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住所不定無職日記15日目 友人と遊ぶだけの話

 共同生活のいいところは、誰かの生活スタイルを無視できないところだ。1時に薬を飲んで眠り込んでいたが、8時半に中国人留学生の女の子が電気をつけてくれて強制的に目が覚める。この子は23時前に勝手に消灯もしてくれるので、リズムが乱れがちな私の生活に良い影響を与えてくれる。つくづく誰かと暮らした方が絶対に自分には合っているなと感じる。
 洗面所で顔を合わせ、部屋が寒いという話で盛り上がる。温かい日が続いたからか暖房が切られてしまい、夜はシルクの保温シーツにウルトラライトダウンを着込んでも布団から出た顔が寒い。暖房代ケチってた一人暮らしの頃よくこんな生活してたなと思い出す。中国人留学生は「フロントに言ってきます!」と言って、私がシャワにー入ってる間に掛け合ってくれて上がったら暖房がついていた。ありがたいと思いつつ、この子が来る何日か前から我慢していて、言えばすぐなんとかなることを解決しないんだよな私はと反省した。朝食にアボガドを切ってトーストにのせて食べた。

 担当さんから依頼と原稿の確認の連絡が来ていた。例の365ヶ所修正された記事について、取材相手の確認OKが出たことと文章を誉めていたことを伝えられる。あれだけ直された記事をもう自分の書いたものと思えないから、その言葉をどう受け取っていいのか分からない。タイミングよく半年ぶりに都内に住む同業の兄から連絡が来た。家から出た話はそこそこ、記事の書き方と取材の仕方について聞く。真面目な返答がつらつら返ってくる。この人はいい人だけど昔から話があまり面白くない。

 
 早々と午後は暖房の効いたベッドで過ごすことにして、ジャンププラスで藤本タツキの読み切りと「タコピーの原罪」の作者の過去の読み切りを読む。どっちも良かった。
 この日記を書き始めた当初、やはり現実的にお金もなくて家族ともうまく行ってなくて仕事もないのはきついけれど、「まぁなんとかなるしょ」と思ってせっかくだから面白おかしく書き残しておこうと思っていた。実際ホステル暮らしは快適で楽しい。楽天的に状況を楽しめて、目を背けたいことを飄々と乗りこなしてみせたい自分がいる。友人や外の人と対面するときの自分は全てこちらの自分だ。実際に結果だけを見るとその気持ちの通りになってることも多いが。
 だけどライターの仕事が始まると、すっかり不安のはけ口になってしまった。(日記自体はもう何年もこんな感じで毎日エクセルに書いていて、不安になると昔から自傷的な自己批判が止められなくなり、文章量もえらいことになる)。過去の辛い出来事と今がすぐリンクして感情が溢れて収拾つかなくなる。これも私だから仕方がないんだけど。誰だってスネに傷くらいあるんだから全部忘れてしまえればいいのにな。そう思ってKindleで自己催眠の本を調べたら、おすすめがエロい催眠術の本ばかりになってしまい困惑する。
 仕事で書いていることや割と色々考えるような出来事が発生することもあってこの15日間でテンションやノリや書き方がブレまくっている感じがする。終わるころには一定のテンションになっているのだろうか。

 お昼にご飯のパックをチンして昨日のデパ地下惣菜を乗せて食べる。やっぱ味付けが甘すぎる。なんとなく天気もいいし外に出たくなったけれど、宿の入り口がカレー屋と共用なので、この時間に降りるとマジで住所不定無職で仕事しないで引きこもってたやつが起きてきた感が増すからあまり動きたくない。ダラダラと漫画を読んだり、Twitterで見つけた知らない人の日記を読みながら原稿の修正点を確認し、再稿を出す。担当さんとは3月末からやりとりをしているが、本当にメールがうまい。伝えにくいことを柔らかく伝えるのがとてもうまい。こんなに返信しやすいメールがあるのだなと深く考えてしまう。

 原稿や次の取材のやりとりをしていると、仕事帰りの友達がカレー屋に着き、自分の家のように下に降りて案内する。友達と会うのは3月末以来だった。カレーを食べながら近況を話し、混んできたので食べ終わると駅まで歩く。TUTAYAの漫画レンタルコーナーで棚を移動しながら知っている漫画について語り合う。私も友人も期間限定の無料キャンペーンにありそうな漫画はかなりチェックしているので、どの棚に行ってもどちらかが感想を話せるのが楽しい。福祉系の会社に勤める友人は恋愛ものと医療や社会問題系の漫画が強く、私は青年漫画や話題になっている漫画に強く、学生時代に共通に読んでいた漫画の話やこれから読みたい漫画の話で1時間ほどTUTAYAをうろつく。その後ダイソーで雑貨を買うのに付き合い、ここでも商品の一点一点に突っ込んでいき、気がつけば閉店になる。友人は手洗いで洗濯する生活を憐れんで、一人暮らしには大きすぎるドラム式洗濯機で私の分の洗濯物も洗ってくれると申し出てくれた。急遽洗濯物を友人の家まで持っていくことに。道中で何故かスタバを奢ってくれる(この子と会うとどうしてかスタバを奢ってもらうことが多い)。
 20分ほどの移動中に私が気になっているTwitterのアカウントについて話し、相手からは恋人との様子を聞く。友人には結婚を予定している恋人がいるが、うまくいっているのかいないのかいつも微妙な感じで、とりあえず結婚は未定になっていた。友人の家にそのまま上がり込み、トゲトゲしたローラーみたいな物を使ったふくらはぎの筋膜リリースの仕方を教わる。普段使わない場所に負荷が掛かって叫んでしまう。最近ダイエットを始めたけれど、アイスを大量に購入して消費できていないと言うから(マルチパックの他にもいっぱいのアイスがあった)ハーゲンダッツもご馳走になる。その間中、いかに友人と恋人が同棲するよりも我々2人が同棲した方がうまく行くかという事を何度も話し合った。
 友人は少し潔癖で片付けと洗濯が得意で、私は料理が得意だ。付き合いは10年を超えてお互いの好きなものや避けたい話題が自然とわかる。私は友人が好きだ。コツコツと丁寧に物事を進める姿や、仲良くなったきっかけのバンドを10年以上経った今も応援してフットワーク軽くライブに行くところが好きだ。他人の支援につながる仕事がしたいと資格を活かした職種につき、いつも苦手な分野の仕事を悩みながらこなす様子を尊敬している。友人の方も同じように好いてくれるのを感じるし、割に堅実な生き方をしているからかいつもぶっ飛んだ私を心配しつつ見守ってくれる。私が良いと言った漫画や本や食べ物のセンスを毎回本当に信じてくれて、誘いにいつでも乗ってくれる。割れ蓋に閉じ蓋というのがあるならばこの人のことだろうと感じる。私は引っ越し魔でよく遠く離れたこともあったけれど、どれだけ会わない期間が合ってもこの人と一緒にいる時の自分が何より好きだと感じる。そのことがとても嬉しかった。

 世話好きな友人はその後ももう着ない服を試着させてくれて合いそうなのをくれたり、食べきれないお菓子や紅茶、使わない試供品のあれこれなどを紙袋いっぱいに持たせてくれて、一度玄関を出かけてから肌の悩みに効くクリームを貸してくれた。明後日洗濯物を受け取りにくることを約束して、家を出るが、お互い遊んで別れた後の寂しさに耐えられなくてまた結構な位置まで送り返される。何度か振り返って手を振って22時過ぎに別れた。

 帰り道でもし次に誰かと付き合うのなら友人のような人がいいと思った。交際経験は多くないのだが、いつも相手に合わせて疲れてしまうことが多かった。他人との関係の中に不安を感じないことなどないのだけれど、とりわけ「異性」の前では常に緊張が解けなくて今でも苦しい。恋愛となるとさらに苦痛が多く、食事をご馳走になったり、会うことを楽しみにされたりするともう疲れてしまう。相手の好む様子に自分を合わせるのは新しい自分を感じて楽しくもあるけれど、自分をよく見せるのに抵抗があるから化粧もあまりしたくないし、服装もシンプルなものがいい。知らない場所を散歩をしながら、なんでもない景色について話し合える人がいいなと考えたりした。

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