The Scholarly Kitchen ひとり輪読会 #1 『Changing Journal Impact Factor Rules Creates Unfair Playing Field For Some』 から色々と調べてみる

The Scholarly Kitchenを読みながら、学術出版の世の流れを把握しつつ周辺知識を得ていきたいこのシリーズ。The Scholarly KitchenはThe Society for Scholarly Publishingが2008年から運営しているブログで、最新の学術出版分野のトレンドやニュースを扱いつつ、多様なGuest Editorを迎えて幅広い観点から学術出版領域を概観しているものです。
素人ながら、本ブログを読解しつつ、周辺分野の情報を調べて備忘録がてら記事にしていきたいと思っています。とりあえずは最新の記事から始めて昔の記事まで遡っていけたらなと考えています。

記事解説

Phil Davis, "Changing Journal Impact Factor Rules Creates Unfair Playing Field For Some". The Scholarly Kitchen, 1 February 2021.

本記事はClarivate社が毎年6月に公開するJournal Citation Report(JCR)にて公開される各学術ジャーナルの指標Journal Impact Factorの新しい算出基準に関して述べています。

そもそもJournal Impact Factor(JIF)とは、単位期間あたりに1つのジャーナルに掲載されている論文が引用された総数をもとに算出される値で、ジャーナルのレベルを”評価”するのに一番用いられている値です(詳細はこちら)。簡単に言うと「そのジャーナルに載せた論文は平均〇回引用される」というざっくり値がJIFです。

Clarivate社が2021年JCRより、そのJIFを算出する際にEarly Access(出版前アクセス, 電子公開版へのアクセス)を考慮すると発表しました。

そもそもEarly Access(EA)を扱う必要が出てきた背景として、電子ジャーナルが広く浸透し、速報的な電子公開(オンラインで閲覧可)と論文発行(号数・ページ数がついて公開)の年の跨ぎが出てしまうケースが増えてきたことがあるようです。ここではEarly Access(EA)を取り扱うモデルとしてRetroactiveモデルProspectiveモデルの2つを取り上げており、検討の末、Prospectiveモデルを採用すると述べています。

この2つのモデルの違いは、Retroactiveモデルが遡及的にこれまで出版されてた論文に対しても電子公開日を参考にする一方で、ProspectiveモデルではこのClarivateのアナウンス以後の論文に対して(2020年以降のもの?)電子公開日を参考にするというものです。

一見するとどちらのモデルでもいいような気がしますが、電子公開のみでまだ号数などがIssueされていない論文(EA Contents)の扱いを考えると状況が少しややこしくなってきます(本当にややこしい)。というのも、現状ではClarivate社が過去のEAデータをすべて収録しているわけではないため、Retroactiveモデルでは一部ジャーナルが不利になります。すなわち、EA Contentsがある場合、EAデータが収録されているジャーナルではJIF算出の分母として計上されてしまう一方で、そうでないジャーナルでは分母に入らないため、JIFの値に汎用性がなくなってしまいます。

ということでProspectiveモデルを使うことになりました、めでたしめでたし。とは終わらず、この記事ではEAを含ませることでJIFの中立性が危ぶまれるのではないかと考察しています。3つのシナリオを考えて、Self-citationが多く電子公開から論文発行までが長いジャーナルはJIFが大きく増加する可能性を示唆しています。

1. Multidisciplinary Medical Journal. This high impact (JIF=25) journal publishes 500 papers per year, with an average of 40 references per paper, 5% of which are self-citations. The lag time between EA publication and print designation is just one month. Expected change: Under Clarivate’s new model, the JIF will rise by just one-third of one percent, or by 0.083 points, to JIF 25.083.
2. Subspecialty Science Journal. This moderately performing (JIF=4) journal publishes 250 papers/yr., 40 references/paper, 20% self-citation rate, and a 3 mo. lag time. Expected change: Its JIF score will rise by 25% (by a full point) to JIF 5.000.
3. Regional/Niche Journal. This journal (JIF=2) publishes 50 papers/yr. with an average of 40 references per paper, half of which are self-citations. Lag time is 6 mo. Expected change: Its JIF score rises by 250% (by 5 full points) to 7.000.
Cited from The Scholarly Kitchen "Changing Journal Impact Factor Rules Creates Unfair Playing Field For Some" (1 February 2021).

ということで、Scopusなどとは違って、出版社ではないClarivateが運営しているから中立だったJCRやWeb of Scienceがこの方向に変わっていいのか、というところで締めくくっています。

個人的な感想

正直、EAを含ませたJIFの算出方法がClarivateのレポートを何度読んでも完全には理解できず…結局上では詳細まで触れることなく書くに至りました。EAデータのWeb of Science(WoS)への収録状況がClarivateのブラックボックスの中にある以上、あまり突っ込んだ議論は現時点でできない気もしますが。とりあえず、過渡期の一施策という扱いなので今年の6月の発表に期待したいと思います。

Self-citationに関するScholarly Kitchenの懸念は、極論すぎて説得力に欠けています。WoSはSelf-citation率も収録条件に加えているので、ここまで大きなことは起きないかと思います。もし一部ジャーナルで大きな変化が起きれば、WoSやJCRへの収録条件を変えることになる(そもそもJIFが付かなくなる)かもしれませんがこれも続報待ちというところでしょうか。

完全電子ジャーナルが多くなり、研究者はほとんど電子媒体で論文を読む21世紀の現在、電子公開日と論文発行日など誰も気にしていないのが現実だと思います。そう考えるとRefencesでの引用形式(年数, 号数, ページ数)も、今後はDOI番号のみで可などへ変わっていくのかもしれません。変化が遅い学術出版領域でClarivateの鶴の一声が変化の流れを引き起こしてくれることを祈ります。

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