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聖杯戦争候補作

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つのが某所に投下した亜種聖杯戦争の候補作。落選多数。 鯖や鱒はご自由にお使い下さい。
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#地平聖杯

【つの版】地平聖杯候補作・ライナーノーツ02

 おれだ。前回の続きだ。ここからはエクストラクラスの七騎となる。 ◆◆讐◆ 08.Komm, süsser Tod  鱒はBAROQUEのアリス、鯖ははたらく細胞のがん細胞だ。マスターは人畜無害の浮遊少女だが、鯖が厄(ヤク)い。コケカキイキイを書いてて思い出し、ステータス表を作ってみたらアヴェンジャーにぴったりだったのでそうした。なんか別作品にこういうのがいた気がする。何しろがん細胞なので知名度は高いが、そんなもんが擬人化されて人類社会に復讐心を抱いて活動しているとはブッ

【つの版】地平聖杯候補作・ライナーノーツ01

 おれだ。地平聖杯の募集が終わり、なんか投稿者による自作語りが流れてくるので、おれもついでにやる。ライナーノーツだ。と言っても自作語りはすでに各記事でやっているため、改めて振り返ってみるということになる。多いので分ける。なおおれは聖杯戦争候補作を書く時、まず鯖と鱒のステータス表を考え、登場話は後から書くことにしている。かつては5000字ぐらい登場話を書いていたこともあったが、今では1000字ほどだ。 ◆  地平聖杯とはこのような企画だ。208作も応募があり、おれのはそのう

【聖杯戦争候補作】Sympathy For The Devil

 はっ、はっ、はっ、はっ。  逢魔が刻の街を、少女が息を切らして走る。人通りはない。彼女を追手から助ける者はない。スマホで助けを呼ぼうにも、警察でどうにかなる相手ではないことはわかっている。死人が出るだけだ。  少女は、自分が聖杯戦争の場に喚び出されたマスターであることを、先程知らされたばかり。そして、襲われている。サーヴァント、異形の存在が、別のマスターを襲って殺すのを目撃してしまった。必死で逃げるが、相手は人外の存在。逃げ切れるわけがない。せめて自分が無関係だと叫びた

【聖杯戦争候補作】King of the Monsters

 夜の東京。ビルの屋上から看板ひしめく繁華街を見下ろす美少女は、困惑のため息をついた。 「……わけがわからないわ。これが"懲罰"ってこと?」  少女は白い肩出しワンピースを纏い、白いつば広帽を被っている。髪は薄紫色を帯びた白で尻まで伸び、三つ編みおさげが二本。睫毛も白く、長い。瞳は赤く、瞳孔は十字型。口の中には爬虫類じみた鋭い牙が並ぶ。彼女は戦場で失態を犯し、祖国へ強制送還された身だ。これまでを振り返り、状況を整理する。  あんな事態は想定外だったが、言い訳は出来ない。

【聖杯戦争候補作】Dancing Mad

 夜空を見上げれば、無数の星々が見える。視線を下げれば、地平線の彼方まで続く大都市が放つ光の群れ。どちらも、界聖杯(ユグドラシル)が作り出した幻影なのだろう。  東京。以前住んでいたことはあるが、どうやらだいぶ様変わりしているらしい。2021年、ということは、1999年から20年以上も未来。確かに見たこともないものが氾濫してはいるが、フィクションが思い描いていたような姿でもない。腕時計を指でいじる。応答なし。 「……宇宙船を呼ぶのも、無理そうですね……」  少年は、ため

【聖杯戦争候補作】Choose Your Destiny

 それは何時代(いつ)から存在していたのか……そもそも地球上(この世)のものなのかもわからない……。  ただ一つ言えることは――食うことと子孫を残すことしか欲望が無かった人類が、それを目にした瞬間(とき)から――歴史(ラグジュアリー)は始まった! それはただの鉱石(いし)なのか、それとも―― 13万年前、それを初めて所有(テニ)した人類の脳に"声"が響いた!  贅(ラグジュアリー)に目覚めよ!! 贅(ラグジュアリー)を極めよ!!  かくして所有者(オトコ)は、その圧倒的

【聖杯戦争候補作】Agents of SHIELD

 東京の各地で、異変が起き始めた。相次ぐ猟奇的な殺人事件や行方不明事件。突然の爆発や突風。毒ガス、ゾンビ、幽霊、怪しい影の目撃情報。それらは恐怖と興味を以て記録され、拡散される。擬似的に再現された東京に住む擬似的に再現された人間といえど、本人たちにそんな自覚はない。  数多の並行世界の因果が収束して発生した、多世界宇宙現象『界聖杯(ユグドラシル)』。管理者も黒幕もなく、ただ「自然に」発生した聖杯。それが作り出した偽りの世界を、聖杯戦争に喚ばれたマスターやサーヴァントがどれほ

【聖杯戦争候補作】Easy Breezy

『このまま逃げられるとでも思ったか? これで終わったとでも思ったか?』  遠くで雷鳴。冷たく傲慢な、嘲笑う声が廃ビルに、男の脳内に鳴り響く。せっかく与えられたサーヴァントという暴力を使って、気分良く悪党どもをなぶり殺しにしていたのに、なぜ。なぜ。 『貴様が罪人だからだ、慮外者め! 傲慢にも社会のルールに逆らい、大罪を犯したな。現行犯で逮捕し、即時死刑執行だ!』 「ば、バカな! ここにいる連中は、マスター以外はNPCだろ!? 別に何してもいいやつらじゃねえか!」 『汝、殺す

【聖杯戦争候補作】Komm, süsser Tod

 眼球がぴくぴくぴくぴくして止まらない。 「ヒューッ!」「マブ!」「お茶しない?」  夜の繁華街、路地裏。うら若い乙女を囲んで、与太者たちが声をかける。屈強な体格、側頭部や肩にタトゥー。腰にはナイフを忍ばせている。赤茶色の髪の乙女は、きょとんとした表情で首をかしげた。 「お茶? いいよ。おごってね」 「マジ!?」「カワイイ!」「朝までやるぜ!」  与太者たちはせせら笑い、いきり立つ。だが、そこへ。 「ああ、いたいた! あの、すみません。彼女、僕のツレなんで」  ヘ

【聖杯戦争候補作】Der Mensch ist Boese

「はぁ、はぁ、はぁ……!」  宵闇の中を、彼は必死で走る。なにか、恐ろしいものが追ってくる。  ぞるぞる ぞる ぞるぞるぞる・・・・ 闇が、地面を這ってくる。 「たす け……! ?」 『お父さん、おかえりなさい!』  彼は……その場に居るはずのない存在を見た。死んだはずの我が子を。聖杯を手に入れれば、奇跡の願望器によって、生き返らせることが。では。 「ち……チクショウ! お前! お前、幻なのかッ!」  彼は涙を流し、我が子の幻を抱きしめた。自分のサーヴァントとは

【聖杯戦争候補作】chace you

 夕刻。公園で鬼ごっこをしていた子供たちのひとりが、ふと、気づいた。ここは自分のいた場所、いた時代ではない。帰らねばならない、と。 「あいつ、見つからねーじゃん」「ガチ勢だよ。ほっといて帰ろうぜ」  同級生たちが呆れた声で去っていく。少年は顔を紅潮させ、目を輝かせ、息を切らして公園の奥、滅多に人も来ない竹林の中へと駆け込んだ。彼の秘密の場所だ。 「聖杯戦争。何でも願いが叶う。それを、私が?」  胸が高鳴る。これは仏や神の御導きか。あの時、仏の前に座り、目を閉じた瞬間ま

【聖杯戦争候補作】The Gong of Knockout

 0110101011011……。  無数の光の粒子が、光速で飛び交い、衝突し、影響し合い、生成と消滅を繰り返している。それらはいくつか大きな渦を巻き、遥か彼方へ流れている。夢か、幻か。それとも、あの世というやつか。俺は酒に酔って……寝ているはずだ。これは、夢に過ぎまい。 『ああ、夢だと思えばいい。実際、夢だ』  そうか。いや、誰だ。目の前にぼんやりと、大柄な影が現れる。 『どうも、初めまして。おいらは聖杯戦争のサーヴァントだ。ライダー(騎兵)ってことになってる。そう

【聖杯戦争候補作】Diavolo in corpo

「クソが……! ハァーッ、チクショウ……!」  ザザザーッ……!ザザーッ……! 突然の豪雨に追われて、男は山の中の廃屋に逃げ込んだ。不気味な容貌の太った男は、歯を食いしばって悔しがる。 「ツイてねーぜ……! ヤクもねーしよ……!」  彼は雨を振り払い、廃屋の中を眺める。朽ちかけたチンケな木造家屋だ。藁葺きの屋根には大きな穴が空いており、雨は容赦なく入って来るが、残った屋根でどうにか雨露はしのげるだろう。だが、風がミシミシと廃屋を揺らしている。崩れてきたら押しつぶされるか

【聖杯戦争候補作】Treasure in Your Hands

 夜。暗い部屋で、人形を抱いて震える少女がひとり。 「えぇ……何ですかこれぇ……? 地獄の責め苦かなんかですか……?」  彼女は、記憶を取り戻した。聖杯戦争のマスターとしての記憶と知識。そして生前の、死後の、多くの記憶を。彼女は悩み苦しんでいた。  どこかの地獄に落ちそうなことは、いろいろしてきた自覚がある。多数の人々とその子孫の人生を、自分のせいで狂わせたとも言える。たったひとりのエゴのために、たったひとりを殺すために、二千年以上も「死」の研究を積み重ねさせ、呪いを蓄