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【AZアーカイブ】つかいま1/2 第六話 土くれのフーケ

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「乱馬が消えて、10日を過ぎた……手がかりは、コロンおばあちゃんの話だけ……。秋葉原にも現れた 『異世界の鏡』が乱馬をさらったかも、なんて。だけどそんな、雲を掴むような……」

地球は日本国東京都練馬区、天道家茶の間。早乙女乱馬の許婚・天道あかねは、うなだれていた。もう一人の許婚・久遠寺右京も来ている。
「まぁ乱ちゃんのことや、きっとひょっこり帰ってくるて。人事を尽くして天命を待つ、や。乱ちゃんの分の宿題は、うちらでやっとこ」
「あーあ、せっかくの休日なのに。……お父さんたち、大丈夫かしら」

その頃、東京都千代田区から台東区にかけて広がる商店街では。
「さっ、早乙女くん。ここが噂のアキバだよ!」(ザンッ)
「うむ、天道くん。世界に冠たる電気街にして、オタクの聖地! あのでっかいのがヨドバシカメラだな。『鏡』とやらが現れたのは、どこなのだ?」

天道早雲と早乙女玄馬は、乱馬失踪事件の手がかりを求めて秋葉原に来ていた。二人とも和服のアナログ親父なので、似つかわしくないことおびただしい。
「なびきがたまに来るそうだが……神田神保町の古書店街では、よく武術書を立ち読みしたものよ」
「まぁ天道くん、ひとまずお茶にしようではないか」

二人はメイド喫茶に入り、コスプレ衣装を見て回り、フィギュア製作に挑戦し、同人誌やポスターを買い込み、電化製品の進歩に驚く。
「ほー。」
「ふーむ。」
「おお、天道くん! これを見たまえ」
「いやいや早乙女くん、むしろこっちの方がっ」

そして夕方になった。二人の背中と両手には、沢山の荷物がある。
「……早乙女くん、私ら何しに来たんだっけ?」(どっさり)
「ぱふぉ」《忘れた》
なぜか玄馬がパンダになっている。こいつらに任せてもしょうがない。

一方、ハルケギニアのトリステイン魔法学院では。

「はっ……(ぱち)」
「ああ、起きたのねランマ。お疲れ様」

ここは……ルイズの部屋、か。……ああそっか、ギーシュの馬鹿と決闘して、最後にしびれ薬くらったんだっけ。それでも勝ったけど、あの野郎は九能の化身か? タチ悪ぃなー。

「あんた、2日ほども寝ていたのよ。もう決闘の次の日の夜」
「そっかぁ。まあ充分休養はとったし、明日からいつもどおりだぜ。心配かけてすまねぇな。皆に俺の体質がばれたから、もう隠す必要もねぇし」

『らんま』が笑う。一応こっちでは「お湯を被ると男になる女」として通している。本当は「水を被ると女になる男」なのだが。

「あんた、やっぱり強いのね。ワルキューレが手も足も出なかったじゃない! ああ見えて、平民の傭兵数人と互角に戦えるぐらい強いのよ、あれって」
「へへへ、鍛えてるからな。それに、この左手の甲にある文字みてーなのが、武器を持つとぼうっと光って、いつも以上に体がよく動くんだ」
「ふーん、使い魔としての特典かしらね。普通は動物が召喚されるんだけど、契約すると人間の言葉が話せるようになったりするもの。人間が召喚された例は知らないし」

なるほど、便利だな。武器がねぇと効果ないんだが、俺は元々強いしな。鬼に金棒ってやつか、へへへん。……けど、いつまでもここにいるってわけにもいかねぇ。日本に、天道家に帰んなきゃな。もう10日以上こっちにいるし、皆心配しているはずだ。連絡が取れるだけでもいい。

「なあルイズ。前も言ったが、俺はいずれ帰らなくちゃならねぇ。待ってる奴らが沢山いるんだ。必ず方法を見つけて、遅くとも数ヶ月以内に絶対帰るからな」
「そう。まぁ使い魔はメイジの能力証明みたいなもんだけど、使い魔を持たない主義のメイジや、使い魔を失ったメイジもいるわよ。貴族の位を失う方が、よっぽど辛いわ。……ま、送還方法も調べましょう。おやすみランマ」

同時刻、学院の宝物庫前。黒いローブの女がいた。

「ここの鍵を、オールド・オスマンが自分の懐中に持っていたとはねぇ。ぶっ飛ばしたときに落としたようだけど、目ざとく拾っておいてよかったわ。下調べも充分だし、今日こそ魔剣『デルフリンガー』、いただきよっ!」

大きな扉はダミー。その下の小さな、人一人通れるほどの扉を鍵で開ける。
魔法によるトラップを、慎重に『錬金』などで潰し、宝物庫の奥に侵入するのはミス・ロングビル。いや、彼女は土のトライアングルメイジ、怪盗『土くれ』のフーケである。

「……よおし、これだね。台座にデルフリンガーと名前が彫り付けてある。錆びついているけど『ディティクト・マジック(魔力探知)』に反応するし。ははっ、案外簡単だったね! ざまぁみやがれ、ボンクラ貴族ども!!」

と、剣がいきなり喋った。
『おいこら、盗賊! おでれーたな、ここに入って来れるなんてよ!』
「……おでれーたのはこっちよ、あんた喋れるの? インテリジェンス・ソードだったのね」
『まーな。おいらを盗もうってのか?』
「その通りよ。私は怪盗『土くれ』のフーケ、貴族のお宝を盗み出すのが生きがいだもの。こんなところで錆び付いているあんたを、外の世界に連れ出してあげようっていうのよ。何か文句でもあるの? あればこの『魔封じの札』で強制的に黙らせるけど」

フーケは堂々と脅す。デルフリンガーはしばし黙り、再び口を開く。

『……そうだな、そろそろ退屈していたところでえ。時が来たんだろ、勝手に持っていきな』
「あら、ありがと。そんじゃあ行きましょうか、デルフリンガー!」

フーケは自らが参上した証として犯行声明を残し、ひらりと闇の中へ消えた。

その頃、当直のミセス・シュヴルーズは……。コルベールの使い魔『コタツネコ』のコタツから離れられなくなっていた。げに恐るべし、コタツの魔力。

翌朝。ルイズとらんまが学院を歩いていると、なにやら内部が騒がしい。

「何かしら? 先生たちもあたふたしてるし」
「さあな……ああシエスタさん、何の騒ぎですか?」
「あら、お早うございます、ミス・ヴァリエールにランマさん。お元気そうでよかったわ。ええ、昨夜盗賊が学院に侵入して、宝物庫に納められていた秘宝を盗んだんですって! それで今、緊急対策会議が開かれていますの。きっと授業はお休みですわ」
シエスタはお盆を持っている。お茶汲みか。

「ふーん……盗賊って、ひょっとして噂の『土くれ』のフーケかしら?」
「ええ、犯行声明も残されていたそうで。何を盗んだのか、私は知りませんが……」
ぱたぱたとシエスタは、厨房へ駆けていった。

ルイズは、拳を握る。
「……これは、トリステイン魔法学院の信頼に関わるわね。メイジだらけで防御も堅いのが、この学院の安全神話を支えていたのに。まぁ、学院長はアレだけど」
「学院長って、どんな奴だっけ? 俺のいた学校でも、校長は変態だったぞ」
ルイズは『学校』と聞いて、変な顔をする。

「平民のくせに学校へ行っているなんて、『東方』はすごいのね。あんたが特別なの? うちの学院長はオールド・オスマンって言って、数百年生きている妖怪みたいなじじいよ。セクハラや下着泥棒でちょくちょく捕まってるけど、なぜか数日で戻ってくるわ。弟子も多いし、王宮の高官たちの弱みでも握っているのかしら……」

それって、八宝斎のじじいじゃねーか。何なんだこの学院、大丈夫か?

「でも、フーケはきっと『トライアングル』クラスの土メイジよ。先生たちも確かに実力はあるけれど、実戦ではどうなのかしら? 果たして敵うかどうか……」
「……なぁ、フーケって奴を捜してみるか? 俺たちでさ」
「ん、いいわね。私の不名誉な二つ名も、返上できるかも。ランマがいれば、きっと勝てるわ!」

ルイズとらんまは本塔の学院長室に入り、フーケ捜索隊に志願する。だがオールド・オスマンは、その申し出をやんわりと拒んだ。

「いやいや、女子生徒を参加させて危険な目に遭わせては、それこそ学院の信頼に関わるでの」
「俺は生徒じゃねえよ。それに、そこの先生方も、捜索にゃ尻込みしてんだろ? ギーシュを倒した俺の強さは知ってのとおりだし、3日もありゃあフーケを見つけてやるって」

オールド・オスマンやミス・ロングビルは、眉根を寄せる。知っての通りといわれても、直接ギーシュとの決闘を見たわけではないし、同じ土メイジでもドットのギーシュとトライアングルのフーケでは大違いだ。コルベールは黙っているし、教師連中もざわつくばかり。

(……それに、聞けばこのランマって小娘は『ガンダールヴ』らしいからね。敵に回すのも何だけど、あまり目障りなようなら、誘き出して始末しちまおうかしら)

ロングビル(フーケ)が物騒なことを考えていると、もう二人の女子生徒が入室する。
「あら、彼女たちが行くなら、このキュルケも参加しますわ」
「私も」

赤い髪の豊満な美女と、青い髪の小柄な少女。あまりに対称的だが、彼女たちは親友だ。
「キュルケ! タバサ! あんたたちも!?」
「タバサの使い魔『シルフィード』がいれば、捜索範囲も広がりますわ。たとえフーケが亡命を目論んでいても、追いつけますでしょ? ねぇ、学院長?」
オールド・オスマンはキュルケに色目を使われ、鼻の下を伸ばす。

「うーむ、かわいこちゃんの頼みは断りきれんのぅ。分かった分かった、ただし危険な真似はせんでくれい。わしが行くわけにもいかんし、秘書のミス・ロングビルについていってもらおう」
「……承知しましたわ、オールド・オスマン学院長」
「「我らが杖にかけて、盗賊を捕らえます!!」」

(けっ、なめやがって生意気な小娘どもが。この『土くれ』が、まとめて始末してやろうじゃないのさ!)

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