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【AZアーカイブ】つかいま1/2 第七話 土くれを捜せ

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魔法学院の秘宝、『魔剣デルフリンガー』を盗んだ怪盗・フーケ捜索のため、聞き込みに出たらんま一行。学院周辺からトリスタニアまで足を伸ばし、シルフィードを飛ばして情報を収集する。そして、2日目の夜。宿のテーブルで付近の地図を広げ、集めた情報を整理する。

「……どうやら、犯行のあった箇所を調べていくと、この山地を中心にしているようですね。この近くで怪しい人影を見たという噂もあるようですし」
「神出鬼没とは言っても、アジトはないと活動できねぇしな」
「ええ。この山地は、岩山と洞窟ばかりの荒地。土メイジのアジトには相応しいかと」
「そこを調べて、盗品が見つかれば……!」

意気込むルイズに対し、キュルケは冷静だ。二つ名が『微熱』のくせに。
「けどさあ、フーケは土のトライアングルメイジよ? ミス・ロングビルは土のラインだけど、トライアングルともなれば、30メイルもの巨大ゴーレムを操るレベル。生半な戦力じゃあ、返り討ちに遭うだけじゃ……」

30メイル(メートル)ぅ? ゴジラやウルトラマンよりゃ小さいが、ビルが襲って来るよーなもんだな。ギーシュの悪キュウリとは大違いだぜ。

「でもよー、操ってるフーケ自身を倒せばいいんだろ? 格闘なら俺がいるし、火のトライアングルも風のトライアングルもいるし、何とかなるって」
「そーよね、この『微熱』のキュルケが土くれなんかに負けるもんですか!
 正体は泥臭い野蛮人か、嫁き遅れのおばんに違いないわ、そんな奴! おーーーーっほっほっほっ、見てらっしゃい!!」

キュルケの高笑いに、ロングビルさんが『ぴき』と額に血管を浮かばせた。
この世界での23歳とは、充分年増の域らしい。

「……つっても、流石に広すぎるよなぁ。何か手がかりがもう少しねーかな。魔法での盗品の探索ってのは、できたらやってるだろーし」
「ええ、噂では、フーケは盗品に『魔封じの札』を貼り、魔法による探知を免れているそうです。最初の頃フーケの被害にあった貴族の屋敷から、それが盗まれていたとか」
「じゃあ、フーケも自分にそれを貼っているのかも知れないわね……」

ん、待てよ。こういうのにうってつけの人材、いや獣材がいるじゃねえかよ。
「なあルイズ、財宝捜しに、ギーシュのヴェルダンデを連れてくるか? 主人はともかく、使い魔は優秀なんだろ」
「それも考えたけど、あの変態を連れてくるのは勘弁して欲しいわ」
「まぁ、そうか……あいつに手柄を譲るのも、シャクだもんな」

かくして、捜索3日目。一行はシルフィードに乗り、件の山地へ向かう。ごつごつした岩肌と自然の洞窟。なるほど、『土くれ』のアジトらしい雰囲気だ。

「とにかく、手分けしてその辺の洞窟を捜しましょう。一時間ぐらいしたら、一旦ここに集合ということで」
「そうね。あまり離れない方がいいかも知れないわ。……ランマは、私を守りなさい」
「怖がりなご主人様だぜ。いいよ、使い魔の俺が守ってやらー」
主従二人の様子に、キュルケが微笑んだ。
「じゃあ私、タバサ、ミス・ロングビルは別々になりましょうか。タイマツを出して、火を点けてあげるから」

ルイズとらんまは、手を繋いで近くの洞窟に入り込む。
「……暗いし、寒いわ……フーケの罠があるかも……」
「手を離すなよ、ルイズ。何か出たら、この鉄の棍棒で叩きのめしてやっから。……おし、足跡があるぜ! これをたどって行けばいいだろ」

二人が足跡をたどって行くと、やがて洞窟の行き止まりに着いた。
「あれ? おっかしーな…… のわっ!?」

ぽーん、とらんまの頭上でクス玉が開き、紙吹雪と砂が降り注いで垂れ幕が下りた。

「……『ハズレ』だって、ランマ。これでフーケがいるらしい事は分かったけど、よく考えたら土メイジなんだから、足跡ぐらい自由自在よね」
「っっちくしょお~~、バカにしやがってえ~~っ」

この程度の罠ですんで、幸運だったと思えってのか? 殺そうと思えば殺せた、とか思ってるんだろ? フーケの野郎、早乙女乱馬をなめんじゃねえぞっ。ぜってー捕まえてやるっ。

ふふふふふ、と笑いながら、復讐に燃えるらんまであった。子供か。

確かにフーケのアジトはあるようなのだが、なかなか本物が見つからない。四人は合流して、同じ洞窟を捜すことにする。

落とし穴が多数ある洞窟、開けた宝箱が爆発して砂を撒き散らす洞窟、温泉が急流のように通っている洞窟、井戸の底から幽霊が出る洞窟。もういくつの洞窟を探索したのだろう、そろそろ日が暮れてきた。やっぱりヴェルダンデを連れてくるべきだったか。

「ぜいぜいぜい、どこまでも人をおちょくりやがって、フーケのやろお~~っ」
「タバサが幽霊を見て気絶しちゃったわ。ひとまず外へ出て、合流しましょうよ」
「おー、キュルケ。ルイズもだぜ。……ん、ロングビルさんは?」
「こっちの分岐点で、彼女は向こうへ行ったんだけど……」

天井が高く細長い、やや下り坂になった狭い道だ。突如、背後でゴトンという音がする。振り向けば、道をゴロンゴロンゴロンと巨大な石の円盤が転がってくる! 咄嗟にロングビルの入った道へ飛び込むが、円盤は更に追いかけてきた。

「どっひゃーーーっ!? キュルケ、はっ、早くロングビルさんを追うんだっ! 道幅いっぱいの上に勢いがつき過ぎてて、俺でも止められねーぞ!!」
「ままま待ってランマちゃん! 置いていかないで!!」
二人はルイズとタバサを各々背負い、全力でロングビルの進んだ道を駆け抜けた。

「で、出口だ! 文字通り光が差してるぜ、助かったっ!」
らんまとキュルケが外に飛び出し、素早く横に逃げて石の円盤をやり過ごす。円盤はドシンと向こうの壁に激突し、めりこんで止まった。

「はあああ、危なかった~~。死ぬかと思ったぜ、こんちきしょう。……って、ここは岩山の谷間か? 確かに上から光は差し込んでいるけど、出口って雰囲気じゃねえなぁ」
「そうね。この崖の高さ、50メイルはありそうよ。上からも狭くて出入りできそうにないし」

幅は10メイルほどか。かなり細長いが、ならせば面積は校庭ぐらいありそうな、回廊状の空間だ。上からの光と雨で、地面には案外草花が繁茂している。そして、崖を刳り貫いて、結構立派な人工の建造物がある。その前に若い女がいた。

「あら、皆さんお揃いで」
「ああっ、ミス・ロングビル! やっと会えたわ、探したのよ!」

「無事でよかったぜロングビルさん。この崖を刳り貫いたよーな建物はなんだ? ……はっ、そうか、ここがフーケのアジトか!!」
「やったわ、お手柄ねミス・ロングビル!」

ロングビルに駆け寄る二人の足元が、ずぼっと崩れて落ちる。
「でえっ!?」「きゃあ?!」
泥だ。地面が泥のようになって、二人、いや四人を腰まで飲み込んでしまった!

くくくくくくっ、とロングビルが嘲笑った。手にはメイジの杖と、水晶球を持っている。
「馬鹿な小娘どもだねぇ、私が『土くれ』のフーケさ。ようこそ私の秘密基地へ。なかなか面白い見世物だったよ、あんた達の慌てぶりはね」

ロングビル改めフーケの掌の中の水晶球に、らんま一行のこれまでの苦労が映し出される。

らんまの怒りは、心頭に達した。素早く棍棒を旋回させ、跳躍してルイズごと泥から抜け出す。
「っってえめええ、人をさんざんおちょくりやがって! とうとう追い詰めたぞ、ここでぶっ飛ばしてやらあ!!」

「やってごらん!!!」

後ろの崖からゴゴゴッと身長30メイルもの『岩のゴーレム』が現れ、らんまたちを踏み潰しにかかる!

「こっ、こんなデカブツ、こんな狭いところで動かすなよなっ!」
「私は土メイジだからねぇ、ゴーレムの中に潜らせてもらうよ。あんた達は潰れっちまいなああ!!」
「ら、ランマちゃん、私とタバサも助けて!!」

巨大ゴーレムの中に隠れたフーケ、気絶したルイズとタバサ、泥の中のキュルケ。立ち向かうらんまは鉄の棍棒1本。その頭上から降り注ぐ岩石と土砂。絶体絶命のピンチだ!

しかし、迫り来るゴーレムの右足が突然、爆発した。ルイズの放った爆発魔法ではない、『内側』からだ。ガラガラと岩が崩れ落ち、ゴーレムはバランスを崩して崖に寄りかかった。その足の中から現れたのは、一人の男であった。

「………ここは、どこだ?」

黒髪に八重歯、黒いプリント入りの黄色いバンダナ、背中のリュックサックと赤い番傘。らんまは思わず固まる。今のは土木技『爆砕点穴』! そしてこいつは、見忘れようもねえ、この男はっ!!

「りょ、りょ、りょ、良牙!!!?

………おい、冗談だろ。助かったのはいいが、マジかよ? あの野郎、『響良牙』の方向音痴は、異世界に迷い込むほど酷えのか?

「ら、乱馬!? きさま、天道家から失踪したんじゃなかったのか? こんなところで何を「そりゃこっちのセリフだっっ!! なんでおめーまでこっちに来てんだよっっ!!」

良牙は眼をぱちくりさせる。
「こっち? 何だか知らねえが、取り込み中のようだな。この動く石像をぶっ壊しゃあいいのか?」
「そ、そうだ! さっきの要領で、粉々にしちまってくれっ!」
「よおし、喰らえ妖怪変化、『爆砕点穴』!!」

良牙が人差し指をゴーレムに突き立てると、ゴーレムを構成する岩石が次々に爆発していく。無生物の『破孔(ツボ)』を突いて爆砕する、中国の土木作業者によって生み出された奥義だ。

「よおおーーし、って、どわああああああああ!? しまったあああ!!
ゴーレムはガラガラガラガラと崩れ落ち、谷間は土砂で埋まってしまう。
間一髪、らんまはルイズとキュルケとタバサを背負い、頑丈な建物の中へ避難した。良牙は無傷で、ぼこっと土砂の上に顔を出す。
「おーーーーーい、乱馬、どこに埋まったーーーっ!」

「……お・め・え・なあ~~~~……」
らんまは建物の中で、精神的・肉体的疲労によりぐったりしていた。

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