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機械と人間の狭間で ―サイボーグ、AI、アンドロイド―

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『攻殻機動隊』を中心に、欧米、日本のSF小説、漫画を題材にして、機械の人間の狭間を考えます。全8回。(完結) ※文中のAmazonへのリンクはアフィリエイトではありません。
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Extra.パワードスーツとともに(3)身体拡張としてのパワードスーツの歴史とその問題点

パワーアシスト技術パワードスーツは、身体装着型ロボット技術「ウェアラブルロボット技術」の一種であり、特にパワーアシストを主目的とするものを指す。実際に、ナビゲーション・ロボットや、非言語型情報支援デバイスなど、感覚面や情報面をアシストする研究も進められている。 パワーアシスト技術の構成方法は、前田(2004)によると、 ・能動義手 ・能動装具 ・閉構造外骨格型 ・開構造外骨格型 ・遠隔臨場制御型 の5つに分類されている。 能動義手 身体の欠損部位を機械によって代替する。そ

Extra.パワードスーツとともに(2)日本SFの場合

日本SFにおけるパワードスーツ日本のSFにおけるパワードスーツを考える場合、アニメ・マンガ・特撮によるところが大きい。日本のTVアニメの最初期の三作『鉄腕アトム』『エイトマン』『鉄人28号』はいずれもロボットSFであった(「エイトマン」は人間の記憶を持っていて、作中ではサイボーグと呼称されている)。1972年の『マジンガーZ』で搭乗型のロボットが登場、これが決定打となり、日本の巨大ロボットアニメの潮流が形作られた。その一方で、石森章太郎(後、石ノ森章太郎)による『サイボーグ0

Extra.パワードスーツとともに(1)誕生と発展

パワードスーツのイメージ「4.わたしは機械?(2)」で触れたウイリアム・ギブスンの「冬のマーケット」やジョン・ヴァーリイの短編集『ブルー・シャンペン』では、障碍を克服するための器具としての「外骨格」のパワードスーツが描かれていた。ギブスンは『モナリザ・オーバードライブ』でも同様の「外骨格」を登場させているが、こちらでは健常者が重量物を動かす際の補助器具として使われている。 一般にSFにおけるパワードスーツと言うと、戦闘的なイメージであるが、障害者や健常者の補助器具としての「

4.わたしは機械?(2)身体を捨てて生きられるか

4-2-1.VR世界の誕生『攻殻機動隊』で「人形使い」と融合後の草薙素子は宇宙空間の託体施設に肉体を保管し、義体にダイブして地上に現れるようになる。またネット上に自らの変種を拡散してもいる。 『アンドリューNDR114』でアンドリューは、電子頭脳を持った人工臓器の集合体であるにもかかわらず、人間として認められた。 こうなると極端なことをいえば、脳が必要であるかどうかもあやしいと言える。 果たして、情報だけの存在も人間なのだろうか? もっとも、現実問題としてそこまでの技

4.わたしは機械?(1)AIと人間を分けるもの

4-1-1.「ゴースト」という概念サイボーグ技術とロボット技術は不可分の存在である。そこに高度に発達したAIが加わったとき、サイボーグ=人間とロボット=AIの境界線は揺らぎ始める。 《攻殻機動隊》において最も重要な「AI」である「人形使い」はまさにそれを体現する存在である。「人形使い」は、もともと外務省が政治的工作のために作ったプログラム。ところがネット上であらゆる情報を収集していくうちに、「自我」に目覚めてしまう。そして自らを「AI」ではなく「生命体」だと主張するようにな

3.アンドロイドはピノキオの夢を見るか(2)機械はどこまで人間か

3-2-1.ピノキオ神話一般的に、ヒューマノイド・ロボットという人の形をしたものが、人のように考えて行動するようになった場合、人間とヒューマノイドの境界線が問題となるのは、当然のことと言える。それが、『攻殻機動隊』においては、人間の側の人間であることへの疑問という形で表出していた。 しかし、より一般的には、作品中において、ヒューマノイド・ロボットの側の「人間という存在への希求」という形で示される。この問いかけの最も有名なさきがけがディズニー版『ピノキオ』(1940年)であろ

3.アンドロイドはピノキオの夢を見るか(1)「AI」「ヒューマノイド」とロボット三原則

3-1-1.フチコマ・タチコマ『攻殻機動隊』の世界では、完全義体、電脳が技術として確立されており、AIも発達している。 AIはあらゆる場面で活躍していると考えられるが、多くは各種のロボットの制御を行っているものと考えられる。 士郎の原作には、AI搭載の多脚戦車「フチコマ」(日本神話の「天の斑駒(アメノフチコマ)」から命名)が登場して、活躍している。押井守の劇場版2作ではオミットされたものの、『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズでは、「タチコマ」として登場し、人気を呼んだ。

2.機械の中の幽霊(2)

2-2. 義体はどこまで現実か2-2-1.サイボーグの再定義 SFの分野では一般的になった「サイボーグ」という概念であるが、技術の進歩によって実現性が高まってきている。 北アイルランド出身でスペイン育ちのアーティスト、ニール・ハービソンは先天的な「1色覚(全色盲)」である。しかし、現在の彼は色を識別することができる。彼の頭部には光センサーがついたアンテナが埋め込まれており、先端の光センサーが視界の光の波長を捉え、それを頭部に埋め込まれたマイクロチップが振動に変える。後頭部

2.機械の中の幽霊(1)

2-1.日本SFにおけるサイボーグ~『009』から『攻殻機動隊』へ~2-1-1.日本サイボーグSFの黎明 少し時間をさかのぼって、日本におけるサイボーグの受容を眺めてみよう。 クラインとクラインズの「サイボーグと宇宙」が刊行された翌年である1962年には、日下実男『地球物語 : 地球の生成から消滅まで』(早川書房)において、早くも「宇宙人間サイボーグ」と題して、その内容が簡単に紹介されている。 その年には光瀬龍が《宇宙年代記》シリーズを書き綴り始め、「スーラ2291」(1

1. A Cyborg Manifesto(2)ダナ・ハラウェイ『サイボーグ宣言』

1-2-1.政治神話としてのサイボーグ「我々はサイボーグである(we are cyborgs.)」というセンセーショナルな言説で知られ、フェミニストやSF関係者にも幾度となく再読されてきたハラウェイの『サイボーグ宣言』であるが、本来は当時の社会情勢下における、社会主義/フェミニズムの観点からの政治的提案である。 ハラウェイ自身『サイボーグ宣言』の中でいくつものSF作品に言及しているし、サイバーパンク作品群を読み解く理論として多くの場で持ち出されてきたが、そもそも文学理論で

1. A Cyborg Manifesto(1)サイボーグの起源

1-1-1.サイボーグという概念「サイボーグ」という言葉を知らない人は恐らく現代社会にはほとんどいないだろう。しかし、サイボーグとはどのような存在であるのかを問われた場合、それをきちんと説明できる人は多くはないだろう。それは、「サイボーグ」が広く用いられるようになったために、イメージが広がってしまってためでもある。 ここでは、原点に立ち返って考えてみる。 『大辞林(第三版)』(三省堂)には以下のようにある。 簡単に言えば、機械によって生物器官の一部を置き換えた存在が「サ

機械と人間の狭間で ―サイボーグ、AI、アンドロイド―【参考文献】

・日下実男(1962)『地球物語 : 地球の生成から消滅まで』早川書房 ・アーサー・C・クラーク,福島正実,川村哲郎(1966)『未来のプロフィル』早川書房 ・加藤一郎(1986)「人工の手・足」計測と制御7(12),p881-889 ・副島美由紀(1994)「ポスト・ヒューマン時代の政治的想像力,あるいはアイロニカルな神話 : ダナ・ハラウェイの『サイボーグ宣言』を読む その(1)」小樽商科大学人文研究88,p175-193 ・副島美由紀(1995)「ポスト・ヒューマン時代