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Utilityな存在。XTC

『ロックを幅広く聴きますが…ビートルズが1番好きで…』と僕が答えると、
『えっ?この人、素人さん?』
みたいな反応を示されることがあります。

まだ親しくない相手と音楽話を始めたときです。

そんなときは、
『いやいや、ビートルズは奥が深いんです。だから、脳天気に聴いてるだけじゃなくて真面目な分析もしてますよ』
ということを、さり気なく且つ的確に伝えなければいけません。

そこで大活躍するのが、XTCです。

ここからはXTC愛を語ります。
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『XTCは何がスゴイ?』

English Settlement 1982年 当時

XTCはそれほどメジャーなバンドではありません。
しかしながら、彼等の作曲力、演奏力、ボーカルの上手さ、シングル収録曲のクオリティ、変名サイケデリックバンド(The Three Wise MenとThe Dukes Of Stratosphear)を作るユーモアなど…そのポテンシャルは半端なく、非常に玄人受けするバンドです。
ミュージシャンからの評価も高く、本国UKでも、アメリカでも、日本でも『XTCが好きです』はお互いの関係性を一瞬にして親密にする『魔法の言葉』だと思ってます。

XTCはコンポーザーでリードボーカルでリードギタリストのAndy Partridgeを中心にエキセントリックで少しPunkishなロックバンドとして1977年にデビューしました。

彼等が只者じゃないなと感じたのは、2ndアルバム「Go2」(1978)の初回プレスに付いていた「Go+」を知ったときです。Dubミックス5曲入りの12”EP です。
Dubと言ってもレゲエの手法とは違い、
原曲を完全にぶっ壊して再構築(曲名も歌詞も変えてます)する感じで、異質というかエキセントリックな内容は尋常じゃないです。White Dubなんて言われてましたね。

Dubとは関係ないですがCaptain Beefheartの「Trout Mask Replica」を聴いたときの「こんなもん誰が聴くんじゃ!」的な感覚(怒り、やるせなさ、後悔、自己嫌悪、でもポジティブ)に似ていて、そんな代物を堂々と作ってしまうXTCには脱帽でした。
(因みに「Trout Mask Replica」は何度聴いてもジャケットデザイン以外に良さが解りません。)

12inch single  Go+ (1978)

さらに翌々年、Andyは同じコンセプトのDubソロアルバム「Take Away」 をMr. Partridge名義でリリースするほどの変人。
このアルバムもかなり取っ付きにくい内容でAndy好きじゃなければ聴くのが辛いかもしれません。

ステッカーの文言 “DO NOT PAY MORE THAN £3.99 FOR THIS RECORD” が実に気が利いてます。

Take Away (1980)

彼の頭の中にあるDubはこんな感じです。
・原曲:Heliicopter (Drums&Wires収録)
・Dub mix:Steam Fist Futurist

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さて、バンドの話に戻ります。
2ndアルバムリリース後にキーボードのBarry Andrewsが脱退し(後にRobert FrippのThe League Of Gentlemenに加入)、代わってギタリストのDave Gregory が加入します(Andyに負けずオタクな職人系ギタリストです。)。
これを機にXTCは益々マニアックなギターバンドにシフトします。
ギターに集中して聴くと凝ったコードやフレーズにグイグイ引き込まれます。
因みにColin Mouldingの弾くベースラインもかなりユニークで面白いです。後にDavid GilmourからPink Floydに誘われたこともあるようです。


そして3rdから5thアルバムをリリースした1979年から1982年の時期がバンドとしての黄金期で、僕が最も好きな時期です。

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まずは3rdアルバム「Drums And Wires 」(1979)。

3rd   Drums And Wires (1979)

デザインが最高ですよね。モチーフとなったAndyの顔はインパクトあります。因みに丸メガネはAndyにサインを貰ったときのイタズラ描き。
プロデュースがSteve Lilliwhiteに変わって、ドラムの音処理がパワフルになりました。Colinの曲のクオリティも高くなり、シングルの「Making Plans For Nigel」や「Life Begins At The Hop」がヒットしたことで
XTCも少し有名になったかな?

ギターの絡みが独特でカッコいい
「Real By Reel」を聴いてください。
右チャネルから聞こえるギターのカッティング(おそらくAndy)が普通じゃなくて病み付きになります。
そして極め付けがJazz風のギターソロ。こちらはDaveと思いますがこの曲調にこのトーンでこのフレーズ⁉︎ …抜群のセンスです。
こういうところが彼等がメジャーになれなくてもファンから高い評価を受ける理由ですね。

このアルバムはUK盤とUS盤で収録曲が1曲違います。

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続いて1980年リリースされた4作目「Black Sea」- 正にthe greatestです。

4th   Black Sea (1980)

僕の音楽人生を一変させた驚異のアルバムです。
高校生のとき、渋谷陽一氏のラジオ番組で新譜紹介されたこのアルバムを聴きました。
インパクトのある曲、アグレッシブなギター、ゲーテッド・リバーブを効かせたドラム。全てが衝撃的でした。
前作は初期XTCからSteve Lilliwhite & Hugh Padgham体制への過渡期のアルバムでしたが、このアルバムはLilliwhite & Padgham体制の良さが見事に具現化した硬質なPower Popアルバムになっています。
見捨て曲が無いというのも素晴らしい。

「Black Sea」については、別の機会に、曲、ジャケットデザインなどの話をするつもりです。

ここでは「Paper and Iron (Notes and Coins)」を選びました。
イントロからギターが3本絡みます。ドラム、ユニークなベースが入り、続いてメロディもヒートアップしていきます。これぞXTCサウンド!
圧が凄いです。彼等の全アルバム中でも1番サウンド圧を感じるアルバムですが、その中でもトップの曲圧です。

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『黄金期3部作』最後の5thアルバム「English Settlement 」(1982)です。
このアルバムにもAndyのイタズラ書きがあります。

5th  English Settlement (1982)

前作までエンジニアだったHugh Padghamがプロデューサーとなった作品。
前作のアグレッシブさと新たなアコースティックサウンドが絶妙に調和した全15曲の2枚組アルバムです。
積極的にアコギ、12弦エレクトリックギター、フレットレスベースを使用したことで、サウンド面の幅が広がっています。
アルバムタイトルもそうですが、靄がかかった森の中のような音色がイギリスのバンドらしいなぁと思います。

このアルバムからはUKチャートで初で唯一のTop10シングル「Senses Working Overtime」が生まれました。
やっとです。信じられない。
XTCって本当に過小評価されるバンドなんです。

シングルと言えば、この頃は多作時代でもあり、7” シングルと12”シングルを同時リリースすることも多く、収録曲も興味深いモノだした。

例えば「Ball And Chain」の収録曲は、
▶︎7” シングル
sideA: ①Ball And Chain
sideB: ①Punch And Judy / ②Heaven Is Paved With Broken Glass
▶︎12” シングル
sideA ①Ball And Chain / ②Heaven Is Paved With Broken Glass
sideB ①Punch And Judy / ②Cockpit Dance Mixture
となってます。

Ball And Chain 12”, 7”

「Punch And Judy」と「Heaven Is Paved With Broken Glass」はアルバム未収録曲でかなりの名曲です。
「Cockpit Dance Mixture」はアルバム収録曲「Down With The Cockpit」のリミックスバージョン。
しかも「Heaven Is Paved With Broken Glass」は7”と12”のミックスが大きく違うという凝りよう。どちらも味があって甲乙つけ難いです。

他のシングルも同様でB面曲はアルバム未収録曲で名曲が多いので、もう少しアルバムに収録して欲しかったですね。

そうは言っても、UK以外では10曲入りの1枚に編集している国もあるので、レコード会社は売れないアルバムと評価していたのでしょう。
悲しいことにアメリカや日本がそうです。

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さて、僕が思うところの『黄金期』の後ですが…

English Settlementツアー中にAndyがstage frightになったため、その後はライブ活動を行えずスタジオワークに専念するようになります。
これはかなりショックでした。
1979年の来日公演を観ていないので、「Black Sea」「English Settlement」時代のアグレッシブなライブを観たかったです。

そんな災難もあり、1983年の6thアルバム「Mummer」制作中にライブ志向が強かったオリジナルドラマーTerry Chambersが脱退。
その後はドラマーを固定せず、ビートルズのように凝りに凝ったスタジオワークに没頭していきます。

1984年「The Big Express」
1986年「Skylarking」
1989年「Oranges & Lemons」
1992年「Nonsuch」
の時期は、これぞBritish Pop(英国風箱庭ポップという可笑しな例えをされますが…)といったワクワク感満載のアルバムが続きます。AndyとColinの曲作りやDaveのアレンジにも益々磨きがかかっていきました。

今思うとライブ感が薄れて少し過剰なアレンジのようにも感じますが。
でも「本当に60年代、Psychedelicなサウンドが好きなんだな」と感じます。

これまで才能がありながらもヒットに恵まれなかったXTCですが、「Skylarking」のシングル「Grass」のB面曲「Dear God」が何故かアメリカのカレッジチャートでチャートインし、XTCが再評価されることになりました。
ファンとして喜ばしいことです。 
そのため、アメリカ盤「Skylarking」は「Another Satelite」が「Dear God」に差し替えられました。

因みにこのシングルの12インチ盤は、
A面 :Grass  
B面: Extrovert / Dear God
ですが、このB面2曲は最強のB面曲と思ってます。

その後は、バンドとしてのアルバムはペースダウンし、1999年と2000年の「Apple Venus vol. 1&2」を最後に現在に至ってます。

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さて、一般受けがイマイチなXTCですが、玄人受けする理由の一つに多くの有名プロデューサー、エンジニアと仕事をしていることがあります(全てが適任だったかどうかは疑問ですが)。

John Lekkie
Steve Lilliwhite
Hugh Padgham
Steve Nye
Bob Sargeant
David Lord
Todd Rundgren
Paul Fox
Gus Dudgeon
Haydn Bendall
Nick Davis

この名前を見て『おっ‼︎』と思う方は、
XTCを正しく評価できる方だと思います。

プロデューサーがアーティストからのオファーを全て受けているとは思えません。
有名プロデューサーなら尚更のこと、アーティストを選ぶのではないでしょうか。
だから、これ程の有名人が名を連ねているのを見ると、XTCが魅力的なアーティストであることの証だと思います。

しかし、デビュー当時ならいざ知らず、経験を積んだ強者XTCが、わざわざ他人にプロデュースを依頼する必要があったのかどうか…。不思議なんですよね。
それでもTodd Rundgren、Gus Dudgeonの名前を見た時はワクワクしたなあ…

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▫️オマケは変名バンド

▶︎The Three Wise Men名義でクリスマスソングをリリースしています。
Colinが作ったスーパーポップチューン「Thanks For Christmas」とAndyのダンスナンバー「Countdown To Chrismas Party Time」のカップリング。
どちらも気合いが入ってます。

Thanks For Christmas
- The Three Wise Men(1983)


▶︎60年代のサイケバンドを想定した
The Dukes Of Stratosphear名義で
ミニアルバム「25 O’clock」
フルアルバム「PSONIC PSUNSPOT」
の2枚をリリースしています。
特に「25 O’clock」にはハマってサイケデリックロックを再認識しました。

25 O’Clock - The Dukes Of Stratosphear(1985)

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好き勝手に書いてきましたが、XTCというバンドの良さを少しはご理解いただけましたでしょうか?

『僕はロックが好きで…結構幅広く聴いてますが…ビートルズが1番好きで…
でも次に好きなのがXTCなんです。XTCって知ってますか?』
次の瞬間、貴方のホッとした表情と口角が僅かに上がるのを見ました。


#洋楽ロック #ビートルズ #XTC #レコード

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