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聖杯戦争候補作

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つのが某所に投下した亜種聖杯戦争の候補作。落選多数。 鯖や鱒はご自由にお使い下さい。
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【つの版】二十三区聖杯候補作・ライナーノーツ

 おれだ。二十三区聖杯の募集が終わり、なんか投稿者による自作語りが流れてくるので、おれもついでにやる。ライナーノーツだ。と言っても自作語りはすでに各記事でやっているため、改めて振り返ってみるということになる。規制のせいでしたらばに投下できたのは一作だけだが、まあいい。  二十三区聖杯とはこのような企画だ。どれもすごいのばかりなので、おれのが通るかどうかはわからない。おまかせしよう。なおこれらは二次創作であるが、おれが書いたのでおれのものであり、参考にしてなんかに再利用したり

【聖杯戦争候補作】光るとき

 東京都文京区、某大学医学部附属病院、上層階の一室。 「本当に幸せを感じるって状況……あるよな……」  時刻は昼。うららかな日差しの下、談笑しながら行き交う人々を窓から眺めおろし、彼は目を細めた。 「幸せには……『2つの場合』があると思うんだ。ひとつは、絶望が希望に変わった時……幸せだと感じる。わたしは、本当に死ぬほど追い詰められていたからな……それが今、生きて、安全に、ここにいる。全く幸運によるもので、自分の経験と精神力によるものではないが、それでも幸せだよ……今」

【聖杯戦争候補作】チキチキバンバン

 東京都新宿区、歌舞伎町。深夜。日本最大の歓楽街に彼はいた。高層ビルの屋上に立ち上がり、両腕を広げ、超然と下界を見下ろす。  なんという人の数、なんという大きな街であろう。  彼は胸を高鳴らせ、美しい顔を紅潮させる。かつて彼がいた場所、彼がいた時代には、このようなものはなかった。見るもの聴くもの、全てが目新しい。かつての記憶を取り戻すまでは普通にこの街で暮らしており、慣れ親しんでいたのではあるが。そして、ここは幻想の世界であり、戦場なのだ! 『ハロー、マスター。お目覚め

【聖杯戦争候補作】アウトサイダー

「狩りだ、狩りだ、楽しい狩りだ」  東京、深夜。黒髪の少女は小さく歌いながら、高層ビルの屋上をスキップし跳ね渡っていく。下はネオンきらめく歓楽街、無数に行き交う人の群れ。鉄の車が道を行き、商賈の声は夜もやまず。  ばららん。少女が手に持った弓の弦を撫でれば、魔力持つカラスの群れがまとめて死に、極道たちが息絶える。魔獣たちも恐れおののき、闇の中へと逃げ散っていく。少女は次々と弓弦を撫で、それらをたやすく射て殺す。  死神のごとき狩人に、あたりに潜んでいた英霊たちがおびき出

【聖杯戦争候補作】混じり気の無い、気高い青

 新宿区、東京都庁。 「……以上の件について、報告を終わります。では……」  都庁の一室。大きく重厚な机と立派な椅子に座るのは、眉目秀麗な男性。男性官僚の報告を聞いていたその男は、差し出された書類に判を押した。 「ご苦労。下がってよろしい」 「はい。それでは、失礼致します」  官僚は男の放つ威圧感に冷や汗をかきつつ、お辞儀し、退室した。  男は視線を背後の窓の外に移す。記憶はあるのに記憶にない街だ。立ち並ぶ高層ビル。青い空、白い雲。治安はまだ比較的良く、大勢の善良な市

【聖杯戦争候補作】宇宙は大ヘンだ!

 朝の通学路。学ランとセーラー服の男女が、並んで歩いている。 「……お。その赤い紐、どーした? 右手首の」 「目ざといのね。似合う?」 「似合ってるよ。願掛けかなにか? ……誰かから貰ったのか?」 「ふん、どうだっていいでしょ。あんたなんか、ヘアピンひとつくれたことないじゃない」 「そんなことないって……おおい、待てよ!」  爆発、殺人、放火……東京都内では様々な事件が相次いでいるが、この街はまだ平和だ。平和過ぎてつまらないほどに。この街は……こんなにも平和だっただろうか

【聖杯戦争候補作】可愛いベイビー

 深夜。都内某所の路地裏で、そのサーヴァントは死にかけていた。突然頭から何かにのしかかられ、ねばつく体内に取り込まれたのだ。 「う、うおおおおーーッ!」  宝具の力を解放し、粘液を斬り裂いて外へ逃れ出る。彼を取り込んでいたのは、見るからに悍ましい存在だ。漆黒で玉虫色に光り、表面には無数の目が浮き出し、触手や様々な器官が無秩序にうごめいている。大きさは、高さも横幅も四メートルはあろうか。そして、魔力を感じる。使い魔か。 「テケリ・リ! テケリ・リ!」  それは、口らしき

【聖杯戦争候補作】未来は僕等の手の中

 ヤクザ。  ヤクザとは、江戸時代に現れた言葉であり、もとは「愚かな博奕打ち」を指していた。花札を使った「オイチョカブ」という博奕では、三枚の札を引いて合計値の一の位の大小を競う。8(オイチョ)と9(カブ)の目が出れば合計17で、次に2が出れば最高の「9」になるが、もし「3」が出れば8+9+3=20となり、最低の「0」になってしまう。こうした一か八か(丁か半か)の賭けに出て身を持ち崩す愚か者が「893」、ヤクザなのであるという。 「……はい、頂きます」 「「「ギャーッ!」

【聖杯戦争候補作】東京ブギウギ

 夕刻。マンションの一室に帰宅した女性は、なにか違和感を覚えた。どこかいつもと違う……空気を。 「……?」  人の気配がある。彼女はシングルマザーで、小学生の娘がいる。彼女だろうか? ……いや、娘の靴はない。まだ帰っていない。気のせいだ。彼女は部屋の窓を開けて空気を入れ替え、鼻歌とともにキッチンへ向かった。 「あ」  冷蔵庫を開けると、彼女は顔をしかめた。楽しみに取っておいた、自分の好物の洋菓子が、袋の封が開けられ、一口だけかじって置いてある。しかも記憶によれば二つは

【つの版】地平聖杯候補作・ライナーノーツ02

 おれだ。前回の続きだ。ここからはエクストラクラスの七騎となる。 ◆◆讐◆ 08.Komm, süsser Tod  鱒はBAROQUEのアリス、鯖ははたらく細胞のがん細胞だ。マスターは人畜無害の浮遊少女だが、鯖が厄(ヤク)い。コケカキイキイを書いてて思い出し、ステータス表を作ってみたらアヴェンジャーにぴったりだったのでそうした。なんか別作品にこういうのがいた気がする。何しろがん細胞なので知名度は高いが、そんなもんが擬人化されて人類社会に復讐心を抱いて活動しているとはブッ

【つの版】地平聖杯候補作・ライナーノーツ01

 おれだ。地平聖杯の募集が終わり、なんか投稿者による自作語りが流れてくるので、おれもついでにやる。ライナーノーツだ。と言っても自作語りはすでに各記事でやっているため、改めて振り返ってみるということになる。多いので分ける。なおおれは聖杯戦争候補作を書く時、まず鯖と鱒のステータス表を考え、登場話は後から書くことにしている。かつては5000字ぐらい登場話を書いていたこともあったが、今では1000字ほどだ。 ◆  地平聖杯とはこのような企画だ。208作も応募があり、おれのはそのう

【聖杯戦争候補作】Sympathy For The Devil

 はっ、はっ、はっ、はっ。  逢魔が刻の街を、少女が息を切らして走る。人通りはない。彼女を追手から助ける者はない。スマホで助けを呼ぼうにも、警察でどうにかなる相手ではないことはわかっている。死人が出るだけだ。  少女は、自分が聖杯戦争の場に喚び出されたマスターであることを、先程知らされたばかり。そして、襲われている。サーヴァント、異形の存在が、別のマスターを襲って殺すのを目撃してしまった。必死で逃げるが、相手は人外の存在。逃げ切れるわけがない。せめて自分が無関係だと叫びた

【聖杯戦争候補作】King of the Monsters

 夜の東京。ビルの屋上から看板ひしめく繁華街を見下ろす美少女は、困惑のため息をついた。 「……わけがわからないわ。これが"懲罰"ってこと?」  少女は白い肩出しワンピースを纏い、白いつば広帽を被っている。髪は薄紫色を帯びた白で尻まで伸び、三つ編みおさげが二本。睫毛も白く、長い。瞳は赤く、瞳孔は十字型。口の中には爬虫類じみた鋭い牙が並ぶ。彼女は戦場で失態を犯し、祖国へ強制送還された身だ。これまでを振り返り、状況を整理する。  あんな事態は想定外だったが、言い訳は出来ない。

【聖杯戦争候補作】Dancing Mad

 夜空を見上げれば、無数の星々が見える。視線を下げれば、地平線の彼方まで続く大都市が放つ光の群れ。どちらも、界聖杯(ユグドラシル)が作り出した幻影なのだろう。  東京。以前住んでいたことはあるが、どうやらだいぶ様変わりしているらしい。2021年、ということは、1999年から20年以上も未来。確かに見たこともないものが氾濫してはいるが、フィクションが思い描いていたような姿でもない。腕時計を指でいじる。応答なし。 「……宇宙船を呼ぶのも、無理そうですね……」  少年は、ため