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中朝国境──豆満江に響く朝鮮鉄路の笛

 4月に入ったにも関わらず、寝台列車のコンパートメントには冷たい冬の風が入り込む。「私は丹東の出身でね。まだこの地域はずっと冬だよ」と話したっきり、同部屋になった東北人のおばあちゃんはじっと雪の残る東北の大地を眺めていた。

丹東駅朝8時

朝の丹東駅。

 朝8時前、列車は朝鮮との国境都市である丹東駅に滑り込んだ。あいにくの雨模様で傘を持っていない。仕方ない、駅についた感慨にふける間もなく、駅横にあるホテルに駆け込んだ。
 中国の良いところはホテルの時間貸しが一般的になっており、数時間しか都市に滞在しない場合でも気軽に利用できるのが良い。フロントの奥の時計が北京時間と平壌時間を指していることに気づき、丹東まで来たことを感じつつ、2人で4時間3000円くらいの料金を払い荷物をおいた。

 今回の旅行のテーマは図們などの中朝国境地帯だったので何も丹東に寄る必要はなかったのだが、前回訪れた際に知り合った、丹東で骨董業を営む商人と用事があり、かつ再訪までの間に中朝間での民間貿易が復活し始めてる話が出ていたこともあり経由することにした。
 さすが私達を「朋友」といってくれただけあり、ホテルまで迎えに来てくれるという。シャワーを浴びて少し待つと到着の連絡があり、雨降りしきる中郊外にある彼の店に向かった。

丹東の「リトル平壌」

中国の骨董商は次から次へとものを見せてくれる。

 中国において骨董業界というのはそれなりの市民権を得ているのか、どのような規模の都市でも大体骨董屋が複数入っているビルというのが存在している(多くの場合ビル型駐車場を居抜いて勝手に店を出しているような感じだが)。
 そういったビルの一角にある彼の店は、以前と変わらず朝鮮のプロパガンダポスターや勲章、CD、朝鮮製電化製品などが無造作においてある「リトル平壌」だ。骨董屋特有の湿っぽくて若干ほこりが舞っている店内で次々に以前依頼した商品を見せてくれる。特に興味があるとリクエストした、朝鮮製時計は日本の市場ではまずこの数を見ることはないだろうという数を見せてくれた。
 結局1時間ほど店に滞在し昼食はこのあたりの朝鮮族が経営している焼肉屋へ。彼の「朋友」は結構しっかりした言葉らしく、焼き肉代をなんだかんだ出してくれた。しかしこっちの地域の焼き肉は、日本のようなタレで味わうものではなく、火鍋で使う香辛料を味付けに使う文化で、これはこれで美味しい。冷麺は平壌冷麺風に少し寄せた延辺冷麺というような具合だが、もしかしたらこの地域では平壌冷麺風にすると観光客にウケが良いのかもしれない。

中朝最前線と民間貿易

紙幣にタバコと、中朝国境らしい品揃え

 そのまま朝鮮のものを販売している輸入貿易の店を経由して駅に送ってくれるというので厚意に甘えることにした。今回寄った、丹東の中連飯店の横で営業している朝鮮物産の店はおそらく丹東市内で最も朝鮮関係のお土産品を扱っている店だろう。店内にはポムヒャンギの化粧品や朝鮮タバコ、高麗人参を原料にした食品やサプリメントがあり、(渡航したことはないが)所謂朝鮮土産で売れそうなものが揃っているという印象だ。
 しかし何よりも面白いのは店員が全員私達の存在を覚えていたということだ。次々と再訪までの間に入荷された商品を紹介しているが、覚えているということは、やはり外国人はほとんど丹東に来ることがなくなり印象に残ったということなのか(それか昔から丹東に来る物好きが少ないから印象に残りやすいのか)。

 丹東駅に戻った頃にはすっかり雨も止んで青空が広がっていた。荷物検査を終え延吉に向かう4時間の高速鉄道旅が始まる。丹東を離れ一眠りして起きると、すっかり暗くなった車窓が広がり、いつの間にか車内放送に朝鮮語が加わっていた。今回の旅行はまだ始まったばかりだ。【続きは本誌『辺境中国』に掲載】

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