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メディアの次世代トレンド:台頭するGenZメディアとコンテンツ

米国で用いられている世代別定義によれば、「1981~96年までに生まれた人口」が「ミレニアル世代」、1997年以降に生まれた人口層が「ポストミレニアル世代」とされています。

この「ポストミレニアル世代」は「Generation Z(通称GenZ)」と呼ばれ、ミレニアル世代と価値観や嗜好が大きく異なることから、これまでミレニアル世代が中心となって形成してきた文化に反発し、新たな動きを見せています

メディアについてもそれは例外ではなく、GenZ向けのメディアやコンテンツが多く出てきました。本レポートでは

・GenZによるGenZのメディア
・音声を中心としたGenZコミュニケーション
・GenZへのブランドマーケティング

について、GenZ世代へのアプローチに特徴を持つスタートアップを中心にご紹介し、GenZが求めている次世代メディアのヒントを得ていきたいと思います。

GenZの特徴

GenZの特徴はたくさんありますが、特に押さえておくべき点として、下記の4点があります。

1. スマホネイティブでかつSNSを通じて膨大な情報に囲まれて生活しており、新しいものに対する受動性が高く、かつそれが信頼できるものかどうか見極められる能力が高い

2. 2020年時点で、GenZの最も年上は23歳となり、特にアメリカでは人口も大きく、社会の中のあらゆる面でこれからマジョリティを占めていく

3. スマホ+SNSで見える化された世界の問題を理解しており、上の世代がこれまで解決してこなかった問題に対する社会的アクションに価値を感じやすい(例気候変動問題、Black Lives MatterなどGenZ世代のリーダーが主導し、共感を得ている)

4. 主にミレニアル世代で好まれる美麗さ、シンプルさ、ブランドなどよりも、リアルに近い感覚(本物を感じられることや嘘がないこと)や仲間との居心地の良さを求めている

参考記事
Instagram美学に飽きたZ世代が「居心地の良さ」を求める理由
ミレニアル世代 vs Z世代。その違い、特徴とは?

GenZがメインストリームとなっていく中で、今後は上記の点を強く意識したメディアやコンテンツが増え、支持を得ていくものと思われます。

GenZのためのGenZによるメディア

GenZのためのGenZによるニュースメディアとして、注目されているのが2016年にスタートしたThe Crammです。2020年8月時点で、ニュースレターを中心にInstagram、ウェブサイト、ポッドキャストをあわせて月間PVは250万、ニュースレターの読者は世界103カ国に上ります。前提知識も含め、メディアのトップニュースをGenZが理解できる言葉で届けること、同時にGenZが注目しているニュースを取り上げることに注力しているメディアです。

The Crammがニュースを制作する仕組みとしては、「The Crammers」と呼ばれるボランティアスタッフが世界各国に500人おり、それぞれの得意分野に応じて7つのグループ(TikTok/Reels、Video、Podcast、Media、Social Media、Editorial、Organzing)に分かれ、The Crammを多角的に運営しています。

中でもEditorial(編集)チームのメンバーは自分がその日に注目したニュースを編集長に送る役割を担っています。これにより、トピックの多様性を確保しています。これらのスタッフ全員がGenZとなっており、まさにGenZのためのGenZによるメディアとして運営されています。

また、The Crammは今年のアメリカ大統領選挙にあたり、初めて投票を行う人向けに、各州ごとの投票ガイド、用語集の提供を行いました。これにより、GenZで選挙に関心ある層の投票を促進したことは想像に難くありません。

メインの提供チャネルとしては、e-mailによるニュースレター(無料)ですが、スマホネイティブなGenZではe-mailよりもSMSによるテキストチャットが積極的に利用されることも多いためか、SMS配信にも対応しています(SMS料金がかかるため有料 $0.99/月 または $9.99/年。現状は米国のみ)。

このようなメディアが作られ、同世代に受け入れられるのも、ミレニアル世代が作ってきた既存メディアやコンテンツへのカウンターとしての意味があり、GenZが信頼できるメディアを求めていると言えそうです。

音声を中心としたGenZコミュニケーション

AppleからAirPodsが発売されて以来、音声に触れる時間が大きく増え、新たな音声メディアが出てきています。GenZはAirPodsつけっぱなしの世代であり、音声メディアムーブメントの中心に立つ存在と言えます。

その中で注目したいのがライブ音声チャットサービスのRodeoです。Rodeoは、プライベートなグループのコミュニケーションのために用意されたライブ音声チャットアプリ。アプリを立ち上げ、ルームを作り、友達を招待すると、その場でフレキシブルな音声チャットができるようになります。

従来の音声/ビデオチャットであるZoomやSkypeなどでは、事前に時間をあわせ、カレンダーinviteを送るといった手間が必要でしたが、Rodeoではルームを作ったタイミングで、自分が話をしたい時にそれをアプリで表明し、すぐにグループチャットを開始することができます。

先行した類似のサービスとして、Venture Capital界隈から流行り始めたClubhouseがあります。機能的にはほぼRodeoと同様ですが、違うのはClubhouseはよりパブリックドメインなコミュニティを志向していることです。

こちらは投資、スタートアップ、ビジネス、音楽、ソーシャル・ネットワークなど特定のテーマを扱い、人の出入りが多くあるパブリックなルームが多く、ある種カンファレンスセッションのようなチャットが行われます。

一方で、プライベートなルームで親しい友人や友達と友達までとカジュアルに音声チャットを楽しむGenZ世代の利用を想定したRodeoとは立ち位置が大きく異なります。

音声チャットを通じたコミュニケーションの場としては、他にはゲームプラットフォームがあります。ゲーム (Fortnite / Roblox / Minecraft / あつ森 / ...) + 音声チャット (ゲーム内チャット / Discord / HouseParty / ...) の組み合わせで、GenZは毎日のように友達と音声コミュニケーションを行っています。

ゲームを一緒にプレイすることももちろんですが、FortniteやRobloxでのバーチャル音楽コンサートやパーティモードの提供で代表されるように、暇つぶしやおしゃべりの場としてゲームプラットフォームが機能しています。

このように様々な場でGenZの音声を中心したコミュニケーションが促進されていることから、今後のメディア運営の観点では、GenZ世代に対して音声コミュニケーションを中心としたチャネルを通じてどのように自社のコンテンツに接触してもらうのかが大きな意味を持つと考えられます。

GenZへのブランドマーケティング

現代は、1000人が$100づつ払うのではなく、100人が$1,000づつ払うようなビジネスモデルに変化しつつあります。これは、プロアマを問わずクリエイターが自身でプロダクトやサービスを生み出し、熱狂的なファンからマネタイズを行っていくPassion Economyと呼ばれる現状を表しています。メディアやインフルエンサーが乱立し、画一的・均一的なトレンドではなく、自身の個性や好みをより重視する現代(そしてよりその特徴が強いGenZ)において、いかにコアなファンを獲得するかが重要になってきています。

そんな中で興味深い動きを見せているのが、MSCHF(ミスチーフ)というスタートアップです。MSCHFは2週間に1回、全く新しいプロダクト/サービス/キャンペーン(同じことは二度とやらない)を出し続けるという特異なことを実施しており、さらにローンチした多くの施策がヒットしています

MSCHFが提供するものはNetflixを友達と一緒にリアルタイムに観るためのブラウザエクステンション、AIによって生成された絵、特製スニーカー、インフルエンサーとコラボしたスマホアプリ、時限式福袋、ウィルス感染したコンピュータなど多岐にわたり様々なものが提供されています。

例えば、NikeのAir Max 97をカスタマイズしたJesus shoesはソール部分にヨルダン川の"聖なる水"が注入され、$1425という価格にも関わらずソールドアウトし、中古市場では$4,000まで跳ね上がりました

最近では、Push Partyと呼ばれる誰にでもPush Notificationを送信できる招待制のソーシャルネットワークサービスをローンチし、それがVCから$200M(200億円)の出資も呼び込みました。Push Partyについてはプロダクトを細かく出し続けた結果、単一事業として成り立つ可能性のあるメディアを作れた事例としても注目したい点です。

MSCHFはプロダクトやサービスが提供される時間や数量で限定されるDropと呼ばれる手法を多様しており、プレミアム感を上手く醸成しています。また同時に社会で話題になっている事象(例えば、Amazon Alexaの疑惑、アート投資家への批判など)を取り上げ、今流行しているテーマを商品化し、さらなるバイラルを起こすことで、認知とロイヤルティを得ることに成功しています。

このことから、MSCHFのように新しいものを細かく限定品として出し続けていくことにより、コアなファンを獲得することがGenZへの有効なブランドマーケティングの方法の一つと言えます。MSCHFのやり方をそのまま真似することは難易度が高いと思われますが、GenZへのアプローチの際に意識すべきポイントとして参考になる部分があるのではないでしょうか。

GenZが求めているメディアの形

本記事で紹介した事例は、GenZの求めるメディアのほんの一部でしかありませんが、ミレニアル世代とは大きく価値観が異なり、求められるものも違うことが分かっていただけたかと思います。

日本のGenZ層は少子化後の世代であり、人口全体の14%に過ぎず、アメリカに比べるとその割合は大きくありません。一方でスマホ・SNSネイティブの第一世代という意味では、後続の世代も含め、今後の日本の文化、消費、生産の中心を担う世代となります。

世界全体では既に30億人、全人口の約35%がGenZとなっており、グローバル市場を狙う上では、欠かせない存在になっています。

GenZを中心とした世代に対応していくために、新しくかつ社会的意義のあることを短い期間で絶え間なく発信し続けること、虚構やうわべのクールさではなくリアルだと思ってもらえるコンテンツを提供することが、今回の事例で共通していたポイントです。

今後はそのポイントを実践していけるメディアが次世代メディアのスタンダードとなる可能性があります。GenZが中心になっていく世界でメディア領域がどう変わっていくのか今後Ximeraとしてもさらに注目していきたいと思います。