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【AZアーカイブ】つかいま1/2 第二話 ルイズの秘密

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前回のあらすじ。早乙女らんま(女乱馬)が、ルイズに召喚されました。

「ちっきしょ~~、地球じゃねえなんて、そんなんありかよ」
「『東方』じゃ、人間の住む大陸のことを『地球』って言うの? 大地って、丸いのかしら」
「だーかーらー、世界そのものが違うっつってんだろーがぁ! 月が二つなんて、なんちゅー星だよありえねー」
「星は夜空に見えるものよ。世界が星だなんて、ロマンチックというか変な事言うのね」
「もう、いい……早く日本に帰りたい……」

「ま、元気でよろしい。ちょっと左手を見せてくれたまえ」
禿頭の教師コルベールは、らんまの左手に浮かんだ謎のルーンを解析するため、スケッチをとった。

その後、らんまはルイズの部屋に行き、詳しい事情を聞いている。時刻はもう晩になっていた。
「あー、本当に異世界で魔法使いなのかよ。石つぶて飛ばしてきたし、空飛んでる奴らもいたしなぁ。……で、『使い魔』っつーのは要するにだ、貴族様のペットとか召使いってわけか?」
「そうよ。主人の身を守り、身の回りの世話を焼き、秘薬を見つけ出し、感覚を共有して目や耳となるの。人間が召喚されたって例はないから、よくわかんないわ。感覚共有もできないし」
「本来は、俺が見聞きしたものが、お前にも伝わるってことか。プライバシーもなんもねぇな」
「プライバシー? なにそれ」

「ええい、人権思想もない社会で奴隷になれってことかよ。ふざけんな、勝手に呼び出して縛りつけやがって」
「なによジンケンって。勝手に召喚のゲートを潜った、あんたの自己責任でしょ。送還する方法も分からないし」
「人が寝ているときに召喚するなっっ!! きっと寝返り打って転がり込んだだけで、自由意志で入ったんじゃねぇっ!!」
「じゃあ、運命だわ。とにかくあんたは、私の下僕よランマ。一生私に仕えてもらうからね。別の使い魔は、あんたが死なないと召喚できない決まりだもの」

ダメだ、話が通じないし噛み合わない。らんまは失意体前屈の姿勢(orz)をとり、絶望した。
「あら、這い蹲って忠誠を誓ってくれるの? 嬉しいわ」
「………誰か、迎えに来てくれ……『猛虎落地勢』……」

「それにしても、貴族の使い魔というか侍女・従者として、言葉遣いや礼儀作法がなっちゃいないわ。ばしっと鍛えなおして、宮中に出ても大丈夫なようにしとかなくちゃ」
「そーいや、ここは王国だったな。日本にも天皇さんってのがいるが、王様はなんていうんだ?」
「しばらく前に崩御されて、マリアンヌ太后が仮に元首を務めておられるわ。政務はマザリーニ枢機卿という方が取り仕切っておられるし、次代の王位はひとまず、アンリエッタ姫殿下が受け継がれることになっているの。……私の、幼馴染ね」

ほえー、冗談抜きで王侯貴族のお嬢様、いやお姫様かよ。ピコレットや九能みてーな大金持ちはいたが、将来の女王陛下のおともだちだぁ? 俺みてーな山育ちの自然児に、宮中作法を押し付けようってのか。しかも、女性使用人の。

……そうだ、女の姿で召喚されたからいいが、男だったら? というか、俺の正体が男だって、ルイズにばれたら? ……どーしようかな。やばいな。
「ところでよー、お前、魔法使いなんだろ? 何が出来るのか、知っておきたいんだけど」
「…………その話は、禁止よ」
「? 何で?」
「僕が教えよう、美しいおさげの女、ミス・ランマよ!」

にょきっと部屋の床から、金髪の優男が生えてきた。口に薔薇の造花をくわえている。
「ぎ、ギーシュ!! あんたまた、『錬金』で人の部屋の床に穴を空けてっ!」
「はっはっはっ、『トリステイン魔法学院の青銅の薔薇』こと、このギーシュ・ド・グラモンは神出鬼没。今宵は僕の召喚した使い魔、巨大モグラのヴェルダンデくんのお披露目さ! よしよし、可愛い奴」
………なんかものすごーく既視感があるが、アレと同レベルの変態野郎か。

「いいかね、おさげの女よ。メイジとは始祖ブリミルの血統に連なる選ばれし者たち。いわば人類のエリート! 平民の上に立ち、文明を継承する王侯貴族さ。ところが、この『ゼロ』のルイズは、胸の膨らみばかりでなく魔法の成功率も、限りなく……」
ちゅどーーーーん、と爆発音がして、変態野郎ギーシュと巨大モグラが壁まで吹き飛ばされた。見れば、ルイズが杖を構えている。

「……『ゼロ』じゃないわ。ほぼ必ず爆発するけど、決して『ゼロ』じゃないっ!」
なるほど、こういうことか。

らんまは気絶したギーシュとモグラを『ぶぎゅる』と踏み潰し、モグラの掘った穴から蹴り落とした。家具を持ってきて穴をふさいでおく。今度湧いて出てきたら、窓から蹴り飛ばしてお星様にしてやる。

「……よー、悪かったなルイズ。コンプレックスつついちまってよー」
「いーわよ、馬鹿にしても。慣れっこだもの」
「しねーよ、ご主人様。俺がマシンガントークでおめーをフルボッコにしたら、絶対泣き出させちまうしな。つっこみどころが多すぎるぜ」

「ランマ……」
「それに、俺はあのモグラや火トカゲみてーなのより、ずっと役に立つぜ。強いし賢いしすばしこいし、手先も器用で容姿は美しく、胸の大きさでも」
ちゅっどーーーん。
「……その話も、禁止。」
「……おう。げほっ」

「ああ、魔法を使ったし、沢山喋ったら疲れて眠くなって来たわ。ちょっと早いけど、ネグリジェに着替えましょ。
 じゃあとりあえず、明日の朝でいいからこの服洗濯して、干しといて。
 朝食に遅れないように起こしなさいよ」
ルイズはなんの躊躇もなく、ブラウスを脱ぎやがった。キャミソールにパンティまで。
ブラジャーはねぇようだ。どーせつるぺた胸板のちんちくりんにゃ、必要ねーか。

「っってわぁこら、俺の目の前で脱ぐなよっ」
「いいじゃない、女の子同士だし、貴族にとって使い魔は家畜みたいなもんよ。あんたのは自分で洗濯しなさい」
「おうよ……じゃねぇ、はい、おじょーさまっ」
「その調子。……じゃ、お休み。寝床は床の上に適当に作って、寝なさい。はい、毛布」

……いろいろあったが、どーやらこれは夢ではない。現実だ。ルイズに爆発魔法も喰らったし。俺は体一つで、見も知らねぇハルケギニアとかいう異世界に連れて来られ、家畜や奴隷に等しい存在となってしまった。

さっさと帰ろう、みんな心配している。あいさつもなくあっちの世界から消え去ったわけだし。あかねたち天道家のみんなに、親父、おふくろ、ウッちゃん、シャンプー、良牙。九能や校長やムースなど、喜びそうな奴らも沢山思いつくが。

だが今は、帰る方法さえ分かんねぇ。魔法ってやつにもっと詳しいやつなら、分かるかも知れねぇ。『東方』へ行けば、日本や中国と似たような世界が広がっているのかも知れねぇ。……帰れる可能性は、『ゼロ』じゃねぇはずだ。帰ってやる! 何ヶ月かけても、絶対に。

翌朝早く。らんまは夜明け前に目を覚ました。タンクトップにトランクスはちょっと寒い。
「……やっぱ、夢じゃねぇ……か。ははっ」
しゃーねーな、頼まれたルイズの洗濯物を片付けちまうか。でも洗濯場とか分からねぇな、この学校だだっ広いし。

しばらく歩き回っていると、メイドたちが群がっているのでそこだと知れた。
「なるべく、丁寧な口調にすっか。……あのー、ちょっと私、洗濯を……」
「きゃっ! あの、貴女は?」
「ああっと、昨日ルイズに……ミス・ヴァリエールに召喚された、ランマです」

メイドの一人が、俺の相談に乗ってくれた。
「ああそうだったの、そんな色っぽい恰好しているからびっくりしたわ。不謹慎だし、このメイド服が余っているから貸してあげる。洗濯は順番待ちよ」
「ありがとうございます。……あの、急いでるんで、私が皆さんの分も洗濯しましょうか?」
「いいけど、あんまり手荒に扱うと破れちゃうわよ。急いでいても、順番は守りましょう」
「はい……あの、私『ご主人様』を起こさなくてはならないので。朝食はいつからでしょう」
「あと1時間半ぐらいかしら。しばらく余裕はあるわ」

彼女は『シエスタ』というらしい。短めの黒髪で、少しあかねに似ていなくもない。……いや、胸は大違いだな。ルイズのは胸っつーか、ただの板だが。あいつが16歳で俺とタメって、本当か? 見たとこ小学6年生か、せいぜい中学生だぞ。ひな子先生みてぇだな。
「でも平民の人まで使い魔として召喚するなんて、貴族の方たちってのは……、あっ、感覚を共有しているんだったわ、ごごごごめんなさい!」
「いや、してませんよ。人間を召喚したのは始めてなんですって、安心してください」

とりあえず物陰でメイド服に着替えた。ええい胸がちょっときついぞ、またでかくなったのか。ルイズの洗濯物は少なかったので、すぐ終わった。シエスタさんたちにお礼をいい、部屋に戻る。

「おーほほほほほ、ご主人さまっ。朝でございますわっ、お起きになって~っ」
結構ノリノリで、メイド服のらんまがルイズを起こす。のろのろと這い出したルイズの洗顔や着替えをさせ、朝食のある『アルヴィーズの食堂』までついて行く。

「あら、ランマちゃんお早う。メイド服似合うわよ」
「まぁキュルケさま、お上手。をほっほほほほほ」
「……ふつーでいいのよ、ランマ。ふつーで」
いかん、つい小太刀みてーな口調になっちまったぜ。俺ってノリやすいよな。

しかし、『アルヴィーズの食堂』へは貴族以外は入れないという。俺のメシはどーすんだ?
「授業のときに使い魔紹介みたいなことするから、後でまた食堂前に来なさい。そのメイド服のままじゃ使い魔らしくないから、何かそれっぽいの着て来てよね」
らんまはルイズと離れ、ひとまず使用人の控え室らしきところへ入り込んだ。

「あら、ランマさん。どうしました?」
「あ、シエスタさん。ええ、かくかくしかじかで」
「じゃあ、こちらで朝食をご一緒しません? 使用人の皆さんにも伝えなきゃ」

まかないの朝食を、厨房で使用人の人たちと一緒に食べた。結構旨い。四方山話に花が咲き、結構この世界の情報も手に入った。言葉が通じるってのは便利だな。しかし使い魔らしい服と言っても、黒いマントでも羽織れってのか? シエスタさんにそれっぽい大きなつば広の帽子と古外套を貰い、纏ってみる。魔女のコスプレじゃねーか。これなら黒いボンテージを着て、角と牙とコウモリの翼と尻尾をつけた方が、『使い魔らしい』かもな。

「ランマー! どこにいるのー?」
「あっ、いけね。じゃあ、ご主人様が呼んでいるので、これで」
「はい、それじゃあ。昼と夕方にもまかないがありますから、良ければいらしてね」

教室に集まると、生徒のメイジどもが、召喚した使い魔をぞろぞろ連れていた。キュルケのサラマンダーに、フクロウ、ヘビ、カラス……げっ、眠っているが猫がいやがる。目を合わせねぇようにしとこっと。騒ぎを起こすとやべぇし。

「……おい、アレはなんでい。トカゲみたいなのに、目玉に、蛸人魚に……」
「6本足のトカゲはバシリスク。目玉はバグベアー。蛸人魚はスキュアよ。すごいわ、風竜やマンティコアもいる。さすがに人間の使い魔はいないわね……ところでそれ、なんの扮装なの?」
「メイドさんに借りたんだ。ホウキを持てば、立派な魔女だな」

貴族は椅子と机があるが、使い魔は床だそうだ。ま、いいけどよ。ああこら、なつくな騒ぐな使い魔どもっ。あそこで眠っている猫が、目を覚ましちまうじゃねーかっ。

「皆さん、使い魔召喚おめでとう! 随分変わった使い魔を呼んだ人も、いるようですが……。おや、ミスタ・ギーシュ・ド・グラモンはさっそく欠席ですか?」
「医務室でーす。また痴漢してぶっ飛ばされてましたー」
『赤土』のシュヴルーズという、太ったおばさんの先生が授業を始める。
魔法には四つの系統があって、もう一つ失われた系統があって、云々かんぬん。

……ダメだ、眠い。どーしても授業なんか出ると眠たくなっちまう。厨房からガメてきたパンとチーズでもこっそり食べてよう。どーせ俺、魔法なんて使えねーし。
「こらランマ、何を食べてんのよっ。大人しく座っていなさいっ」
「ミス・ヴァリエール! じゃあ、貴女にこの石を『錬金』してもらいましょうか」

…………は? おいおい先生、ルイズは爆発しか起こせねーんだぜ。
「先生! 危険です、彼女に魔法を使わせないで下さい! 『ゼロ』のルイズの事を知らないんですか!?」
「うっさいわね、『風邪っぴき』のマリコルヌ! 使い魔召喚だって成功したんだし、これからの私は一味違うんだからっ! 見てなさい、『錬金』を成功させてやる!」
「おおおおい、やめとけよご主人様。危ねぇって」
「先生! 私、やりますっ」

その場の全員に悪寒が走った。あかねが料理を作ると言い出した時の空気だ。絶対やばい、隠れていよう。総員速やかに退避する。……ん、なぁんか忘れてるよーな気が。

ちゅっどどどどどーーーーーーーーん!!

ルイズの魔法は当然失敗し、教壇を中心に大爆発が起きた。使い魔たちは興奮して暴れ回り、あの悪魔が眠りから目覚めた。そいつはなぜかまっしぐらに、俺に向かってくるっ!!

「っっっぎゃあーーーーーーーーーーーーっ、ね゛こーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」

らんまは可愛い猫に抱きつかれ、絶叫して教室内を逃げ惑った。昔無数の猫に襲われて以来、猫は大の苦手なのだ。

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