メダル
2017年世界パラ陸上競技選手権大会 400mリレー銅メダル

池田樹生選手
2017年世界パラ陸上競技選手権日本代表400m8位入賞・4×100mリレー銅メダル

大西正裕さん
順天堂大学、 同大学院にてスポーツ心理学、コーチング学を専攻し、現在は陸上競技クラブの運営とコーチを行なう。佐藤圭太選手のコーチ。初めて義足を使う子供たちの走り方のプログラムをXiborgと一緒に開発中。


高瀬慧さん
富士通所属。静岡県出身。
2012年ロンドンオリンピック200m代表
2015年北京世界陸上100m / 200m代表
高瀬さんと大西さんは同じ順天堂大学出身。



山本篤選手
2016年リオパラリンピック 走り幅跳び(T42)で銀メダル 4×100mリレー(T42-47) で銅メダル
2108年平昌冬季パラリンピックに、スノーボードで出場を果たした二刀流アスリート。2021年東京パラリンピック走り幅跳び(T63)4位入賞

小須田潤太選手
右大腿切断。2021年東京パラリンピック 走り幅跳びで出場。
2022年3月には北京パラリンピックにも出場。
ノルウェーの世界選手権から帰国して、隔離中のホテルからご参加下さった。


★アーカイブ動画はこちらからご覧になれます↓

速く走るために必要なもの

司会: 参加者のみなさんに何を聞きたいか、事前アンケートをとった所、1番多かったのは「速く走るために実は〇〇が必要なんじゃないか説」というテーマ。こちらお聞きしてもいいですか。

佐藤選手(以下佐藤):  この件は僕は大西コーチにすべて任せています。高瀬選手はベストタイムの(100m)10秒09を出したときは何を1番意識していましたか?

高瀬さん(以下高瀬):体作りを意識していました。筋力がすごく大事なんじゃないですかね。がっちりした外のゴリゴリな感じのイメージではなく、中の細かい筋力トレーニングをたくさんやっていました。

佐藤:その時やっていたのはどういう動きですか?補強に近いのかそれともシャフトを担いで…みたいな感じなんですか?

高瀬:両方やってました。週5日の練習のうち、週2はシャフトを担ぐようなトレーニング。週3はスタビライゼーションやヒップリフトとかが多かったかな。あと砂場の練習をめっちゃやってました。

(▲スタビライゼーションがわからない方はこちらをご覧下さい)

佐藤:砂場でスレットをやってたと聞いたことあるんですけど。

高瀬:それはひたすらやっていました。
(足が)接地したときに膝が伸びたり曲がったりすると走ることにはマイナスになってしまうので、膝を固定するため砂場の練習をしました。股関節で押し切るみたいな。

佐藤:股関節なんですね。

司会:砂場の練習って、本当に砂の上でやる練習ってことですか?

高瀬:砂場で30mくらいの距離なんですけどそれをダッシュで1本、4,5kgぐらいの重りを引いて走っていってすぐ折り返してくる。これを2往復半。合計5本を連続で走ります。
砂場っていうのはビーチとかじゃなくて、大学に(走路としての)砂場があるので。60mくらいの。そこで練習してました。普通のトラックだと反発で返ってくるんですけど、砂場だとズボって埋まって、走るのにすごい負荷がかかるんです。砂場だとそもそもすごい負荷がかかるのに、更に負荷をかけて15kgの重りをつけてダッシュするという(笑)

佐藤:砂場だけの練習はみんなやっているんですけど、そこに更に重りをつけて走るっていうのは聞いたことがなかったですね。

司会:マニアックですね(笑)あとみなさん、筋トレとかですか?大事にしていることって。

大西さん(以下大西):段階を追っていくと思っていたのに、ここでこの話になるとは…笑
今はライトな感じで「最初に何をすべきか」と質問してくれているんでしょうが、10秒をどうやって切るかという世界の話にいきなりなってしまいました(笑)三段飛ばしくらいで話が進んでしまいました…
まず、トップ選手となるとオリンピックやパラリンピックをみていただいた通り、体の細い選手はほとんどいない。それくらい筋力、体を支えるということは大事になってくるんですね。
人間の体って、背骨が椎骨っていう骨が重なっていて、人間は地面から衝撃を緩衝するようなしくみになっているんです。でも陸上短距離走は地面に短時間で大きな力を伝えなければならない。そうすると、緩衝するという本能的な作業をしてはいけないんです。
そこで、きれいな姿勢を作って棒状にして、地面に突き刺しながら、バウンドさせながら走っていくことが大事になってくるんです。そうすると筋力がとても大事になってきますし、彼ら選手達で言うと、1秒間に5回転くらい足を入れ替えながら走っていくので、その速い中で体を振り回されないような体作りというのが大事になってくるんです。これはトップアスリートの話で一般の方でいうと、僕は小学生を教えることが多いのですが、こどもたちにはジャンプ、なわとびなんかをやらせるといいのではないかと思います。姿勢だったりとかポジションがとりやすくなるので。これは義足の方も健常者も関係なくって感じですね。

司会:なわとびって普通にポンポン飛ぶだけでいいんですか?

大西:まずそこができたら、目印をつけてそこから動かないように飛ぶ。そこができたら、片足で飛ぶ。結局、走ると歩くの違いって「地面に両足がついてる瞬間があるかないか」ここで歩くと走るを分けているので、片足でジャンプがたくさんできるようになってくると、原理的には速くなると思います。

司会:これ、コロナ禍で自宅でもできそうですか?

大西:そうですね。それでこの後義足の走りに話が展開していくと思いますが、義足のアスリート、また走り始めた方たちとの走りの違いはおそらくそこにあるんじゃないかなと僕は思っています。

義足の選手の場合はフィッティングが大切


司会:山本選手もお子さんたちに教えていると思いますがいかがですか。

山本選手(以下山本):義足の選手で1番大切なのは、義足のフィッティングですかね。ソケットが足にあっているかどうかが1番大切なのではないかと。傷ができるような義足であったり、力が伝わらないような義足であったりだと…下腿義足だとあまり多くないですが、大腿義足の僕の周りの人たちはソケットで結構苦労している。
例えば歩くことだと、太ももはあまり上がらなくてもいいけど、走るときは太ももは大きく上げないといけない。大腿義足だとそこは例えば前に上げた時に緩衝しないのかとか、後ろにキックしたときに可動域の制限にならないのか、とか。そういう確認も大切になってくるかと。だから最初に「義足のソケットがしっかりあっているか」が1番大切になってくる。

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(▲ソケットとは切断部位を収納する部分のこと。また義足も切断部位によって様々です)

あとトレーニングしてくると、足自体が大きくなってくるので、それに合わせて変更もしていかなければならないですよね。大腿義足はそのあたりの変化が大きい。下腿だと下腿についている筋肉って足首で使う筋肉が多いので、大きく変わることはないかもしれないけど、大腿義足はそういうところがあるので大切かな、と思います。

司会:走り始めた方や慣れていない方って、義足が自分にフィットしてるかや違和感などは自分じゃ気づきづらいのかと思うんです。痛みは分かると思いますが…

山本:足を振り回したときに抜けないか、痛くないか。あとは傷ができないか。この3点をクリアしていれば合っていると思う。だから誰でも分かると思いますよ。

日常生活で気をつけていること

司会:あと日常生活で気にしていることって何かありますか?

池田選手(以下池田):自分は先天性で生まれつき障害を持っていたので、リハビリっていうリハビリをしたことがないんです。なので自分の幼少期に獲得してきたやり方のまま義足を履いてきたんですね。なので1番最初に先輩方に言われたのは「歩き方めちゃくちゃきたないね」と(笑)特に篤さんには大会会場でよく言われたんですけど。その時の自分ではまっすぐ歩いているつもりでも、鏡とかで見ると本当にグネグネ曲がって歩いていたりして。左右差が激しかったりするので、きれいに歩くことは大事だな、と思っています。そのために大事にしたのはお尻とか大きな筋肉に刺激を入れること。これがきっかけになって多少きれいに歩けるようになったのかなと思っています。

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(▲池田選手は学生時の体験をたくさん語ってくれました)

司会:鏡の前で歩いたり、動画をとってもらうことなどが有効でしょうか?

池田:そうですね、自分自身ではまっすぐ歩いているイメージでも人から見たら全然違う動きになっていたりするので、そこを照らし合わせながらやることが大事だと思ってます。

義足でも健常者も速くなるためにやることは同じ

司会:佐藤選手は大西コーチに言われたことがすべてとおっしゃっていましたが、大西コーチに言われたことで「え!こんなことするの?」って驚いたこととかありますか?

佐藤:速くなるところを目指せば目指すほど「やることは普通の陸上選手と変わらないと」大西さんと話しても共通していて。10秒台目指していくとなったら、一般の10秒台を目指す選手と同じく必要な筋肉と必要な動きがあるよね、となるし、それこそ遠藤さんとかも含めて10秒0台とか9秒台を義足の選手が目指すときには、画面上で見れば、胴から下が映らなかったときに、誰が義足の選手かわからないくらいに、トップ選手は変わらない動きになるのではという話もしています。特に下腿義足の選手は。なのでほかの海外の選手を見ても、義足の選手で集まっているパターンもあるけど、多くの選手は健常者のコーチについて健常者の人と練習を一緒にしていくっていうのが王道になっていると思いますね。

司会:大西さんも教えている立場でも同じご意見ですか?義足をはいているとかいないとか関係ないと?

大西:そうですね。最初は板バネを、大腿も下腿も「どうたわませるか」ということがすごく速く走るために必要なのではないかと思っていたのですけど。そもそも地面につくときにどうなるか、なんですね。つく前の動きって大腿部の太ももの動きなので、そこは健常者も義足であろうともあまり関係なくて。そこのトレーニングってのは健常者でも一緒。だんだん考え方が変わってきました。
義足だからちょっと疲れ具合が少ないんじゃないかと思ったんですけど、やっぱりハードワークしたら倒れるし気持ち悪そうな姿をみせるので、これはもう健常も義足も関係ないというのを感じました。実際自分も一緒に練習したり、携わる時間が長くなることでそういうことを知っていけた、というのはあります。

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(▲陸上への熱意と勉強量が半端じゃない大西さん)

ただ、1つ配慮をしなくてはいけないのは、義足のソケットに足をいれたときに、僕らだったら靴がクッション材として衝撃をやわらげてくれるんですけど、義足の場合、衝撃を和らげる役割をするものがライナーだけなんですよ。素手でコンクリートをパンチしている感覚なんです。それは配慮しなきゃいけないと思うんですけど。トレーニングの内容や方向性で特に変えなきゃいけないということはあまりないかと感じてます。もちろん、池田選手みたいに手がちょっとないとか、あと断端の長さが違うとか、そういったところの配慮は必要だと思います。でもトレーニングの方向性とか目指す世界は変わらないんじゃないかと選手とは話しています。

司会:ありがとうございます。大西さんだからこそ言えることですよね。

大西:義足の選手たちと練習する機会が多いので。

山本:僕もそう思います。僕も最初は義足のトレーニングしていたんですけど、そのあとはほとんど(健常者の)大学生と同じメニューをやる。膝がないのでできない部分もあるんですけど、ないなら、どこの筋肉を鍛えているのかを考えてできることで代用していくようなやり方をしている。基本的には導入部分だけは違う、義足をはいているという点で。でも導入が終わって試合に出るとかこれからもっと上を目指す時には、健常者のトレーニングを同じようにすることで強くなれるのではないかと思う。でも導入部分で大腿義足だとどうしても膝関節がなかったりするんで、それをどうやってうまく扱っていくのかというところを知ってもらうと誰でも走れるので。

今まで僕、小学生から80歳くらいの人100人くらいに教えてきましたけど、全員走れているんですよね。導入さえしっかりやれば走ることできるし、そのあとトレーニングすれば速くなると思っています。

司会:山本選手には大分のイベントの時にもオンラインでみなさんに指導いただいたのですが、すごいスパルタだと思って(笑)でも、それは今まで教えた方たちがみんな走れているという自信からくるものなんですね。

佐藤:陸上競技では、最初に義足で走り出したっていうのが、篤さんとか鈴木徹さん。お2人が普通の体育大学に行ったことは、義足の世界では革新的でしたね。パラの選手だけで固まるのではなく、健常の中で速くなることをやっていたので、僕自身も普通の大学に行きましたし他の人もそうなった。速くなる為に健常者と練習することが根付いてましたし、今この流れができたので今度はもっと落とし込んでいけたらと。地域や高校の部活は優秀な指導者が多いと思うので、導入さえできてしまえばそういった地域で若いうちから「速く走る」ということを学ぶべるようにできたらいいなと感じますよね。

vol.2へ続く



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