個人の台頭に、パブリッシャーはどう向き合うべきか?

こんにちは。キメラです。このnoteは私たちのニュースレターからのアーカイブを掲載しています。今回は【2020年12月4日号】の内容を一部再編集したものです。弊社のニュースレターでは、パブリッシャーの方々に向けて国内外の注目ニュースをご紹介するほか、キメラの最新動向を隔週でお届けしています。ニュースレターはこちらから登録していただけます。

話題が流通する起爆剤となる個人、「インフルエンサー」という言葉が浸透して久しく、個人による情報発信はますます台頭してきています。国内外の動向をもとに、この現状にパブリッシャーがどう向き合うべきかを考えてみましょう。

進む、個人メディアのマネタイズ

個人が情報発信するプラットフォームで有料課金が広がっています。筆頭は米国発の有料ニュースレターのプラットフォーム「Substack(サブスタック)」でしょう。コロナ禍による新聞・出版社の倒産や雇い止めもあって、Substackを収益源にするジャーナリストが急激に増えています。その勢いでニュースレターの有料購読者数は25万人を超え、トップ10位の発行者を合わせると、年間約700万ドル(約7億2600万円)を超える市場へ成長しています。Substackは広告モデルに対応していないサービスですが、DIGIDAYによれば配信者自身が企業と広告掲載の契約を結ぶ事例も増えつつあるようです。

日本でも、個人を起点としたコンテンツのマネタイズがじわじわと進んでいます。2020年3月度の「モバイル&ソーシャルメディア月次定点調査」によると、ブログサービスnoteの利用者のうち「記事の購入をしたことがある」人は49.2%、「記事の定期購読をしたことがある」人は38.5%、「記事を読んでサポートをしたことがある」人は52.3%、90.8%のユーザーに課金経験があることがわかりました。note社の発表によると2020年5月の月間アクティブユーザーが6,300万を超え、1日平均2.6万件の投稿がなされています。個人を中心とした課金プラットフォームとしての影響力は、引き続き増していきそうです。

音声プラットフォームの領域でも、個人への課金プログラムの選択肢が増えつつあります。ボイスメディア「Voicy」では、配信者のうち、収益化に至った人数が50人を超えたといいます。これまでの収益化の手段である企業による広告出稿とコンテンツのサブスクリプションに加え、2021年には再生回数に応じた収益化プログラムも提供を開始するといいます。

個人の発信に対してどう向き合うべきか

個人発のメディアが影響力を増すなかで、パブリッシャーはどう価値を提供していけばいいのでしょうか?

米WIREDの編集主幹による考察では、Substackの隆盛に触れ、熱狂的なマニアや小規模な業界のニーズを拾い上げる“周縁部”を担うジャーナリズムとして期待を表しています。一方、購読先の選択肢が多すぎることによる「サブスク疲れ」や、有料購読の恩恵を受けられる個人は少数にとどまると予想しています。

また、個人発のメディアにおいては、情報の信頼性をいかに担保するかも課題でしょう。元毎日新聞社の編集委員である小島正美氏は、安全や健康に関わる内容であっても「だれの査読やチェックもなしに拡散している」状況を憂いています

個人の台頭の影にある「マスコミ不信」について、認知の観点から分析した記事では、ゆるやかなメディア批判が長く続いたことでメディアへの信頼が少しずつ毀損され、SNSの拡散力と相まって不信が強くなっていると説いています。

これらの論考からは、個人発のメディアとパブリッシャーにはそれぞれ異なった役割があり、必ずしも共存できないわけではないことが伺えます。パブリッシャーにとっての試練は、日々の情報源としていかに信頼を得られるメディアになれるかに他なりません。