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【歳時記と落語】春場所

大阪で春の訪れを知らせるもんといいますと、今は三月半ばの大相撲春場所も一つの風物として馴染み深いもんになってますな。

今年は残念ながら、コロナ禍で両国開催となりました。

相撲は今は一場所15日間で六場所、年間90日の本場所ですが、昔は「一年を二十日で暮らすよい男」てなことをいいました。

大坂相撲、江戸相撲、昔は別々やったんですが、どっちも一場所十日で春と秋の二場所やったそうです。もちろん、今も合間に巡業がありますように、昔は「花相撲」と言いましたが、地方興行はありました。今と違うて、これは玄人衆だけやのうて地元の素人相撲宮相撲でならした腕自慢も土俵に上がったんやそうです。「飛び入り勝手次第」というやつです。

落語にも相撲はちょいちょい出てまいります。本場所見物の様子が出てくる噺が「相撲場風景」です。地方巡業は「花筏」に出てきます。その他に「大安売り」「鍬潟」てな噺がございます。ここでは「花筏」をご紹介しましょう。

大坂相撲の興行が姫路に行くという時に、看板の大関花筏がえらい病気になって動かすこともならんということいなった。困ったのは親方です。金はもうもろたある。そこで思い出したのが提灯屋の徳さんです。姿かたちが花筏によう似てるのんで、身代わりにしようという算段です。今とちゃいますから、姫路あたりでほんまもんの花筏をみたことのあるもんはまずおりません。嫌がる徳さんを、手間賃と飯つき酒つき、土俵入りだけという約束で連れて行きます。はじめはうまいこといってますが、この徳さん、次第に調子に乗って食うは飲むはで羽目を外しすぎます。病人とは思えんということになって、千秋楽、結びの一番で一人勝ちっぱなしの千鳥が浜という土地の網元の息子と取り組むことになります。さて、土俵に上がった徳さん、鬼の子と言われるほど強い千鳥が浜に恐れをなして、これはもうこの世の見納めと「南無阿弥陀仏」と漏らして、涙をぽろぽろ。それを見てびっくりしたんが千鳥が浜。ゆんべ親父さんから、花筏が出てくるんは、勧進元に気をつこうて負けて振りをしていた大坂相撲の連中が、これでとりおさめとお前を殺す腹に違いないと諌められておった。念仏を唱えてるんはこれから殺されるわしを憐れに思うてのことに違いない。親の言うことは聴いとくもんやった、親不孝やったと涙をぽろぽろっとこぼして「南無阿弥陀仏」。

軍配がかえって立ち会いますが、腰の引けた千鳥が浜、花筏の徳さんにはられてしりもちをつきよった。

「さすが大関花筏、大したもんや。あの千鳥が浜が飛んでしまいよった。ほんまに張るのがうまいで」

うまいはずです、提灯屋の職人でございます。


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