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サインを書き足しておくこと

細野晴臣がある本で、音楽におけるオリジナリティについて以下のようなことを書いていた。記憶の細部はあいまいなので、おおむねの所で読んでほしい。日々、あらゆる時代のあらゆる種類の音楽を聴いてきた細野青年だが、ある日『これは自分しかやっていない、自分が新しく作り出したリズムだ』というリズムパターンを思いついた。しかし数年後、そのリズムは自分が昔聴いたとあるポップスの中に出てくるリズムパターンである事に気づいた。さらにその数年後、このパターンと非常によく似たリズムが、ある地域の民族音楽の中にある事を発見した。

もうどこにも、新しい音楽などないのだと分かった細野晴臣にとって、しかしそれは諦めや虚しさではなく、はるか昔から受け継がれてきた一定のメロディやリズムを次の世代にパスすること、そしてその際に、先人らのそれに混じって自分のサインをそこに書き足しておくこと、それこそが音楽を作る楽しみなのだと気づいた、という話。

すごく昔から好きなエピソードなのだが、音楽に限らず、あらゆる人の営み、生きていくという事はそう言ったものなのかも知れない、と最近よく思う。田島貴男が新作についてのインタビューで『若い頃は、人は死んだらそれまでだっていう気持ちがどこかにあった。でも今は、遺された人たちの心に残ったものまで含めて、その人の人生なんだと思う』というような事を言っていて、このひと月くらいずっとそのことを考えている。

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